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第6話

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「なん……だと?」

「先程陛下が決定を下されたのですよ。私の口からお伝えするようなことではありませんので黙っておりましたが、さすがご慧眼、あっさりと露見してしまいましたね」

 と言いながらとても楽しそうなお義兄様。言いたくてたまらないようだ。

「おい。何の話だ?」

 ついていけていないのは私も同じだった。
 さっきは私がいきなり結婚してたとか義兄妹で?! とかいう驚きをなんとか飲み込むのに精いっぱいだったのに、今はもう別の戸惑いの中にいる。
 置いてきぼり感がすごい。

「このような場でお伝えしてもよろしいのですか?」

「うるさい、早く言え! 父上は一体何を決めたというのだ」

「殿下は隣国サマジェンダにお婿に行かれることになりました」

 もったいぶった割にはさらりと口にした言葉にその場は一気に静まり返った。
 お婿……? と、殿下が口の中で呆然と呟く声だけがぽつりと響く。

「はい。それも、一度子爵家の養子になり王家の籍から抜いた後、サマジェンダ女王の九番目の夫となられるそうです」

 サマジェンダは女王が治める国だ。一妻多夫性で、夫には序列がある。九番目ともなれば外交のために仕方なく宮廷の隅に置かれるような存在であり、どう考えてもラルカス殿下が思い描いていただろう未来とは真逆だ。
 女王との子ができてもこの国の王位継承権を与えないために臣籍降下させられたのであろうから、子供を使って返り咲くこともできない。

「子爵? 私が婿……それも九番目だと? おい、面白くもない冗談を言うな」

「ラルカス元殿下が良くもない頭で王太子殿下のお命を狙ったりするからですよ。関係者は既に捕らえられ、取り調べを受けております。それでも血の繋がりゆえか、陛下もさすがに元殿下のお命をとるのははばかられたようですね。どうかあちらでお幸せにお暮しください」

 私同様、やっと理解したのか周囲は一気にざわめき出した。

「ついに露見したのか」
「時間の問題だとは思っていたが」
「決断を下されたのが遅かったのではないかと思うくらいだな」

 そんな声と視線に刺され、ラルカス殿下は蒼白な顔で周囲を見回した。

「おい、お前たち。嘘だろう。誰か嘘だと言え!」

 誰も殿下とは目を合わせようともしないが、それでもざわざわとした声をやめない。

「やめろ! まだ私は父から何も聞いていない。確かでもない話を勝手に流すな、信じるな! こいつの嘘かもしれないだろう」

「そんな嘘をこのような場で口にすれば私の首の方が飛びます。そこまで愚かではございません」

「うるさい! おい、お前らもだぞ! 今から喋った奴は口をもぐぞ!」

 もちろん従う者などいない。
 止まらないざわめきに、殿下は噛みつきそうな顔で周囲を睨み回していた。
 そんな殿下に、お義兄様は残念そうな顔を向ける。

「ですから最初に申し上げたではありませんか。この場を続けて損をするのは殿下お一人であると」

 確かにお義兄様は何度も忠告していた。
 しかしそれがこんな話に繋がっていくとは夢にも思わなかったことだろう。
 ただでさえ殿下はお姉様をつるし上げることしか考えていなかったのだから。

 殿下はお義兄様の言葉にぎりぎりと奥歯を噛みしめ、それからはっとして取り巻きの令嬢たちに顔を向けた。

「トリアンナ、ルース、ジュリエッタ、こうなったら私と共に逃げよう」

「いえ。私たちは殿下に労をかけていただくほど価値がある者ではございませんので」

 令嬢たちは口元を扇で隠し、すました笑顔で一礼すると輪を外れて歩き出した。
 先程言われたことはしっかり覚えていたらしい。
 そのまま私の元へとやってくると、揃って一礼した。

「シェイラ様、先程は申し訳ありませんでした。私達も自分の身を守るのに必死だったものですから」

「いいわ、お互い様だもの。でも申し訳ないと思ってくれるなら、貸し一つね」

「公爵夫人に許していただけるのであれば、お安いご用ですわ。公爵閣下は次期宰相候補でもあらせられますしね」

 ちらりとお義兄様に流し目を送った抜け目ない令嬢たちに苦笑し、揃って歩き去るのを見送った。

 お義兄様は「では」と笑みを浮かべたまま頭を下げると、私の手を取って歩き出した。
 お姉様もそれにならうように歩き出そうとした。
 その時だった。

「待て!」

 憎々しげに顔を歪めた殿下が、お姉様の腕を強引に引っ張った。
 姿勢を崩したお姉様は悲鳴を飲み込み、よろめいた。
 その手をひねりあげるようにすると、殿下は凶悪に笑った。

「隣国に人質に出されるくらいなら、お前を人質にして逃げてやる」
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