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第七話 いるはずのない人
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「あーっはっはっは!! 魔物がゴミのようね!」
哄笑を響かせるのは、剣を手にしたプリメラ。
目の前には、ロードと二人で切り倒した魔物たちの屍。
ロードはなんとしてでもプリメラを守る覚悟を決め岩山へと踏み入ったのだったが、そんな気負いなど不要だったかもしれない。
ロードが前に出ようとしても、気づけばプリメラはガンガンと魔物がはびこる道を切り開いていた。
王女でありながら、一体どこで剣の修行を積んだのだろうか。
王太子は第一騎士団で稽古を積み、専属の師もいたというがプリメラがそのように剣を振るっていたという話は聞いたことがない。
見渡す限り起き上がる魔物がいなくなり、ロードが一息ついたところでプリメラはおもむろに屈みこんだ。
気分でも悪くなったのかと慌てて近づくと、プリメラはまだ息がある魔物をつんつんしていた。
「何をしている」
「まだ生きてるわね」
子供か。
親がいたら「こら! やめなさい!」と怒られるところだが、ロードは何とも言えずプリメラのつむじを見下ろすだけ。
なんだこの不可解な生き物はと訝しむ目で。
プリメラはそんなロードをひょいっと見上げると、「これ」とぴくぴく痙攣する魔物を指さした。
「触ってみて」
「あ?」
「その皮の手袋を脱いで、触ってみて」
御免こうむりたい。
だが意図がわかるだけに断るわけにもいかない。
仕方なくため息を堪えて手袋を脱ぐと、屈みこんで人差し指の先でちょいとつつく。
まるでプリメラと同じ構図になった。
「ぼろぼろにならないわね」
いくら口でないと言っても証明にはならない。
だから、早速確認しているだけなのだとわかってはいるが。
「そもそも触れる物みなぼろぼろにするなら、まずその皮手袋がぼろぼろになるわよね。何故手袋なら例外と思い込むのかしら、あの小童どもは」
中年も壮年もいる騎士団員を小童と言い捨てるところが恐ろしいが、精神的幼さを揶揄しているのだろう。
「この手袋は、周りの人間の不安が減ればとつけているだけだからな」
正直を言えば、こちらからするといちいち怯えられるのも面倒なのだ。
「知ってるわ。だけど一言も『この皮手袋は特別性で、これを嵌めていれば触れても物がぼろぼろになることはありません!』って言ったわけではないでしょう」
勝手にそう見て安心しただけ。
その通りなのだが、あるのかないのか証明できない呪いと共存していくには役立つ思い込みではある。
プリメラは「さて」と立ち上がると、ぶんっと剣についた血を振り落とし、鞘に納めた。
「次は『危機的状況で呪いの力が発現する』のか、見ててあげるわ。この私が」
そう言って魔物の屍を跨ぎ、すたすたと足を進めた。
「待て。先を歩くな」
「道、知らないでしょ? それと、寄るところがあるの」
岩山の中にそんな気軽に寄っていくようなところなどあっただろうか。
勘で歩いているようにも見えないが、そもそも何故王女が道を知っているのか。
仕方なくロードは周囲を警戒しつつ、後ろについて歩いた。
「もしも王女の身に何かあれば、俺はたたではすまない。前を歩かせてくれないか。道は指示してくれればいい」
「どうせ生贄として捧げられようとしていた命よ。気にすることはないわ」
「俺が気にする」
「あら。呪いなどないと言われても気になるのと同じね」
プリメラはふふ、と笑い、どんどん先へと進む。
父である国王にとっても、国民にとっても、失われてもいいと納得されていた命。
それはプリメラの中に強く根付いているのだろう。
ロードが呪いの言い伝えと共に生きてきたように。
だがロードにとっては既に、失われてもいい命などではない。
プリメラには生きていてほしいと思う。
うまく言葉にはできない。
だがきっとプリメラはこの国にとって必要だ。いつかこの国を変えるだろうと思わされるから。
それでもプリメラにとっては、生贄という立場から解放してくれた兄王子に報いることが第一で、だからこそ兄のために役に立たなければと無鉄砲なまでに突き進むのだろう。
ロードが黙ってしまったのを怒ったからだと捉えたのか。
「体の大きいロードが前にいたら見えないじゃない。そのほうが咄嗟に反応できないし、危ないと思わない?」
「わかった。だが突っ込むのだけはやめてくれ」
二度と。
既に先程心臓が潰れる思いをしている。
だが先程までの乱戦模様が嘘のように、進む先には魔物の気配がなかった。
なんだか空気も違う。
プリメラもそれには気づいているのだろう。先程よりも足取りがゆっくりだ。
いや、疲れているのかもしれない。
あそこまで剣が振れるとは想定外すぎたとはいえ、なにせ彼女は王女なのだから。
しばらくただ道なりに進んでいくと、だんだん苔が生えてきていることに気が付く。
よく見れば壁も地面も湿気があるようで、松明をぬらりと照り返している。
気付けば、もうしばらく魔物と遭遇していない。
気配も感じなかった。
進むにつれ湿気は強くなり、洞窟の天井から、ぴちょん、ぴちょん、と垂れる水音が洞窟内にこだまするようになった。
目の前に見える分かれ道を、プリメラは迷うことなく右に進んだ。
「――ここに来たことがあるのか?」
「いいえ。だけど知っているわ」
やはり。
勘で進んでいるにしても迷いがなさすぎるから。
しかし一体誰から聞いたのか。
岩山は立ち入り禁止になっているが、生贄を送る時はもちろん入らねばならない。その同伴の騎士からでも道を教えてもらったのだろうか。
だが答えはすぐに知れた。
進む先にぼんやりとあかりが見えてきて。
光源は明らかに手元の松明とは異なる。
「あれは……。誰かいるのか?」
魔物退治で稼いでいる傭兵が入り込んだのかもしれない。
魔王の封印がどこにあるのか知っている可能性もある。
プリメラの後について、慎重に、しかし自然とこれまでより足早になり灯りの漏れ出る角を曲がる。
すると。
そこには座り込んだ人影があり、二人の足音に、金色の長い髪をなびかせくるりと振り返った。
その口元からは真っ赤に滴る血のような――
心臓が止まるかと思った。
しかしプリメラはぱっと駆け出し、弾んだ声を上げた。
「ブリジットお姉様!」
「ん? プリメラじゃない。生贄はもういらなくなったんでしょ? なんであんたがここにいるのよ」
荒々しく口元の赤い汁を拭うのとは反対の手には、齧られた跡のある赤い果実が握られていた。
哄笑を響かせるのは、剣を手にしたプリメラ。
目の前には、ロードと二人で切り倒した魔物たちの屍。
ロードはなんとしてでもプリメラを守る覚悟を決め岩山へと踏み入ったのだったが、そんな気負いなど不要だったかもしれない。
ロードが前に出ようとしても、気づけばプリメラはガンガンと魔物がはびこる道を切り開いていた。
王女でありながら、一体どこで剣の修行を積んだのだろうか。
王太子は第一騎士団で稽古を積み、専属の師もいたというがプリメラがそのように剣を振るっていたという話は聞いたことがない。
見渡す限り起き上がる魔物がいなくなり、ロードが一息ついたところでプリメラはおもむろに屈みこんだ。
気分でも悪くなったのかと慌てて近づくと、プリメラはまだ息がある魔物をつんつんしていた。
「何をしている」
「まだ生きてるわね」
子供か。
親がいたら「こら! やめなさい!」と怒られるところだが、ロードは何とも言えずプリメラのつむじを見下ろすだけ。
なんだこの不可解な生き物はと訝しむ目で。
プリメラはそんなロードをひょいっと見上げると、「これ」とぴくぴく痙攣する魔物を指さした。
「触ってみて」
「あ?」
「その皮の手袋を脱いで、触ってみて」
御免こうむりたい。
だが意図がわかるだけに断るわけにもいかない。
仕方なくため息を堪えて手袋を脱ぐと、屈みこんで人差し指の先でちょいとつつく。
まるでプリメラと同じ構図になった。
「ぼろぼろにならないわね」
いくら口でないと言っても証明にはならない。
だから、早速確認しているだけなのだとわかってはいるが。
「そもそも触れる物みなぼろぼろにするなら、まずその皮手袋がぼろぼろになるわよね。何故手袋なら例外と思い込むのかしら、あの小童どもは」
中年も壮年もいる騎士団員を小童と言い捨てるところが恐ろしいが、精神的幼さを揶揄しているのだろう。
「この手袋は、周りの人間の不安が減ればとつけているだけだからな」
正直を言えば、こちらからするといちいち怯えられるのも面倒なのだ。
「知ってるわ。だけど一言も『この皮手袋は特別性で、これを嵌めていれば触れても物がぼろぼろになることはありません!』って言ったわけではないでしょう」
勝手にそう見て安心しただけ。
その通りなのだが、あるのかないのか証明できない呪いと共存していくには役立つ思い込みではある。
プリメラは「さて」と立ち上がると、ぶんっと剣についた血を振り落とし、鞘に納めた。
「次は『危機的状況で呪いの力が発現する』のか、見ててあげるわ。この私が」
そう言って魔物の屍を跨ぎ、すたすたと足を進めた。
「待て。先を歩くな」
「道、知らないでしょ? それと、寄るところがあるの」
岩山の中にそんな気軽に寄っていくようなところなどあっただろうか。
勘で歩いているようにも見えないが、そもそも何故王女が道を知っているのか。
仕方なくロードは周囲を警戒しつつ、後ろについて歩いた。
「もしも王女の身に何かあれば、俺はたたではすまない。前を歩かせてくれないか。道は指示してくれればいい」
「どうせ生贄として捧げられようとしていた命よ。気にすることはないわ」
「俺が気にする」
「あら。呪いなどないと言われても気になるのと同じね」
プリメラはふふ、と笑い、どんどん先へと進む。
父である国王にとっても、国民にとっても、失われてもいいと納得されていた命。
それはプリメラの中に強く根付いているのだろう。
ロードが呪いの言い伝えと共に生きてきたように。
だがロードにとっては既に、失われてもいい命などではない。
プリメラには生きていてほしいと思う。
うまく言葉にはできない。
だがきっとプリメラはこの国にとって必要だ。いつかこの国を変えるだろうと思わされるから。
それでもプリメラにとっては、生贄という立場から解放してくれた兄王子に報いることが第一で、だからこそ兄のために役に立たなければと無鉄砲なまでに突き進むのだろう。
ロードが黙ってしまったのを怒ったからだと捉えたのか。
「体の大きいロードが前にいたら見えないじゃない。そのほうが咄嗟に反応できないし、危ないと思わない?」
「わかった。だが突っ込むのだけはやめてくれ」
二度と。
既に先程心臓が潰れる思いをしている。
だが先程までの乱戦模様が嘘のように、進む先には魔物の気配がなかった。
なんだか空気も違う。
プリメラもそれには気づいているのだろう。先程よりも足取りがゆっくりだ。
いや、疲れているのかもしれない。
あそこまで剣が振れるとは想定外すぎたとはいえ、なにせ彼女は王女なのだから。
しばらくただ道なりに進んでいくと、だんだん苔が生えてきていることに気が付く。
よく見れば壁も地面も湿気があるようで、松明をぬらりと照り返している。
気付けば、もうしばらく魔物と遭遇していない。
気配も感じなかった。
進むにつれ湿気は強くなり、洞窟の天井から、ぴちょん、ぴちょん、と垂れる水音が洞窟内にこだまするようになった。
目の前に見える分かれ道を、プリメラは迷うことなく右に進んだ。
「――ここに来たことがあるのか?」
「いいえ。だけど知っているわ」
やはり。
勘で進んでいるにしても迷いがなさすぎるから。
しかし一体誰から聞いたのか。
岩山は立ち入り禁止になっているが、生贄を送る時はもちろん入らねばならない。その同伴の騎士からでも道を教えてもらったのだろうか。
だが答えはすぐに知れた。
進む先にぼんやりとあかりが見えてきて。
光源は明らかに手元の松明とは異なる。
「あれは……。誰かいるのか?」
魔物退治で稼いでいる傭兵が入り込んだのかもしれない。
魔王の封印がどこにあるのか知っている可能性もある。
プリメラの後について、慎重に、しかし自然とこれまでより足早になり灯りの漏れ出る角を曲がる。
すると。
そこには座り込んだ人影があり、二人の足音に、金色の長い髪をなびかせくるりと振り返った。
その口元からは真っ赤に滴る血のような――
心臓が止まるかと思った。
しかしプリメラはぱっと駆け出し、弾んだ声を上げた。
「ブリジットお姉様!」
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