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第一章 神様なんて信じてないのに聖女とか
7.脅されて
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リヒャルトは第一王子。
ということは王太子。
ということはその妻は、王太子妃。
ということは、だ。
ゆくゆくは王妃となるわけで。
「ユリシア。私と結婚してくれ」
もっかい言い直して欲しかったわけじゃない。
「だから、なんで?」
「おまえを利用するためだ」
そこ、はっきり言う?
素直ならなんでも笑って許せるわけじゃないぞこのやろう。
「それでどうして結婚する必要があるのよ。ただ聖女として城に行けばよかったんじゃないの?」
「それでは教会にとられてしまうだろう?」
まあ、そうだよね。どうやって城に置いとくんだろうって思ってたもん。
だからって王太子妃かい。
「いやいやいや、そんな結婚認められるの? 聖女が王子と結婚なんてしちゃっていいの?」
「聖女が不幸であることは国の不幸だ。聖女の望みは最大限叶えられる」
私は望んでない。
「じゃあ家に帰してよ!」
「断る」
「なんでよ!!」
横暴だ!
言ってることとやってることが違う!!
「教会に対する建前だ。教会にとっては建前が大変重要なのだからな。聖女が私の傍にいることを強く望んでいるから結婚すると伝えれば、喜んで差し出すほかあるまい」
「じゃあ傍にいるだけでいいじゃない。結婚までする必要ある?」
「王子の私の傍に女であるおまえがずっといるのだぞ。嫁に来た者に、おまえは一生いびり抜かれることになるが?」
つまり、結婚した方が楽だよと言いたいのか。
なんて見事な追い詰めぶりだろう。
どんどん逃げ道を失くされていく気がする。何故だか背中には冷や汗をかいていた。
ぐぬぬぬぬ、と私が逃げ道を探していると、リヒャルトはふと思い出した、という顔であらぬ方を見た。
「そう言えば、私は聖女を探すためにあの村の家々を回っていたんだがな」
あ。
と思った。
その話がどこへ向かうのか一瞬で気が付いた。
まずい。
「申し訳ないことではあるが、国のためだからな。家々の壁に張り付き、中の様子を窺っていた。近頃神にこの大雨を降らせるに至った恋をした者はいないかと」
やっぱり――。
「そこで、ある家で浮かれた声が聞こえてきたもので、もしやここかと狙いを定め様子を窺っていたのだ。するとあの日、激しく怒り、罵る声が聞こえたのだ。『神様なんてク』」
「わーーーーー!!!」
――詰んだ。
私の叫びで掻き消したけど、その間もリヒャルトの口はしっかりと動いていた。『ソだわ、クソ!!』とアレクシアの放った言葉の続きを。
ちらりとリヒャルトの視線が私に還る。
「聞き間違いであればいいのだが。教会におまえを引き渡すことになれば、悲しみでうっかり思い出話をしてしまうかもしれないなあ」
背筋を汗が流れる。
あれを言ったのは私ではない。
アレクシアだ。
だけど私達姉妹の声の違いが、見知らぬリヒャルトに聞き分けられるはずもない。しかもあの大雨の中、壁を隔てていたのだ。
リヒャルトの中では聖女が怒っているのを聞いていたというわけなのだから、あれを言ったのも私だということになる。
勿論、私はアレクシアとは違って、姉を売ったりするような人間でもない。
覚悟を決めるしかない。
私は小さく息を吐き出し、ぐっと拳を握り締めた。
「よきにはからっていただけるよう、謹んでよろしくお願い申し上げます」
知っている限りの最大限の敬語を駆使し、私は平伏した。
勿論、伏せた顔は悔しさで赤黒くなっていたことだと思う。
「ということは、王太子妃となってくれるのだな?」
確認するように問われれば、否やは言えるはずもない。
「はい――」
私は顔を俯けたまま、ただそれだけを答えた。
「そうか。すまない」
何故かリヒャルトはそう言った。
脅しておきながら、どうしてそんなに良心が痛むというような声で言うんだろう。
ちらりと顔を上げれば、思い通りに事が運んで喜ぶ顔ではなく、陰鬱に翳る顔がそこにはあった。
国のために動かねばならない王子だから、己の意思に反することでもこうして人に強いなければならないんだろう。
たぶんリヒャルトは悪い人ではない。
それだけはわかってしまった。
だから、私はリヒャルトを憎むことも、怒りを向けることもできなくなってしまった。
ということは王太子。
ということはその妻は、王太子妃。
ということは、だ。
ゆくゆくは王妃となるわけで。
「ユリシア。私と結婚してくれ」
もっかい言い直して欲しかったわけじゃない。
「だから、なんで?」
「おまえを利用するためだ」
そこ、はっきり言う?
素直ならなんでも笑って許せるわけじゃないぞこのやろう。
「それでどうして結婚する必要があるのよ。ただ聖女として城に行けばよかったんじゃないの?」
「それでは教会にとられてしまうだろう?」
まあ、そうだよね。どうやって城に置いとくんだろうって思ってたもん。
だからって王太子妃かい。
「いやいやいや、そんな結婚認められるの? 聖女が王子と結婚なんてしちゃっていいの?」
「聖女が不幸であることは国の不幸だ。聖女の望みは最大限叶えられる」
私は望んでない。
「じゃあ家に帰してよ!」
「断る」
「なんでよ!!」
横暴だ!
言ってることとやってることが違う!!
「教会に対する建前だ。教会にとっては建前が大変重要なのだからな。聖女が私の傍にいることを強く望んでいるから結婚すると伝えれば、喜んで差し出すほかあるまい」
「じゃあ傍にいるだけでいいじゃない。結婚までする必要ある?」
「王子の私の傍に女であるおまえがずっといるのだぞ。嫁に来た者に、おまえは一生いびり抜かれることになるが?」
つまり、結婚した方が楽だよと言いたいのか。
なんて見事な追い詰めぶりだろう。
どんどん逃げ道を失くされていく気がする。何故だか背中には冷や汗をかいていた。
ぐぬぬぬぬ、と私が逃げ道を探していると、リヒャルトはふと思い出した、という顔であらぬ方を見た。
「そう言えば、私は聖女を探すためにあの村の家々を回っていたんだがな」
あ。
と思った。
その話がどこへ向かうのか一瞬で気が付いた。
まずい。
「申し訳ないことではあるが、国のためだからな。家々の壁に張り付き、中の様子を窺っていた。近頃神にこの大雨を降らせるに至った恋をした者はいないかと」
やっぱり――。
「そこで、ある家で浮かれた声が聞こえてきたもので、もしやここかと狙いを定め様子を窺っていたのだ。するとあの日、激しく怒り、罵る声が聞こえたのだ。『神様なんてク』」
「わーーーーー!!!」
――詰んだ。
私の叫びで掻き消したけど、その間もリヒャルトの口はしっかりと動いていた。『ソだわ、クソ!!』とアレクシアの放った言葉の続きを。
ちらりとリヒャルトの視線が私に還る。
「聞き間違いであればいいのだが。教会におまえを引き渡すことになれば、悲しみでうっかり思い出話をしてしまうかもしれないなあ」
背筋を汗が流れる。
あれを言ったのは私ではない。
アレクシアだ。
だけど私達姉妹の声の違いが、見知らぬリヒャルトに聞き分けられるはずもない。しかもあの大雨の中、壁を隔てていたのだ。
リヒャルトの中では聖女が怒っているのを聞いていたというわけなのだから、あれを言ったのも私だということになる。
勿論、私はアレクシアとは違って、姉を売ったりするような人間でもない。
覚悟を決めるしかない。
私は小さく息を吐き出し、ぐっと拳を握り締めた。
「よきにはからっていただけるよう、謹んでよろしくお願い申し上げます」
知っている限りの最大限の敬語を駆使し、私は平伏した。
勿論、伏せた顔は悔しさで赤黒くなっていたことだと思う。
「ということは、王太子妃となってくれるのだな?」
確認するように問われれば、否やは言えるはずもない。
「はい――」
私は顔を俯けたまま、ただそれだけを答えた。
「そうか。すまない」
何故かリヒャルトはそう言った。
脅しておきながら、どうしてそんなに良心が痛むというような声で言うんだろう。
ちらりと顔を上げれば、思い通りに事が運んで喜ぶ顔ではなく、陰鬱に翳る顔がそこにはあった。
国のために動かねばならない王子だから、己の意思に反することでもこうして人に強いなければならないんだろう。
たぶんリヒャルトは悪い人ではない。
それだけはわかってしまった。
だから、私はリヒャルトを憎むことも、怒りを向けることもできなくなってしまった。
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