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第2章

第2話

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 国王は全身にひどい火傷を負い、生死の境を彷徨ったものの、一命はとりとめた。
 ただもはや以前のようには戻れないだろうと、譲位を決めた。

 国王となったダズバーンの隣には、ジュリエンヌ。
 十二番目の側妃は六番目に繰り上がり、そして王妃になったのだ。

 正妃は火事と共にこの王宮から消えた。

「よかったのですか?」

 燃え残った離宮に整えた執務室で、机に向かうダズバーンに訊ねればすぐに答えが返った。

「私のものにならないものなど、いらん」

「あら。無理矢理にでも手籠めにする方だと思っておりましたのに」

「子を成すのは王族の務めだからな」

 さらさらと署名を進めていくダズバーンに、ジュリエンヌは少しだけ首を傾げた。

「その義務をかさにきて好き放題の元殿下が、正妃様のお心を優先して我慢なさっておられたと? 信じられません。まさか、手もつけていらっしゃらないとか」

 ダズバーンは答えなかった。
 ジュリエンヌは目を見開き驚いた。

「まああ。意外なところもおありですのね、元殿下。正妃様は故郷に愛しい人を残してきたのだと風の噂で聞きましたが、まさか最初からその方に返してさしあげるつもりだったのですか」

「いや。いつか私のものにするつもりだった。時間がかかっても落とせばいいのだと思っていた。それもまた楽しかろうとな」

 さすが十三人も妃のいた男は違う。

「だが、落ちるどころかそばにも寄らせてくれんのだ。どうにもならんだろ」

 ダズバーンとジュリエンヌが火の手から逃げる時。
 通りがかった部屋で椅子に座ったままの正妃を無理矢理部屋から引っ張り出した。

『お見逃しください。私には生きる希望も何も残ってはおりません。どうか、このまま炎に焼かれてお役目を終わらせてください。そうしてロクサーヌ様か、ジュリエンヌ様を正妃となさってくださいませ。どうか……』

 涙も流さず、ただそう切々と訴えた正妃に、ダズバーンは『わかった』と返した。

『今、そなたは炎にまかれて死んだ。だから故郷へと帰り、誰ぞ守ってくれる者でも見つけてどこかへと逃げても、死んだ者はもう私には見えぬ』

 そう言って、護衛をつけて正妃を外へと逃がした。
 数日して戻って来た護衛は、無事正妃が国外へ逃げたと報告した。故郷で独り身のままでいた男と共に。

 正妃の護衛だった男は深々とダズバーンに頭を下げた。
 いくら火事から逃げるよう説得しても正妃は動かなかったのだそうだ。

「『死んだ魂がどこへ行こうと自由だ。私は何もしていない』ですか。初めて元殿下の言葉を詩的だと思いましたわ」

 詩など好んで読まないジュリエンヌだが、他に誉め言葉も知らない。

「なあ。その『元殿下』はやめんか。素直に陛下と呼べ」

「陛下という器ではないとご自分でおっしゃったのでしょうに」

「だが国王にはなったぞ」

「ハリボテのね。実質私が女王のようなものなのですから、私を陛下と呼んでくださってもかまいませんのよ? あなたはそうして私が目を通し選り抜いた書類に署名をするだけですし」

「いや。読んでも意味がわからんのだ。なぜサタリナの人工林を伐採する必要がある? 王宮を再建するための木材なら、以前と同じサダージョから輸入し、建築士も呼んで、同じように造ればよかろう」

「だから元殿下には任せておけないのです。この国が朽ちかけていたこれまでと同じやり方では傾くだけに決まっているではありませんの。頭を働かせなさいませ」
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