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第2章
第3話
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「これまでと同じではならんとは。具体的にどうするつもりだ。そもそもなぜサタリナなのだ。確か、あれは――」
「どこだっけと仰ったらしばきますわよ。八番目の元側妃様と共に実家へとお戻りになった六番目の元側妃様のおうちから没収した領地です。そこに人工林があるのですが、長らく人の手が入っておりません」
「ああ、思い出した。なぜあんな魅力もない領地を没収させたのかと思ったが」
やはり覚えていなかったようだが、想定内なのでジュリエンヌは黙殺した。
「あの林の真ん中に道を通します。ついでに隊商の中継点としたいので、真ん中辺りに開けた場所を作ります。次の町までが遠く、馬でもなければ野宿が必要な場所ですし、あそこは風が強いので防風林がわりとなって休憩に最適でしょうから」
「なるほど。これまで迂回していたのが林を突っ切れるようになれば早いし、今より流通も活発になるだろう」
「切り出した木は王宮の再建に使います」
ダズバーンはうむ、と頷いた。
「確かに一石二鳥だな」
「経済発展の邪魔になっているとわかっていながら、己の領地だと頑なに守るばかりで活用もできない愚か者に領地を任せきりだったのがいけないのです。そんな貴族と王族ばかりだからこの国が朽ちるようなことになるのです」
ただ保持しているだけでは金は生まれない。
持っているものをいかに活かすかだ。
考えればすぐにわかる簡単なことなのに。
持つ者が国を見ずに、王宮の中ばかりを見ていたからこうなったのだ。
「いやだからまだ朽ちては」
「ほとんど燃え落ちたではありませんか」
異議はないようだ。
署名を再開したダズバーンに、ジュリエンヌはため息を吐き出した。
「この国は輸入と輸出のバランスが悪いのです。建築士も、資材も、輸入に頼り過ぎなのです。もっと国民を働かせ、金を生ませないから廃れるのです」
「だが豪華絢爛な王宮は他国にもいいアピールになっていたではないか」
「中身がないアピールなど無用です。ハリボテが無用なのと同様に」
「なるほどな」
ハリボテは頷いた。
「ですから、この国の質のよい材木をアピールする造りにしていただきます。派手ではない、洗練された、見る人が見ればわかる品のよさこそ、国の頂点として相応しい」
「異論はないが。お前も以前の王宮の外観をあんなに気に入っていたのに、残念だな」
「ご存じでしたの?」
「ここに初めて来た時、ずっと見上げていただろう」
「……見られていたとは思いませんでしたわ」
「お前は遠くから見ても美しいからな」
キリッ。
としたが、ジュリエンヌはしばらく黙したまま返さなかった。
珍しい反応にダズバーンが驚いて顔を上げれば、ふいっとその顔を隠すようにそむけた。
「確かに私にこそ相応しい外観だと思いましたが。もう飽きました」
感情のない事務的な返答に小さく笑いを漏らし、ダズバーンは顔を書類に戻した。
「そうか。ガラリと雰囲気を変えるのもまたよかろう。好きにしていいぞ」
「あら。私に向かって好きにしていいだなんて、そんなこと言ってよろしいの?」
「言わんでも好きにするだろう? それにお前が傾国の美姫などではなく、救国の賢妃だと私は知っている」
ジュリエンヌは署名を続けるダズバーンをじっと見下ろした後、「殿下」とぽつりと呼びかけた。
「なんだ」
顔を上げないまま書類に目を落とすダズバーンに、ジュリエンヌはくるりと背を向けた。
「本当にお痩せになってくださいね。このままでは体によくありませんもの」
さすがにもうダズバーンは知っている。
ジュリエンヌはいつも見た目を揶揄するのではなく、健康を気にして痩せろと言っていることを。
「わかった」
この時初めてダズバーンは、はっきりとした答えを返した。
「どこだっけと仰ったらしばきますわよ。八番目の元側妃様と共に実家へとお戻りになった六番目の元側妃様のおうちから没収した領地です。そこに人工林があるのですが、長らく人の手が入っておりません」
「ああ、思い出した。なぜあんな魅力もない領地を没収させたのかと思ったが」
やはり覚えていなかったようだが、想定内なのでジュリエンヌは黙殺した。
「あの林の真ん中に道を通します。ついでに隊商の中継点としたいので、真ん中辺りに開けた場所を作ります。次の町までが遠く、馬でもなければ野宿が必要な場所ですし、あそこは風が強いので防風林がわりとなって休憩に最適でしょうから」
「なるほど。これまで迂回していたのが林を突っ切れるようになれば早いし、今より流通も活発になるだろう」
「切り出した木は王宮の再建に使います」
ダズバーンはうむ、と頷いた。
「確かに一石二鳥だな」
「経済発展の邪魔になっているとわかっていながら、己の領地だと頑なに守るばかりで活用もできない愚か者に領地を任せきりだったのがいけないのです。そんな貴族と王族ばかりだからこの国が朽ちるようなことになるのです」
ただ保持しているだけでは金は生まれない。
持っているものをいかに活かすかだ。
考えればすぐにわかる簡単なことなのに。
持つ者が国を見ずに、王宮の中ばかりを見ていたからこうなったのだ。
「いやだからまだ朽ちては」
「ほとんど燃え落ちたではありませんか」
異議はないようだ。
署名を再開したダズバーンに、ジュリエンヌはため息を吐き出した。
「この国は輸入と輸出のバランスが悪いのです。建築士も、資材も、輸入に頼り過ぎなのです。もっと国民を働かせ、金を生ませないから廃れるのです」
「だが豪華絢爛な王宮は他国にもいいアピールになっていたではないか」
「中身がないアピールなど無用です。ハリボテが無用なのと同様に」
「なるほどな」
ハリボテは頷いた。
「ですから、この国の質のよい材木をアピールする造りにしていただきます。派手ではない、洗練された、見る人が見ればわかる品のよさこそ、国の頂点として相応しい」
「異論はないが。お前も以前の王宮の外観をあんなに気に入っていたのに、残念だな」
「ご存じでしたの?」
「ここに初めて来た時、ずっと見上げていただろう」
「……見られていたとは思いませんでしたわ」
「お前は遠くから見ても美しいからな」
キリッ。
としたが、ジュリエンヌはしばらく黙したまま返さなかった。
珍しい反応にダズバーンが驚いて顔を上げれば、ふいっとその顔を隠すようにそむけた。
「確かに私にこそ相応しい外観だと思いましたが。もう飽きました」
感情のない事務的な返答に小さく笑いを漏らし、ダズバーンは顔を書類に戻した。
「そうか。ガラリと雰囲気を変えるのもまたよかろう。好きにしていいぞ」
「あら。私に向かって好きにしていいだなんて、そんなこと言ってよろしいの?」
「言わんでも好きにするだろう? それにお前が傾国の美姫などではなく、救国の賢妃だと私は知っている」
ジュリエンヌは署名を続けるダズバーンをじっと見下ろした後、「殿下」とぽつりと呼びかけた。
「なんだ」
顔を上げないまま書類に目を落とすダズバーンに、ジュリエンヌはくるりと背を向けた。
「本当にお痩せになってくださいね。このままでは体によくありませんもの」
さすがにもうダズバーンは知っている。
ジュリエンヌはいつも見た目を揶揄するのではなく、健康を気にして痩せろと言っていることを。
「わかった」
この時初めてダズバーンは、はっきりとした答えを返した。
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