元ヒロインだけど大好きな幼馴染ルートがないとか言われたので、悪役令嬢と手を組んでこの世界をぶっ壊す!

佐崎咲

文字の大きさ
17 / 38
第二章 攻略対象とそうでない人々

5.何より優先すべきもの

しおりを挟む
 馬車が家に着くと、ちょうどアレクが玄関から出てきたところだった。

「アレク! 来てたのね」

 思わず駆け寄って飛びつきそうになったけど、ぐっと堪えた。
 イリーナといろいろ話した結果、私はアレクとどう接するのが正解なのか、わからなくなっていた。
 私が腕を出したり引っ込めたりしていると、アレクは首を傾げながらも楽しそうにくすくすと笑った。

「やあ、ユニカ。今日も元気そうだね」

 それだけが私の売りです。

「アレク、国境の戦線に行くって聞いたわ。いつ頃になるの?」

「まだわからないんだ。だけどそう遠くないと思う」

 私の眉毛がこれ以上ないほど下がっていることに気付いたのだろう。
 アレクはふっと笑って、私の頭にポンと手を置いた。

「心配しなくても大丈夫だよ。俺は強いから。ユニカの方が心配だなあ。いろいろと危ないことに首を突っ込みそうで」

 私はギクリとした。「俺は強いから」とか言っちゃうアレクかっこいいとか思ってる場合じゃない。なんかやぶへびだった。
 私の動揺を見抜いたように、アレクが私の瞳を深く覗き込む。

「周りの人をよく見てとは言ったけど、自分の身が一番大事だからね。それを忘れないで。この間もルーイ君を庇って間に入ったりしてたからさ、ちょっと心配で」

 その件か、と私はほっと頬を緩める。

「大丈夫だよ、ありがとう。アレク、出兵する前にまた会いに来てね。せめてお見送りがしたいから」

 アレクは「わかった」と返してくれたけど、来ないような気はした。
 私が心配するのがわかってるから。きっと私は泣いてしまうから。
 私は無理矢理に笑顔を張り付けて、「そうだ」ととってつけたように声を上げた。

「その前に会ってほしい人がいるんだけど。今って、帰るところだった? 少し時間もらえないかな」

「今日はこの後、予定があるんだ。ごめんね」

「そっか。じゃあ、また今度」

 アレクは手を振って去って行き、私はイリーナを待たせていたことを思い出して慌てて玄関へと入っていった。

     ◇

 で。
 ティールームにてイリーナに今日あったことを順に話し、「大バカ者!」と怒られたのである。
 部屋に入った時は何故かイリーナの方が動揺していたのに、私が話し始めた途端、そんなことも忘れたようにその顔は険しくなっていった。

 怒りの原因は、聖剣の乙女か確認するため、舞踏会に参加すると承諾したこと。
 怯みながらも一通り話し終えると、イリーナはソファに深く沈み込み、考え込んでしまった。

「結論から言うと、その舞踏会であなたは聖剣を抜くわ。そして戦に出て、魔を祓い、聖剣の乙女として崇められフリードリヒと結婚するのがメインストーリーのハッピーエンド」

「聖剣の乙女とか、なんでそんな大事な仕事のこと話してくれなかったの? 滅茶苦茶驚いたんですけど。『ふぁ』とか言ったわ、王子の前で」

「本当は、剣技の試験で見事な『華』を披露することによって起きることだったのよ。でも実際は違うかたを選んだから、試験会場でユニカが聖剣の乙女なんじゃないかとフリードリヒが騒ぎ出すこともなかったし、その場で検証とお披露目のための舞踏会の開催が決められることもなかった。起きるはずのイベントがあったって言ってたのはこのこと。でもタイミングが変わってもやっぱり大きな流れは変わらないのね……」

 イリーナが考え込むように視線を落とした。

「やっぱり彼の言ってた通りだわ。私が甘かった。最も大きなリスクを回避するべきだったのよ」

「彼って誰?」

「あ……、いや、うん。木こりの彼にね、少し相談したの。彼には全て話してあるから。そうしたら、『愛だ恋だよりも、人命を優先すべき』って言われたのよね。もっともではあるんだけど、まさかそのルートはもうないと思ってたから」

 確かイリーナは先日、辿るストーリーや選ぶ相手によって結末が変わると言っていた。
 本筋から外れたようでも結局メインストーリーに寄って行ってしまっている現状で、元々存在しなかったアレクルートはどうしたら切り開かれるのだろうか。
 それに先程イリーナは「メインストーリーのハッピーエンド」と言っていたが、他のストーリーはどうなっているのだろうか。

「ねえ、バッドエンドってどんなの?」

 そう聞くと、イリーナは答えづらそうに一度口を閉じた。

「……誰からの好感度も一定以上に上がらず、誰とも恋愛に発展しないと、祓うつもりが逆にユニカが魔に取り憑かれるの。それでフリードリヒに物理的に一刀両断されて終わり。まあ、世界的にはいずれにしてもハッピーエンドだけど」
「エグイわね」

 私一人の損失など世界の幸せには何ら影響しないのだという事実を突きつけるイリーナが。

「まったく救いがないよりあなたも報われるでしょ? きっと、それくらいのペナルティを用意しとかないと、プレイヤーの張り合いがないからそんなルートが存在するんだと思う。全員の好感度を上げようとして結果として一つも規定値に達しないってことがあるから」

 しかし、それを聞くと不安になった。

「アレクが傷つかなくて済むなら私が戦いに出るつもりだったけど、聖剣の乙女になっちゃったらフリードリヒエンドしかなくなるってこと?」

「そういうわけじゃないわ。確かにそれでフリードリヒエンドのフラグは立つんだけど、他に親密度が規定値に達していて、かつフラグが立ってる人がいれば、戦が終わった後にその中から一人をダンスパーティの相手として選べて、その人と結ばれるエンディングになるの」

「ダンスパーティって、卒業式後の……? じゃあそこに、アレクを連れて行けばいいのね。でも学園の卒業式なのに、どうやって……父兄として? いやそれなんか複雑だし」

 私がそうやって一人ぶつぶつと考えこんでいると、イリーナがじっと黙って言葉を発さないことに気が付いた。
 どうしたのかと顔を上げると、何とも言えない顔をしてこちらを見ていた。

「何、イリーナ」

 その顔、不穏なんでやめてほしいんですけど。

「うん……。あのさ。そのダンスパーティ、どうやってもアレクは来られないのよ」

 あ、聞きたくない。
 咄嗟にそう思ったが、イリーナは間髪入れずに続けた。

「アレク、その戦いで聖剣の乙女を守って死ぬから」

 私の心は、今ここで一度死んだ。

 けれど、恐るべき速さで回復し、再び立ち上がった。

「そんな世界なら、ぶっこわーーーーーす!!!」

 私はトップギアでぶち切れた。
 そんな世界、神が許してもこの世界に生きる私が許せるものか。

 ゲームに必要なのは盛り上がりと飽きない展開、つまりは面白さだとイリーナは言っていた。
 この世界を創ったどこかの神には、そこに生きる人たちがどれだけひたむきに生きているかなんて見てもいないんだろう。
 だけどここでは、アレクだけじゃなく、みんなが色々な気持ちを抱えて懸命に生きている。今の私にはそれがよくわかる。

「なんでアレクが死ぬか私が死ぬかなのよ! 無理矢理に戦を起こして、人が死んでお涙頂戴で盛り上がるのがゲームだっていうなら、そんな世界はクソくらえよ!」

 苗佳や暖人にとってここはゲームの世界で都合よく作られたものでも、ここに生きる私たちにとっては現実だ。
 そんな劇的な展開なんていらない。
 普通に、みんなが幸せに生きていきたいだけなのに。

 悔しかった。私は今まで、抗おうとしていてもゲームの枠の中に見事に嵌って生きてきたのだと思い知ったから。
 これまで私は、執拗な意地悪にも優しく助けられてきた。それはここがゲームの世界で、私がヒロインだから。
 だけどヒロインだから、必然として劇的な起伏のあるストーリーに巻き込まれる。
 そのことをよく自覚しておくべきだった。
 アレクには既に婚約者がいて、ヒロインである私とは結ばれない完全な脇役なのに、わざわざ戦に行くという設定が用意されているのは何のためか。ゲームや物語の世界には脇役のどうでもいい話なんて出てこない。
 必然だとしたらそれらは全て伏線である。
 アレクの死は、終盤に向けて話を盛り上げるべく組み込まれたものなのだ。

 この悔しさをどこに向ければいいのか。
 私はどこの誰にかもわからない、ただ天井に向かって声を張り上げ、きっ、ときつく天井を睨んだ。

「ストーリーのために人を殺すんじゃないわよ。人の命を弄ぶな。そんなやりつくされた安易なストーリーのどこが面白いっていうのか、ここに降りてきて小一時間で説明しなさいよ! それができないんなら黙って見てなさい。アレクが死ななくたって、面白くして見せるから」

 だから。
 お願いだから面白さのためなんかで、アレクの命を奪ってしまわないで。

 私はいつの間にか零れ落ちていた涙をぐいっと拭うと、ひたすらに考えた。
 どうしたらアレクが死ななくて済むのか。
 アレクだけじゃない。私が前線に出れば守ろうとして兵士たちの犠牲も増える。
 そもそも誰も望んでいない戦で多くの兵士たちが傷つき命を失くしている。戦をこのままにしておくこともできない。

 現実を変えるのは神じゃない。
 自分だ。

 今の時点で未来に起きうることを知れたのだから、それをアドバンテージだと思おう。
 考えなくてはならない。
 私は少しずつ冷静さを取り戻すと、イリーナと再び作戦会議を始めた。
 アレクと結ばれるためじゃない。
 アレクも、誰も望んでいない戦に向かう兵士たちも、命を落とさずに済む方法を考えるために。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、 この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。 自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。 ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、 それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___ 「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、 トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘! そんな彼女を見つめるのは…? 異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

処理中です...