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第二章 滅びの魔女と、再会
第2話 問題は『滅びの魔女』であるかどうかじゃない
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「鳴くしかできない豚の姿にしてやるわ! 勝手にそんなことをしたとバレたらそれこそ陛下に私が殺されかねないから、夜の間だけね。ホーッホッホッホッホァ!!」
ティアーナは口元に手を当て、ふんぞり返って笑い狂った。
――このメス豚がっ!!
と罵られる物語を読んだことがある。
愛憎渦巻く恋愛物で、男をとったとかとられたとか、誰の所有物でもないはずの取り合いを激しくしていた。
しかし、豚にしてやるは初めて聞いた。
そういう魔法があるのだろうか。
昨日スヴェンが一心不乱に腕立てをしていたあれは『能力』と言っていたから、魔法とは違うのかもしれない。
だとしたら、初めて魔法を見ることになる。
どうやって魔法を使うのだろう。
どんな魔法があるのだろう。
思わずわくわくとしてティアーナを見上げていると、恨めしげだった顔がだんだんと冷めたものに変わっていった。
「なによその顔……。はっ! 豚のほうが人間より強いかもしれないわね。やめたわ。ネズミにしてやる!」
ネズミか。
あっという間に寿命が尽きてしまいそうだから早く昔の資料を探さないと――いや、本とか持てないな。それは困る。
そんなことを考えていたら、ティアーナはまた一人で勝手に「やっぱりだめだわ!」と悔しげに顔を歪める。
「隙間からどんな部屋でも出入り自由になるじゃない。噛まれたら痛いし」
別にネズミになったからって噛まないけど。
今だって噛もうと思えば噛めるけど噛んでないし。
もうちょっと信用してくれてもいいのに。
たしかにちょっと冒険心が疼いて自由に出入りはするかもしれないけど。
「そうね。何にもできない小鳥にしてやるわ! あーっはっはっはっは!」
「鳥かあ……。一度空を飛んでみたかったんですよね」
外敵が多そうだけど城の中なら安全そうだ。
いや、壁とか天井とかにぶつかってすぐ死んじゃいそう。
しかしうっかり口に出してしまったせいで、またもやティアーナの顔が歪む。
「くっ! 空を自由に飛びたい願いを叶えるために便利な魔法を提供してるわけじゃないのよ! ――クマ! クマにしましょう」
思いつく端から口にしているようだけれど、今までで一番強そうなのがきてしまったとさすがに自分で気づいたらしい。
「――じゃなくて、ええと、えーーと、リス! ……は、私よりかわいいから嫌。猫なんてころんころん転がりながらじゃれてるのとか愛くるしさ最強だし、犬は爪も牙もあって人間よりよほど強いし、他に無害な生き物は……」
それぞれ今の私にないものを持っている。
そんな生き物の姿に変えたくないのだろう。
結局、うーーーーーーんと唸るように考え込んだティアーナは、もう何も思いつかなかったらしい。
「やっぱ豚でいいわ」
一周回って帰ってきた。
「あんたはどうせ小さいから子豚にしかならないでしょうし、それなら大した力もない。鳴いたって誰も助けてくれやしないんだから!」
再びほーっほっほっほ!! と哄笑を響かせると気が済んだのか、ティアーナはつかつかと歩み寄り、長い指を怯える私の額につきつけた。
「じっとして。動くんじゃないわよ」
そうしてティアーナが口の中で何事かを唱えると、額がほんのりと温かくなる。
「よし。できたわ。これであんたは夜だけ豚の姿に変わり、陛下と共寝をすることは叶わなくなるわ。残念だったわね!」
今は姿も変わっていないし実感はないけれど、たしかに少し残念に思っている。
けど、またレイノルド様が夜にこの部屋を訪ねてきたらどうするのだろう。
豚がベッドで寝ていたら何と思うのか。
気にはなったけれど、レイノルド様ももう自室で寝ると言っていたし。
私もティアーナやスヴェンに不快な思いをさせたいわけじゃないから。
受け入れて欲しいと思うのはさすがにあつかましいとわかっているけれど。
「ふん。『滅びの魔女』だろうがそうじゃなかろうが、私には関係ないわ。そもそも一人で森の中で行き倒れてた人間なんて、信用できないのよ」
「たしかに」
それはそうだろうと思ったのだが、またティアーナが引いたように顔を歪める。
「なんであんたが同意するのよ」
「いえ、逆の立場なら私もそんな人は怖くて信用できません。ただの侵入者ですし、話してることだって嘘か本当かもわかりませんし」
「そういえばあんた隣国の王子すら疑ってたわね」
言ってからティアーナは、何故か哀れむような目を向けた。
「あんた。友達いないでしょ」
「はい。信用できた人間も数えられるほどしかいませんし」
でもグランゼイルに来てからのほうが、正面から対話したいと思えた。
怪しまれてはいるし、穿った見方もされているけれど。
それでも、レイノルド様もスヴェンもティアーナも、いざという時には自分で何とかできるという自信があるからこそ、私をすぐさまどうこうしようとはしないのだと思う。
だから話をきちんと聞いてくれるのだ。
聞いた上でどう考えるか、というのはまたそれぞれだけれど。
先ほどもティアーナが『滅びの魔女』をどうでもいいというように言ってくれたことが嬉しかった。
意に介さないのはレイノルド様に次いで二人目だ。
そこに見える芯のある強さがかっこいいと思う。
「本当変なやつね……。とにかく、昼間は人目も多いし、夜は豚となれば滅多なことはできないでしょう。大人しくひきこもってることね!」
「あの。夜は自由に歩き回れなくなるのなら、今のうちに資料室の場所を教えていただけないでしょうか」
早く真実を明らかにしたいし、夜も出来る限り資料にあたりたい。
本をこの部屋に運んでおけば、豚の蹄でもページはめくれるかもしれない。
小鳥やネズミじゃそうはいかなかったところだ。
「あんた……そういう切り替えの早いところが怖いのよ」
別に泣いて縋ってほしいわけじゃないけど……とぶつぶつ言いながらも、ティアーナは前に立って歩き出した。
案内された資料室には、初めて見るほどたくさんの本が並んでいた。
本棚は見上げるほどの高さまであり、歩いても歩いてもずっと先まで本棚が並んでいる。
これだけの中から関係しそうな本を探すのも大変そうだ。
ふと、グランゼイルの文字が読めるだろうかと心配になったけれど、本の背に書かれているのはどれもドゥーチェス国の文字ばかりだった。
そういえば、グランゼイル国の話し言葉もドゥーチェス国と同じ。
ドゥーチェス国より北のいくつかの国も同じ言語だ。
レジール国を境にして言語が変わっている。
ドゥーチェス国とは反対側の隣国ビエンツ国は、レジール国との間に険しい山脈を挟んでいるのに、レジール国と同じ言語だ。
険しい山脈を挟んでいるから昔は交流がなくて、それぞれに違う言語や文化が育まれたと言われれば納得するけれど。
なぜ平地同士のレジール国とドゥーチェス国が異なる言語なのだろう。
その辺りも昔のレジール国のことを調べていたらわかるだろうか。
単なる好奇心ではあるけれど、妙に気にかかった。
・・・◆・・・◇・・・◆・・・
日が暮れたら豚になるのかなと思っていたけれど、夕飯を済ませても人間の姿のままだった。
まあ、寝てしまえば豚だろうが人間だろうが関係はない。
ただ、思いのほか長いこと人間の姿で資料を読めたから、手元にあるものは読み尽くしてしまった。
追加の資料を持ってこよう。
そう考えて扉を開けた時だった。
ぽしゅん、とどこか抜けた音が聞こえたのと同時に視界ががくんと下がり、着ていた服がふぁさりと頭に落ちてきた。
なるほど。
大体寝る前くらいの時間に変わるわけか。
二足歩行ができるか試してみたけれど、後ろ足で立とうとしてもすぐに前足をついてしまう。
体のつくり的に均衡が保ちにくい上に、筋力がない。
力がないのは元の私の筋力ゆえか。
これでは何もできないし、とりあえず水でも飲んで寝るか。
そう思って扉を閉めようとしたけれど、ドアノブが高い。
ジャンプしても全然届きそうにないし、体がぶつかったらもっと開いてしまいそうだ。
足掻くのを早々に諦めて踵を返し、水差しのところまでとことこと歩く。
けれどここでも現実に気が付く。
――高い。
何もかもが高い位置にありすぎて、ほとんどのものに手が届かない。
今の私はどれくらいの大きさなのだろう。
姿見の前までとことこ歩いていくと、なるほど、タンスと比較してみれば確かに子豚だ。
猫とは言わないが、よく町で見かける犬くらいの大きさしかない。
高さというと四足歩行がゆえに子どもの膝くらいまでしかない。
その上ジャンプ力もないから詰んだ。
水だ。
水が飲みたい!
さっきまではそれほどでもなかったのに、一度飲むつもりになったのに飲めないとなると、無性に飲みたくなる。
いや、喉の渇きに気づいてしまったというほうが正しいか。
水差しが置かれたテーブルに手――いや前足を伸ばしてみても、九十度も上がらない。
あれ?
なんかコツでもいるんだろうか。
四足歩行などしたことがないからわからない。
あ、関節の曲がる感じがなんか人間と違う?
いやそんなことはない。
四足歩行というかこの体に慣れていなくてうまく動かせていないだけだろう。
っていうかなんか頭が重い。
重いっていうか大きい?
たぶん今の私は四頭身。
体に対しての比重が人間の時とは違うからか、ちょっと上を見るだけでも苦労する。
ああ、水を飲みたいだけなのにこんなにも障壁が多いとは。
また夜中に水が欲しいと呻いてしまったらどうしよう。
――そうか。もうレイノルド様が助けてくれることはないんだ。
すっかり人を頼る癖がついてしまったらしい。
これではいけない。
自分でなんとかしなくては。
幸い扉は開きっぱなしだ。
私は意気揚々と部屋を出て、水を求めて歩き出した。
このお城はとても広くて、まだ資料室の場所しか覚えていないけれど。
歩き回っていればなんとかなるだろう。
そう気楽に考えていたのだけれど。
「おい。ぽてぽてと何故こんなところを歩いている」
一番最初に遭遇したのは、怪訝な顔で子豚な私を見下ろすレイノルド様だった。
ティアーナは口元に手を当て、ふんぞり返って笑い狂った。
――このメス豚がっ!!
と罵られる物語を読んだことがある。
愛憎渦巻く恋愛物で、男をとったとかとられたとか、誰の所有物でもないはずの取り合いを激しくしていた。
しかし、豚にしてやるは初めて聞いた。
そういう魔法があるのだろうか。
昨日スヴェンが一心不乱に腕立てをしていたあれは『能力』と言っていたから、魔法とは違うのかもしれない。
だとしたら、初めて魔法を見ることになる。
どうやって魔法を使うのだろう。
どんな魔法があるのだろう。
思わずわくわくとしてティアーナを見上げていると、恨めしげだった顔がだんだんと冷めたものに変わっていった。
「なによその顔……。はっ! 豚のほうが人間より強いかもしれないわね。やめたわ。ネズミにしてやる!」
ネズミか。
あっという間に寿命が尽きてしまいそうだから早く昔の資料を探さないと――いや、本とか持てないな。それは困る。
そんなことを考えていたら、ティアーナはまた一人で勝手に「やっぱりだめだわ!」と悔しげに顔を歪める。
「隙間からどんな部屋でも出入り自由になるじゃない。噛まれたら痛いし」
別にネズミになったからって噛まないけど。
今だって噛もうと思えば噛めるけど噛んでないし。
もうちょっと信用してくれてもいいのに。
たしかにちょっと冒険心が疼いて自由に出入りはするかもしれないけど。
「そうね。何にもできない小鳥にしてやるわ! あーっはっはっはっは!」
「鳥かあ……。一度空を飛んでみたかったんですよね」
外敵が多そうだけど城の中なら安全そうだ。
いや、壁とか天井とかにぶつかってすぐ死んじゃいそう。
しかしうっかり口に出してしまったせいで、またもやティアーナの顔が歪む。
「くっ! 空を自由に飛びたい願いを叶えるために便利な魔法を提供してるわけじゃないのよ! ――クマ! クマにしましょう」
思いつく端から口にしているようだけれど、今までで一番強そうなのがきてしまったとさすがに自分で気づいたらしい。
「――じゃなくて、ええと、えーーと、リス! ……は、私よりかわいいから嫌。猫なんてころんころん転がりながらじゃれてるのとか愛くるしさ最強だし、犬は爪も牙もあって人間よりよほど強いし、他に無害な生き物は……」
それぞれ今の私にないものを持っている。
そんな生き物の姿に変えたくないのだろう。
結局、うーーーーーーんと唸るように考え込んだティアーナは、もう何も思いつかなかったらしい。
「やっぱ豚でいいわ」
一周回って帰ってきた。
「あんたはどうせ小さいから子豚にしかならないでしょうし、それなら大した力もない。鳴いたって誰も助けてくれやしないんだから!」
再びほーっほっほっほ!! と哄笑を響かせると気が済んだのか、ティアーナはつかつかと歩み寄り、長い指を怯える私の額につきつけた。
「じっとして。動くんじゃないわよ」
そうしてティアーナが口の中で何事かを唱えると、額がほんのりと温かくなる。
「よし。できたわ。これであんたは夜だけ豚の姿に変わり、陛下と共寝をすることは叶わなくなるわ。残念だったわね!」
今は姿も変わっていないし実感はないけれど、たしかに少し残念に思っている。
けど、またレイノルド様が夜にこの部屋を訪ねてきたらどうするのだろう。
豚がベッドで寝ていたら何と思うのか。
気にはなったけれど、レイノルド様ももう自室で寝ると言っていたし。
私もティアーナやスヴェンに不快な思いをさせたいわけじゃないから。
受け入れて欲しいと思うのはさすがにあつかましいとわかっているけれど。
「ふん。『滅びの魔女』だろうがそうじゃなかろうが、私には関係ないわ。そもそも一人で森の中で行き倒れてた人間なんて、信用できないのよ」
「たしかに」
それはそうだろうと思ったのだが、またティアーナが引いたように顔を歪める。
「なんであんたが同意するのよ」
「いえ、逆の立場なら私もそんな人は怖くて信用できません。ただの侵入者ですし、話してることだって嘘か本当かもわかりませんし」
「そういえばあんた隣国の王子すら疑ってたわね」
言ってからティアーナは、何故か哀れむような目を向けた。
「あんた。友達いないでしょ」
「はい。信用できた人間も数えられるほどしかいませんし」
でもグランゼイルに来てからのほうが、正面から対話したいと思えた。
怪しまれてはいるし、穿った見方もされているけれど。
それでも、レイノルド様もスヴェンもティアーナも、いざという時には自分で何とかできるという自信があるからこそ、私をすぐさまどうこうしようとはしないのだと思う。
だから話をきちんと聞いてくれるのだ。
聞いた上でどう考えるか、というのはまたそれぞれだけれど。
先ほどもティアーナが『滅びの魔女』をどうでもいいというように言ってくれたことが嬉しかった。
意に介さないのはレイノルド様に次いで二人目だ。
そこに見える芯のある強さがかっこいいと思う。
「本当変なやつね……。とにかく、昼間は人目も多いし、夜は豚となれば滅多なことはできないでしょう。大人しくひきこもってることね!」
「あの。夜は自由に歩き回れなくなるのなら、今のうちに資料室の場所を教えていただけないでしょうか」
早く真実を明らかにしたいし、夜も出来る限り資料にあたりたい。
本をこの部屋に運んでおけば、豚の蹄でもページはめくれるかもしれない。
小鳥やネズミじゃそうはいかなかったところだ。
「あんた……そういう切り替えの早いところが怖いのよ」
別に泣いて縋ってほしいわけじゃないけど……とぶつぶつ言いながらも、ティアーナは前に立って歩き出した。
案内された資料室には、初めて見るほどたくさんの本が並んでいた。
本棚は見上げるほどの高さまであり、歩いても歩いてもずっと先まで本棚が並んでいる。
これだけの中から関係しそうな本を探すのも大変そうだ。
ふと、グランゼイルの文字が読めるだろうかと心配になったけれど、本の背に書かれているのはどれもドゥーチェス国の文字ばかりだった。
そういえば、グランゼイル国の話し言葉もドゥーチェス国と同じ。
ドゥーチェス国より北のいくつかの国も同じ言語だ。
レジール国を境にして言語が変わっている。
ドゥーチェス国とは反対側の隣国ビエンツ国は、レジール国との間に険しい山脈を挟んでいるのに、レジール国と同じ言語だ。
険しい山脈を挟んでいるから昔は交流がなくて、それぞれに違う言語や文化が育まれたと言われれば納得するけれど。
なぜ平地同士のレジール国とドゥーチェス国が異なる言語なのだろう。
その辺りも昔のレジール国のことを調べていたらわかるだろうか。
単なる好奇心ではあるけれど、妙に気にかかった。
・・・◆・・・◇・・・◆・・・
日が暮れたら豚になるのかなと思っていたけれど、夕飯を済ませても人間の姿のままだった。
まあ、寝てしまえば豚だろうが人間だろうが関係はない。
ただ、思いのほか長いこと人間の姿で資料を読めたから、手元にあるものは読み尽くしてしまった。
追加の資料を持ってこよう。
そう考えて扉を開けた時だった。
ぽしゅん、とどこか抜けた音が聞こえたのと同時に視界ががくんと下がり、着ていた服がふぁさりと頭に落ちてきた。
なるほど。
大体寝る前くらいの時間に変わるわけか。
二足歩行ができるか試してみたけれど、後ろ足で立とうとしてもすぐに前足をついてしまう。
体のつくり的に均衡が保ちにくい上に、筋力がない。
力がないのは元の私の筋力ゆえか。
これでは何もできないし、とりあえず水でも飲んで寝るか。
そう思って扉を閉めようとしたけれど、ドアノブが高い。
ジャンプしても全然届きそうにないし、体がぶつかったらもっと開いてしまいそうだ。
足掻くのを早々に諦めて踵を返し、水差しのところまでとことこと歩く。
けれどここでも現実に気が付く。
――高い。
何もかもが高い位置にありすぎて、ほとんどのものに手が届かない。
今の私はどれくらいの大きさなのだろう。
姿見の前までとことこ歩いていくと、なるほど、タンスと比較してみれば確かに子豚だ。
猫とは言わないが、よく町で見かける犬くらいの大きさしかない。
高さというと四足歩行がゆえに子どもの膝くらいまでしかない。
その上ジャンプ力もないから詰んだ。
水だ。
水が飲みたい!
さっきまではそれほどでもなかったのに、一度飲むつもりになったのに飲めないとなると、無性に飲みたくなる。
いや、喉の渇きに気づいてしまったというほうが正しいか。
水差しが置かれたテーブルに手――いや前足を伸ばしてみても、九十度も上がらない。
あれ?
なんかコツでもいるんだろうか。
四足歩行などしたことがないからわからない。
あ、関節の曲がる感じがなんか人間と違う?
いやそんなことはない。
四足歩行というかこの体に慣れていなくてうまく動かせていないだけだろう。
っていうかなんか頭が重い。
重いっていうか大きい?
たぶん今の私は四頭身。
体に対しての比重が人間の時とは違うからか、ちょっと上を見るだけでも苦労する。
ああ、水を飲みたいだけなのにこんなにも障壁が多いとは。
また夜中に水が欲しいと呻いてしまったらどうしよう。
――そうか。もうレイノルド様が助けてくれることはないんだ。
すっかり人を頼る癖がついてしまったらしい。
これではいけない。
自分でなんとかしなくては。
幸い扉は開きっぱなしだ。
私は意気揚々と部屋を出て、水を求めて歩き出した。
このお城はとても広くて、まだ資料室の場所しか覚えていないけれど。
歩き回っていればなんとかなるだろう。
そう気楽に考えていたのだけれど。
「おい。ぽてぽてと何故こんなところを歩いている」
一番最初に遭遇したのは、怪訝な顔で子豚な私を見下ろすレイノルド様だった。
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