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第一章 国を滅ぼす魔女と、滅びそうにない国の竜王
第8話 これまでの話
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まだ弱っているから駄目だ、とそれからも私はしばらくベッドに寝かされ続け、水は自分で飲めるので大丈夫ですと断りをいれたものの、レイノルド様は相変わらず気づくと隣に寝ているし、甲斐甲斐しく看病をされ、少しずつ熱が下がり、体の怠さや頭痛も治まっていった。
ノーリング伯爵家を出てからどれくらい経っているのだろう。
今日が何の月の何日かと聞いても、グランゼイル国とレジール国は暦が違うから何日経っているのか計算もできない。
森の中を何日彷徨ったのか、このお城に連れて来られてから意識を取り戻すまで何日寝ていたのかもわからない。
数えている限りだと、城に来てから十日は経っている。
それだけ病状が重かったのだろうと思うと、本当に死にかけていたのだなと改めてぞっとする。
そうしてベッドから起き上がれるようになったのを見計らったのだろう。
お姉さんがドバンッと力強く扉を開け放ち、「さあ、いよいよ洗いざらい吐いてもらうわよ。覚悟なさい」と仁王立ちで私を迎えに来て、部屋から連れ出された。
私からレイノルド様の元へ出向くのは初めてだ。
毎日看病しに来てくれていたのに、改めて会うのはなんだか緊張する。
お姉さんが足を止めたのが赤を基調として金で縁取られた荘厳な扉の前だったから、いっそう気圧された。
そんな私にお姉さんは満足そうに鼻で笑い、「あなたの命もここまでかもしれないわね?」と首を斜めに傾げた。
「そうですね」
いつ誰に殺されてもおかしくない。
そう思って生きてきたから。
この先にはスヴェンもいる。
素直に頷くと、お姉さんは理解できないものを見るような目で眉を寄せ、思考を振り切るようにしてぐっと扉に力を込めた。
開け放たれた先には赤い絨毯の敷かれた広間があり、その奥の一段高くなったところに玉座があった。
私にせっせとパン粥を食べさせ、水を飲ませてくれていたレイノルド様はその玉座に座っている。
「入れ」
入室を促したのは、レイノルド様の隣……とはいってもかなりの間を空けて、しかも一段下がったところに控えていたスヴェン。
私をじろりと睨み、さっさとしろと言わんばかりに顎でくいっと中央の辺りを示す。
余計に緊張が高まり、お姉さんの後に従いぎこちなく歩いて行く私を、レイノルド様は頬杖をつきながら見守っている。
その目が、具合の悪い所はないか様子を見るようで。
なんというかもう、怖い人には見えない。
スヴェンのほうがよっぽど怖い。
「もう大丈夫だと言っていたが、ここまで歩いて体調に問題はなかったか?」
そしてやや過保護だ。
私のように寝込むような人はいないみたいだから、病人がどういうものかわからず気にしてくれているのだろうけれど。
「はい。元々鍛えてはいましたし、足も弱ってはおりません」
数日寝込んだくらいでは歩けなくなるようなことはない、と言いたかったのだけれど。
「そのような細い体で鍛えていた、とは。剣も持てるようには見えませんし、そんな拳など届きもしませんが」
スヴェンが怪訝に言うのを聞いて、言葉を間違えたことを知った。
「すみません。あの、『山歩きをして足腰を鍛えていた』という意味です。戦うための訓練をしていたわけではありません」
「そのようなことですか。さすが人間は軟弱ですね」
蔑むように私を見下ろすスヴェンを片手で制すると、レイノルド様が再び口を開いた。
「ひとまず歩けるようになったのならいい。気分が悪くなるようならすぐに言え。良くなったと思っても人間はなかなか回復せんようだからな」
やっぱりおかあさんだ。
「その、お世話をおかけしました。お心遣いありがとうございます」
「ああ、そうだ。話に入る前に改めて紹介しておこう」
レイノルド様が視線を向けると、スヴェンが一歩前に出た。
「スヴェンです。陛下に嘘をついたり謀ったりするようならその小さな頭を捻り潰しますので」
低音で抑揚なく一息に告げられた警告が強すぎる。
お尻の辺りから生えた馬のような尻尾が威嚇するようにゆらゆらと揺れていた。
「おい、怯えているだろうが。脅すな」
「ですが――」
「喋れるものも喋れなくなるだろう。手を出す許可も出していない。くれぐれも勝手はするなよ」
「はっ」
スヴェンは恭しく頭を下げたけれど、体を起こしながら鋭い眼光で私を睨むのを忘れなかった。
続いたうさ耳のお姉さんは一歩前に出ながら、余計なことは決して言うなと牽制するように私を横目で見た。
「ティアーナよ。陛下に無礼を働いたら――」
けど牽制されたのはお姉さん――ティアーナも一緒だった。
「やめろと言っている。おまえらはこんな弱々しい子どもを相手に何をいきり立っている?」
「だって、陛下! こんな得体の知れない人間をこのように御身に近づけるだなんて。しかもあんな不穏なことを口にしていたのですよ?」
「だからこれが何なのか知ろうとこの場を設けたのだ。まずは話を聞け。それともおまえたちは私がこの非力な行き倒れの子どもに害されるとでも思っているのか?」
非力なのは認めるけれど、子ども、子どもと言われると微妙な気持ちになる。
一応人間で言うところの十五歳はデビュタントを済ませている令嬢も多くいて、結婚もできるし、レジール国では大人とほとんど同じ扱いをされるのだけど。
とてもそうは見えないということだろう。
ちょっと悲しい。
レイノルド様の表情も声色も変わっていないけれど、二人は何かを感じとったようで、顔を青ざめさせ、姿勢を正した。
「申し訳ございません」
「以後、慎みます」
二人が黙ったのを見届けると、レイノルド様は「待たせたな」と私をまっすぐに見た。
「では本題だ。何故この国に足を踏み入れたのか。何者なのか」
「はい。私は――」
そういえば、レイノルド様に名乗らせておいて自分は名乗っていなかった。
パン粥を寝ている間に口に流し込まれる心配ばかりしていて、もっと大事なことに気づけていなかった。
慌てて『シェリー・ノーリングと申します。女です。十五歳です』と名乗ろうとして、ティアーナが零れ落ちんばかりに見開いた目で私をねめつけているのに気が付き、そうだったと思い出す。
「ルークと。そう父に名づけられました」
嘘ではない。
ティアーナがすました顔に戻ったのを見て、私は続けた。
「陛下には少しお話ししましたが、お二人もいらっしゃいますので、改めて最初から順を追って説明させてください。レジール国にて私が生まれたところからの話になりますので、長くなりますが――」
そう前置きして、まず『滅びの魔女』として生まれたことを話した。
しばらく私が話すばかりだったけれど、耐えかねたように真っ先に声をあげたのはスヴェンだった。
「は? どうやって滅ぼすのかもわからずに国を滅ぼす存在として恐れられていたというのですか?」
おなじ疑問を持つ人がここにもいた。
祖父母やマリアと別れてから、誰もそんなことを言ってくれた人はいないから、私だけが変なことを考えているのかと思い始めていた。
ここに来てからなんだか自分を取り戻していくような気持ちだ。
けれど、国を滅ぼすだとか不穏すぎる言葉ばかり並べる私にティアーナはますます警戒を強めたようで、じっと私を睨み続けている。
「わからないからこそ恐れていたのかもしれません。世にある根拠のない迷信や昔話のうちの一つなのか、本当に私が何かの力を持っているのか調べているのですが、それもまだわかっていませんので」
怒っているのか、不審がっているのかよくわからない複雑な顔で黙り込んだスヴェンを見てからレイノルド様に向き直り、私は話を続けた。
祖父母に育てられ隣国に逃げようとしていたものの叶わないまま生家に戻ったこと、その後も一人で準備を重ねてきたこと。
なるべく端的に話すよう心掛けたけれど、人に話すのは初めてのことで、考えながら話しているから時間がかかる。
レイノルド様はひじ掛けに頬杖をつき、首を傾げた。
「それで何故今この国にいる? ドゥーチェス国に行きたかったのだろう」
「はい。それが、いつものように薬を売りに町に出ていたときに、偶然キャロルと鉢合わせしてしまいまして」
「阿呆な妹のことか」
阿呆。
そう聞こえてしまうのは私の話しぶりのせいもあるだろうけれど、まあたしかに思ったことがそのまま言動に出てしまっている子ではある。
「ええと、その、妹が私を見て驚きまして。大声をあげてしまったのです」
『お姉さまがなんでこんなところにいるの?! 『滅びの魔女』は家から出てはいけないはずじゃない! 町の人に知られたら……』
驚いただけならよかった。
だがキャロルは懇切丁寧に『滅びの魔女』がここにいるとわかりすぎるくらいわかるように説明してしまったのである。それも大声で。
「わざとか?」
まあ、そう言われるとそうとしか思えないほど短絡的な言動だけれど。
本当に焦った様子で、他意は感じられなかった。
「故意かはわかりませんが、それで町の警備隊が呼ばれまして、私は捕らえられ、城に突き出されたのです」
どうしたらよいか判断がつかなかったらしい。
一度は警備隊の詰め所に連れて行かれたのだけれど。
『とにかく城に連絡をいれろ!』
『でもその間、こいつはどうすれば……?』
『屋敷に軟禁されてるはずが、詰め所なんかにいるとわかったら俺たちが責められたりはしないか?』
『だったら屋敷に送り返せ!』
『でもそれだとみすみす逃がすことになって、俺たちが役目を果たしてないことになるんじゃ……』
そんなことを怒鳴り声交じりに話し合った結果、知らせと共に本人も連れて行ってしまえばいいという結論になったらしい。
王家は『滅びの魔女』に関しての方針を公にしていない。
けれど町の人たちにとって『滅びの魔女』は国を滅ぼす存在であるというのが共通認識となっているから、当たり前のように捕えなければならないと考え、罪人のように城へと突き出されたわけだ。
だが王家もそんなものを連れてこられて困ったのかもしれない。
私が入れられた部屋は牢屋ではなかったけれど、外から鍵がかかるようになっていた。
大人しく待つようにと言われたけれど、食事がきちんと運ばれてきたのは救いだ。
たぶん城で働く人たちと同じものだろう。豪華でもなく、粗末でもない。
それは客人ではなく、かといっていきなり罪人として扱うこともできないという複雑な立ち位置の表れでもあった。
「よく処刑されなかったわね」
ずっと処刑されるのは決定事項かのように語られていたから、そうなる可能性は考えていたし、どうにか処刑されない方法はないかと以前から考えていたのだけれど。
「それがですね……」
ノーリング伯爵家を出てからどれくらい経っているのだろう。
今日が何の月の何日かと聞いても、グランゼイル国とレジール国は暦が違うから何日経っているのか計算もできない。
森の中を何日彷徨ったのか、このお城に連れて来られてから意識を取り戻すまで何日寝ていたのかもわからない。
数えている限りだと、城に来てから十日は経っている。
それだけ病状が重かったのだろうと思うと、本当に死にかけていたのだなと改めてぞっとする。
そうしてベッドから起き上がれるようになったのを見計らったのだろう。
お姉さんがドバンッと力強く扉を開け放ち、「さあ、いよいよ洗いざらい吐いてもらうわよ。覚悟なさい」と仁王立ちで私を迎えに来て、部屋から連れ出された。
私からレイノルド様の元へ出向くのは初めてだ。
毎日看病しに来てくれていたのに、改めて会うのはなんだか緊張する。
お姉さんが足を止めたのが赤を基調として金で縁取られた荘厳な扉の前だったから、いっそう気圧された。
そんな私にお姉さんは満足そうに鼻で笑い、「あなたの命もここまでかもしれないわね?」と首を斜めに傾げた。
「そうですね」
いつ誰に殺されてもおかしくない。
そう思って生きてきたから。
この先にはスヴェンもいる。
素直に頷くと、お姉さんは理解できないものを見るような目で眉を寄せ、思考を振り切るようにしてぐっと扉に力を込めた。
開け放たれた先には赤い絨毯の敷かれた広間があり、その奥の一段高くなったところに玉座があった。
私にせっせとパン粥を食べさせ、水を飲ませてくれていたレイノルド様はその玉座に座っている。
「入れ」
入室を促したのは、レイノルド様の隣……とはいってもかなりの間を空けて、しかも一段下がったところに控えていたスヴェン。
私をじろりと睨み、さっさとしろと言わんばかりに顎でくいっと中央の辺りを示す。
余計に緊張が高まり、お姉さんの後に従いぎこちなく歩いて行く私を、レイノルド様は頬杖をつきながら見守っている。
その目が、具合の悪い所はないか様子を見るようで。
なんというかもう、怖い人には見えない。
スヴェンのほうがよっぽど怖い。
「もう大丈夫だと言っていたが、ここまで歩いて体調に問題はなかったか?」
そしてやや過保護だ。
私のように寝込むような人はいないみたいだから、病人がどういうものかわからず気にしてくれているのだろうけれど。
「はい。元々鍛えてはいましたし、足も弱ってはおりません」
数日寝込んだくらいでは歩けなくなるようなことはない、と言いたかったのだけれど。
「そのような細い体で鍛えていた、とは。剣も持てるようには見えませんし、そんな拳など届きもしませんが」
スヴェンが怪訝に言うのを聞いて、言葉を間違えたことを知った。
「すみません。あの、『山歩きをして足腰を鍛えていた』という意味です。戦うための訓練をしていたわけではありません」
「そのようなことですか。さすが人間は軟弱ですね」
蔑むように私を見下ろすスヴェンを片手で制すると、レイノルド様が再び口を開いた。
「ひとまず歩けるようになったのならいい。気分が悪くなるようならすぐに言え。良くなったと思っても人間はなかなか回復せんようだからな」
やっぱりおかあさんだ。
「その、お世話をおかけしました。お心遣いありがとうございます」
「ああ、そうだ。話に入る前に改めて紹介しておこう」
レイノルド様が視線を向けると、スヴェンが一歩前に出た。
「スヴェンです。陛下に嘘をついたり謀ったりするようならその小さな頭を捻り潰しますので」
低音で抑揚なく一息に告げられた警告が強すぎる。
お尻の辺りから生えた馬のような尻尾が威嚇するようにゆらゆらと揺れていた。
「おい、怯えているだろうが。脅すな」
「ですが――」
「喋れるものも喋れなくなるだろう。手を出す許可も出していない。くれぐれも勝手はするなよ」
「はっ」
スヴェンは恭しく頭を下げたけれど、体を起こしながら鋭い眼光で私を睨むのを忘れなかった。
続いたうさ耳のお姉さんは一歩前に出ながら、余計なことは決して言うなと牽制するように私を横目で見た。
「ティアーナよ。陛下に無礼を働いたら――」
けど牽制されたのはお姉さん――ティアーナも一緒だった。
「やめろと言っている。おまえらはこんな弱々しい子どもを相手に何をいきり立っている?」
「だって、陛下! こんな得体の知れない人間をこのように御身に近づけるだなんて。しかもあんな不穏なことを口にしていたのですよ?」
「だからこれが何なのか知ろうとこの場を設けたのだ。まずは話を聞け。それともおまえたちは私がこの非力な行き倒れの子どもに害されるとでも思っているのか?」
非力なのは認めるけれど、子ども、子どもと言われると微妙な気持ちになる。
一応人間で言うところの十五歳はデビュタントを済ませている令嬢も多くいて、結婚もできるし、レジール国では大人とほとんど同じ扱いをされるのだけど。
とてもそうは見えないということだろう。
ちょっと悲しい。
レイノルド様の表情も声色も変わっていないけれど、二人は何かを感じとったようで、顔を青ざめさせ、姿勢を正した。
「申し訳ございません」
「以後、慎みます」
二人が黙ったのを見届けると、レイノルド様は「待たせたな」と私をまっすぐに見た。
「では本題だ。何故この国に足を踏み入れたのか。何者なのか」
「はい。私は――」
そういえば、レイノルド様に名乗らせておいて自分は名乗っていなかった。
パン粥を寝ている間に口に流し込まれる心配ばかりしていて、もっと大事なことに気づけていなかった。
慌てて『シェリー・ノーリングと申します。女です。十五歳です』と名乗ろうとして、ティアーナが零れ落ちんばかりに見開いた目で私をねめつけているのに気が付き、そうだったと思い出す。
「ルークと。そう父に名づけられました」
嘘ではない。
ティアーナがすました顔に戻ったのを見て、私は続けた。
「陛下には少しお話ししましたが、お二人もいらっしゃいますので、改めて最初から順を追って説明させてください。レジール国にて私が生まれたところからの話になりますので、長くなりますが――」
そう前置きして、まず『滅びの魔女』として生まれたことを話した。
しばらく私が話すばかりだったけれど、耐えかねたように真っ先に声をあげたのはスヴェンだった。
「は? どうやって滅ぼすのかもわからずに国を滅ぼす存在として恐れられていたというのですか?」
おなじ疑問を持つ人がここにもいた。
祖父母やマリアと別れてから、誰もそんなことを言ってくれた人はいないから、私だけが変なことを考えているのかと思い始めていた。
ここに来てからなんだか自分を取り戻していくような気持ちだ。
けれど、国を滅ぼすだとか不穏すぎる言葉ばかり並べる私にティアーナはますます警戒を強めたようで、じっと私を睨み続けている。
「わからないからこそ恐れていたのかもしれません。世にある根拠のない迷信や昔話のうちの一つなのか、本当に私が何かの力を持っているのか調べているのですが、それもまだわかっていませんので」
怒っているのか、不審がっているのかよくわからない複雑な顔で黙り込んだスヴェンを見てからレイノルド様に向き直り、私は話を続けた。
祖父母に育てられ隣国に逃げようとしていたものの叶わないまま生家に戻ったこと、その後も一人で準備を重ねてきたこと。
なるべく端的に話すよう心掛けたけれど、人に話すのは初めてのことで、考えながら話しているから時間がかかる。
レイノルド様はひじ掛けに頬杖をつき、首を傾げた。
「それで何故今この国にいる? ドゥーチェス国に行きたかったのだろう」
「はい。それが、いつものように薬を売りに町に出ていたときに、偶然キャロルと鉢合わせしてしまいまして」
「阿呆な妹のことか」
阿呆。
そう聞こえてしまうのは私の話しぶりのせいもあるだろうけれど、まあたしかに思ったことがそのまま言動に出てしまっている子ではある。
「ええと、その、妹が私を見て驚きまして。大声をあげてしまったのです」
『お姉さまがなんでこんなところにいるの?! 『滅びの魔女』は家から出てはいけないはずじゃない! 町の人に知られたら……』
驚いただけならよかった。
だがキャロルは懇切丁寧に『滅びの魔女』がここにいるとわかりすぎるくらいわかるように説明してしまったのである。それも大声で。
「わざとか?」
まあ、そう言われるとそうとしか思えないほど短絡的な言動だけれど。
本当に焦った様子で、他意は感じられなかった。
「故意かはわかりませんが、それで町の警備隊が呼ばれまして、私は捕らえられ、城に突き出されたのです」
どうしたらよいか判断がつかなかったらしい。
一度は警備隊の詰め所に連れて行かれたのだけれど。
『とにかく城に連絡をいれろ!』
『でもその間、こいつはどうすれば……?』
『屋敷に軟禁されてるはずが、詰め所なんかにいるとわかったら俺たちが責められたりはしないか?』
『だったら屋敷に送り返せ!』
『でもそれだとみすみす逃がすことになって、俺たちが役目を果たしてないことになるんじゃ……』
そんなことを怒鳴り声交じりに話し合った結果、知らせと共に本人も連れて行ってしまえばいいという結論になったらしい。
王家は『滅びの魔女』に関しての方針を公にしていない。
けれど町の人たちにとって『滅びの魔女』は国を滅ぼす存在であるというのが共通認識となっているから、当たり前のように捕えなければならないと考え、罪人のように城へと突き出されたわけだ。
だが王家もそんなものを連れてこられて困ったのかもしれない。
私が入れられた部屋は牢屋ではなかったけれど、外から鍵がかかるようになっていた。
大人しく待つようにと言われたけれど、食事がきちんと運ばれてきたのは救いだ。
たぶん城で働く人たちと同じものだろう。豪華でもなく、粗末でもない。
それは客人ではなく、かといっていきなり罪人として扱うこともできないという複雑な立ち位置の表れでもあった。
「よく処刑されなかったわね」
ずっと処刑されるのは決定事項かのように語られていたから、そうなる可能性は考えていたし、どうにか処刑されない方法はないかと以前から考えていたのだけれど。
「それがですね……」
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