もう神には頼りません ~偽聖女にされたら王子の偽婚約者になりました~

佐崎咲

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第一章 神様なんて信じてないのに聖女とか

6.がたごと揺られて

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『もう今更なんだから観念しなさいよね』

 がたごとと揺られる馬車の中で、私の頭にアレクシアの声が響いた。

 わかっている。さすがにこんな人数に囲まれながら馬車に乗り込んでしまえば、もう後戻りはできないということくらい。

 あの後、村の人たちに聞いて駆け付けた両親も快く私を差し出すことを了承し、代わりに先日世話になった礼だと言って、新しい服やシーツや枕、夜着なんかを受け取った。
 普段村でも着られるような服から、町に出かけるような服、それから何故かドレスまであって、家の中は俄かに混乱した。

「ドレスもユリシアに会いに来る際に必要だと思ってな。まだいつとは言えないが、落ち着いたら改めてご家族を城へと招待しよう」

 リヒャルトがそう言ってくれて、家族と二度と会えなくなるわけじゃないんだとわかりほっとした。
 両親がきらびやかなドレスに目が釘付けになっていて、別れを惜しむことすら二の次だったのは、さすが私の家族だなという気がしたけど。

 それよりも私は、普段着られる服やシーツなんかをくれたことが嬉しかった。
 お金をもらっても町まで布を買いに行って作るのは手間だし、ドレスは高価だけどたくさんもらっても着る機会がない。日用品が一番助かるのだ。
 そう言ったらアレクシアに「あんたは枯れすぎ」と言われたけど。
 リヒャルトが我が家に本当に必要な物を選んでくれたのだということが嬉しかったのだ。

 しかし。
 まさか本当にリヒャルトがお礼をしに来るとは思ってなかったけど、それ以上に自分が(偽)聖女として、我が家に下ろされた荷物の代わりに馬車に積まれるとは思ってもいなかった。

 簡単に観念しろなどと言われて開き直れるものでもない。

『だって、バレたらどうするの? 本物かどうか、力を試させてもらう! みたいなことがあったらどうするの』

『指示の内容をユリシアが私に教えてくれたらいいじゃない。こっちでやればいいだけでしょ?』

 簡単に言うなと言いたい。
 だけど、私とアレクシアの間だけ、こうして離れていても意思疎通ができるのは確かだ。
 アレクシアはエンリケにも通じるかと試してたけどダメだった。
 私もこっそり両親に何か通じないかと試してみたものの、勿論通じない。聖女でもないのに試したことが気恥ずかしくなるくらい。

 便利ではあるけど、「だからユリシアが聖女として城に行っても問題ないわよ。ね!」と、とんでもない身代わり計画の後押しにされてしまったのは悔しい。
 とことんアレクシアに都合のいい能力だ。神はアレクシアを甘やかしすぎだと思う。

「舗装された道に入ったな。そろそろ喋っても大丈夫だろう」

 リヒャルトの言葉に馬車の窓から外を覗くと、辺りに草原の続く中、一本の街道が伸びていた。
 村の辺りは道なき道で揺れが半端ではなかったから、馬車の天井からぶら下がった紐をしっかり握り締め、口を閉じているように言われていたのだ。

「なんで王子だって言わなかったのよ。っていうか、いつから、どこまで知ってたの?」

 真っ先に放ったのはその疑問だった。
 さっきはいろんな人が睨みをきかせていたから喋れなかったけれど、今馬車の中には二人きりだ。
 問われたリヒャルトは平然と答えた。

「最初から。大体。」

 くっ……!
 なんだか騙されたようで悔しい。
 だけどリヒャルトも無理強いをしていることは自覚があるらしい。妙に神妙な顔をしている。

「聖女というのは、神に愛された子だ。神に見守られ育つが、恋を知り相手と思いが通じ合うことで神が嫉妬し、局地的に雨を降らすと言われている。私がいた森からは、雲の境がくっきりと見えていた」

「あの村の辺りだけ、ずっと雨が降ってたってこと?」

「そうだ」

「だったら、雨が降っていない方に行けばよかったのに」

 何故わざわざ雨の中心地まで来て雨宿りをしていたのか。
 言ってから気づいた。

「もしかして。その話を知ってたから、聖女を探しに来たの?」

 まさかの問いに、リヒャルトはこくりと頷いた。

「森にいたのは偶然だ。だが、だからこそ、この機は逃せなかった。なんとしても教会に聖女を擁されてはならなかったからな」

 教会と聞いて一つの疑問を思い出す。
 
「そう言えば、なんでお城に行くの? 聖女は教会で祈りを捧げるものなんじゃないの?」

 知る人のいない教会に行くより、リヒャルトがいるお城の方がなんぼかマシかなとは思うけど。何より教会でずっと祈るとか、自由のない幽閉としか思えない。

「これ以上教会に好き勝手にされるわけにはいかないからだ。これまで教会は、聖女を盾に、国をいいようにしてきた。だがそれでは国も教会も腐敗する。ここで正さねばならないのだ」

 国のことも政治のこともよくはわからない。
 けれどリヒャルトが言わんとしていることは何となく想像がついた。
 国のために何か法を定めても、教会が気に入らなければ聖女に神のお告げだと言わせてとりやめさせることもできるだろう。
 国の権力者が教会に献金し、取り入って、都合のいいことを聖女に言わせることだってできてしまう。

「ふうん。で、今度はリヒャルトが私を盾に国をいいようにしちゃうってわけ?」

 はす向かいに座るリヒャルトに冷たい視線を向ければ、「そうだな」と短い答えが返った。

 なんとなく、否定されるのを待っていた気がする。そのことに気が付いて、自分自身に腹が立った。
 だけどリヒャルトの言葉はそれで終わりじゃなかった。

「だからユリシア。おまえには、私の妻となってもらう」

「――ん?」

 あまりの疑問に、私はぽてりと首を傾げた。

「んん?」

 リヒャルトの顔は大真面目なままだった。
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