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オリビア様、あなたは何がしたいのですか?
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「オリビア! 君という奴はまた性懲りもなく……!」
銀髪のイージスに睨まれながらも、オリビアは大きな胸の前で腕を組み、ふんとそっぽを向いて見せた。
「お姉さまが悪いのよ。何もかも」
「醜い嫉妬から、今度は何をしでかそうとしたんだ!」
「うるさいわね。そんなもの呑んだって、死にはしませんわ」
イージスは拳を震わせた。
「死にはしない、だと? アイリスをこんな目に遭わせておいてよくも……! アイリスは記憶を失ってしまったんだぞ!」
「知ってるわ、そこで聞いてましたもの」
「今そんな状態であるアイリス嬢にすら、君はこんな仕打ちを……!」
金髪のローレンスも眉をしかめオリビアをじっと見る。
そんな二人をアーノルドが宥めた。
「ローレンス様、イージス様。落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!」
「大丈夫です。お茶だと思ってうっかり飲んでも、『げっふぁ!!』と激しくむせてそこらへんを汚く汚す程度のことですよ」
やけにリアルなむせ方を再現する。
たぶん、ちょっと舐めたから今まさにそうなりそうだったのだろう。
「それ、なんなの?」
私が問えば、アーノルドは落ち着いて「レモン汁です」と答えた。
「レ…………レモ……?」
あー。
なるほど。それは迂闊に飲めば『げっふぁ!!』ってなるわ。
でも解せない。
何故そんなことを?
毒を盛ったのではなかったのか。
殺意はどこへ行った。
むせて器官に入って誤嚥性肺炎になって弱って死んでいくのを待っていたとしたら、相当歪んでいる。
「お姉さまなんて、激しくむせてそこら辺を汚してそちらの殿方たちに汚らわしいものを見る目で見られればよかったのよ」
なんてむごいことを考え付くのか。
彼女は稀代の悪女だ。
「まさか……そうして二人がアイリス様から離れていくよう仕向けるつもりだったのですね?」
アーノルドの声に、金髪も銀髪もはっと息を呑む。
しかしすぐにその顔を怒りに染めた。
「そのようなことでアイリス嬢を厭うことなどありません。見くびらないでいただきたい!」
「そうだ。多少 汚かろうと、拭けばよいだけだ」
うん、ちょっと発言に優劣の差が出て来たぞ。
銀髪は一歩後退だな。
はっ。
私、本当にこの二人から選べるつもりでいるのか?
明日までに、自分の一生を左右する人を?
いやいやいや、どうすんだこれ。
妹がしゃしゃり出てきて話が飛んだけど、事態は何も変わってないよね。
それどころか、この妹は今でも私の婚約を邪魔しようとしているわけで、こんな堂々としてるんだからその手がまだ緩むとも思えない。
オリビアは、そんな金と銀をふん、と鼻であしらった。何この妹、超強気。
「あなたたちなんて、お姉さまの事をよく知りもしないくせに」
私も知らないけどな。ここから私への罵詈雑言、侮辱の嵐が続くんだろう。大抵根も葉もないものとは決まってるけど、私のことは私も知りたいから黙って聞いた。
「お姉さまはね、そこらの殿方よりも成績は優秀ですし、幼い頃お遊びで嗜んでいた剣術だって、アーノルドに引けを取らないほどでしたのよ? 今では危険だからとアーノルドが剣を振るうことは許しませんけれど、本来ならあなたたちなんてコテンパンのぎったんぎったんよ!」
敵意もないのにぎったんぎったんにはしないけどね。
粗野だとか乱暴だとか言いたいのだろうが、この言い様でオリビアの思惑は成功してるのだろうか? あんまり蔑まれてる気がしない。
「それにお姉さまは学園に行けば様々な殿方から一身に注目を浴びるほどの見目麗しさで、あまりの高嶺の花ぶりに誰も声をかけないほど。愛らしい私とは正反対で、いつも孤独。それでいて、お姉さまに好意を寄せる殿方などごまんといるのです」
妹よ。
いよいよ話の方向性がわからない。
君は私を貶したいんじゃなかったのか。
持ち上げて落とすにしては、落とすのが些か遅くはないか。積み上げすぎではないか。
ちなみに私はまだ鏡を見ていないから自分の顔がどんななのかは知らない。
オリビアの独壇場は大詰めだった。
「そんなお姉さまがお嫁に行くなんて、この私が!! 許すはずがないのよ!!! お姉さまは私のものです! 行き遅れてずっとずっとこの家にいれば私がずっとお世話をしてあげるし、私がいつでもずっと傍で愛でてさしあげるわ。お姉さまには私がいればいいのです、婚約などどこまででも邪魔してさしあげますわ!!」
ええーー?
そっち?
戸惑う間もなく、オリビアは扉の外から一気にだっと部屋に駆け込むと、ベッドの上の私にがばりと抱きついた。
ぼいーん、と、オリビアの巨乳が私のスレンダーな体に弾んで当たる。
うん、姉妹だけど私たちは容姿も中身も正反対のようね。
「ああぁぁお姉さま痛い思いをさせてごめんなさい、これしか方法がなかったの。大けがをしてしばらく気を失っていれば、期限が過ぎて行き遅れてしまえると思ったのに。案外丈夫なんだもの」
やはりおまえか。
なんとなく身を引いてしまうような恐怖を覚えたのは、彼女から逃げていたことを体が覚えていたからに違いない。
「なんと……オリビア嬢は、その、そちらであったか」
「これは思わぬ伏兵だな」
金と銀もどう言ったらいいのかわからないというように口を噤んでしまった。
アーノルドはやれやれというようにため息を吐き、「怪我人ですよ」とオリビアをべりりと剥がした。
その様子を見るに、アーノルドはオリビアの真の企みを知っていたのだろう。
「さて。オリビア様は捕縛しておくとして、本題に戻りませんと。いかがいたしますか、アイリス様」
銀髪のイージスに睨まれながらも、オリビアは大きな胸の前で腕を組み、ふんとそっぽを向いて見せた。
「お姉さまが悪いのよ。何もかも」
「醜い嫉妬から、今度は何をしでかそうとしたんだ!」
「うるさいわね。そんなもの呑んだって、死にはしませんわ」
イージスは拳を震わせた。
「死にはしない、だと? アイリスをこんな目に遭わせておいてよくも……! アイリスは記憶を失ってしまったんだぞ!」
「知ってるわ、そこで聞いてましたもの」
「今そんな状態であるアイリス嬢にすら、君はこんな仕打ちを……!」
金髪のローレンスも眉をしかめオリビアをじっと見る。
そんな二人をアーノルドが宥めた。
「ローレンス様、イージス様。落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!」
「大丈夫です。お茶だと思ってうっかり飲んでも、『げっふぁ!!』と激しくむせてそこらへんを汚く汚す程度のことですよ」
やけにリアルなむせ方を再現する。
たぶん、ちょっと舐めたから今まさにそうなりそうだったのだろう。
「それ、なんなの?」
私が問えば、アーノルドは落ち着いて「レモン汁です」と答えた。
「レ…………レモ……?」
あー。
なるほど。それは迂闊に飲めば『げっふぁ!!』ってなるわ。
でも解せない。
何故そんなことを?
毒を盛ったのではなかったのか。
殺意はどこへ行った。
むせて器官に入って誤嚥性肺炎になって弱って死んでいくのを待っていたとしたら、相当歪んでいる。
「お姉さまなんて、激しくむせてそこら辺を汚してそちらの殿方たちに汚らわしいものを見る目で見られればよかったのよ」
なんてむごいことを考え付くのか。
彼女は稀代の悪女だ。
「まさか……そうして二人がアイリス様から離れていくよう仕向けるつもりだったのですね?」
アーノルドの声に、金髪も銀髪もはっと息を呑む。
しかしすぐにその顔を怒りに染めた。
「そのようなことでアイリス嬢を厭うことなどありません。見くびらないでいただきたい!」
「そうだ。多少 汚かろうと、拭けばよいだけだ」
うん、ちょっと発言に優劣の差が出て来たぞ。
銀髪は一歩後退だな。
はっ。
私、本当にこの二人から選べるつもりでいるのか?
明日までに、自分の一生を左右する人を?
いやいやいや、どうすんだこれ。
妹がしゃしゃり出てきて話が飛んだけど、事態は何も変わってないよね。
それどころか、この妹は今でも私の婚約を邪魔しようとしているわけで、こんな堂々としてるんだからその手がまだ緩むとも思えない。
オリビアは、そんな金と銀をふん、と鼻であしらった。何この妹、超強気。
「あなたたちなんて、お姉さまの事をよく知りもしないくせに」
私も知らないけどな。ここから私への罵詈雑言、侮辱の嵐が続くんだろう。大抵根も葉もないものとは決まってるけど、私のことは私も知りたいから黙って聞いた。
「お姉さまはね、そこらの殿方よりも成績は優秀ですし、幼い頃お遊びで嗜んでいた剣術だって、アーノルドに引けを取らないほどでしたのよ? 今では危険だからとアーノルドが剣を振るうことは許しませんけれど、本来ならあなたたちなんてコテンパンのぎったんぎったんよ!」
敵意もないのにぎったんぎったんにはしないけどね。
粗野だとか乱暴だとか言いたいのだろうが、この言い様でオリビアの思惑は成功してるのだろうか? あんまり蔑まれてる気がしない。
「それにお姉さまは学園に行けば様々な殿方から一身に注目を浴びるほどの見目麗しさで、あまりの高嶺の花ぶりに誰も声をかけないほど。愛らしい私とは正反対で、いつも孤独。それでいて、お姉さまに好意を寄せる殿方などごまんといるのです」
妹よ。
いよいよ話の方向性がわからない。
君は私を貶したいんじゃなかったのか。
持ち上げて落とすにしては、落とすのが些か遅くはないか。積み上げすぎではないか。
ちなみに私はまだ鏡を見ていないから自分の顔がどんななのかは知らない。
オリビアの独壇場は大詰めだった。
「そんなお姉さまがお嫁に行くなんて、この私が!! 許すはずがないのよ!!! お姉さまは私のものです! 行き遅れてずっとずっとこの家にいれば私がずっとお世話をしてあげるし、私がいつでもずっと傍で愛でてさしあげるわ。お姉さまには私がいればいいのです、婚約などどこまででも邪魔してさしあげますわ!!」
ええーー?
そっち?
戸惑う間もなく、オリビアは扉の外から一気にだっと部屋に駆け込むと、ベッドの上の私にがばりと抱きついた。
ぼいーん、と、オリビアの巨乳が私のスレンダーな体に弾んで当たる。
うん、姉妹だけど私たちは容姿も中身も正反対のようね。
「ああぁぁお姉さま痛い思いをさせてごめんなさい、これしか方法がなかったの。大けがをしてしばらく気を失っていれば、期限が過ぎて行き遅れてしまえると思ったのに。案外丈夫なんだもの」
やはりおまえか。
なんとなく身を引いてしまうような恐怖を覚えたのは、彼女から逃げていたことを体が覚えていたからに違いない。
「なんと……オリビア嬢は、その、そちらであったか」
「これは思わぬ伏兵だな」
金と銀もどう言ったらいいのかわからないというように口を噤んでしまった。
アーノルドはやれやれというようにため息を吐き、「怪我人ですよ」とオリビアをべりりと剥がした。
その様子を見るに、アーノルドはオリビアの真の企みを知っていたのだろう。
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