2 / 5
第2話
しおりを挟む
火打石に縄、それから干し肉を物々交換で商人から手に入れた彼女は、今度はそれらの使い方を使用人たちから学び始めた。
「いきなり薪に火が付くわけじゃないんですよ。火打石の傍に燃えやすい物、たとえば木くずなんかを置いて、火種を作るんです。それを細く割った木の棒に移して、だんだん火を大きくしていくんですよ」
「縄が簡単に解けないようにするには何歳くらいになればできるかって? 子供だってできますよ。力じゃないんです、縛り方があるんですよ」
「干し肉は確かに日持ちはしますがそのまま食べるのではなく、火で炙って食べた方がいいですよ」
ふんふん、といろんな人から情報収集をした彼女は、早速それを実践したくてたまらないようにうずうずとして見えた。
次に父に連れられファロウ伯爵家にお邪魔した時、彼女は相変わらず姿を見せなかった。
父親たちは話が弾んでいたので、私はルーシーを探しに行くと告げて散策に出た。
ルーシーはすぐに見つかった。
思った通り、裏庭にいた。
何故わかったのかというと、廊下を歩いていたら窓の外に煙が立ち上っているのが見えたからだ。
厨房からも遠いそんなところから煙が見えるのはおかしい。
窓から下を覗きたいけれど私の背では見えなくて、慌てて外に走り出した。
ルーシーは手に入れた火打石で薪に火を起こし、干し肉を炙って食べていた。
ふうふうと口をすぼめて焼きあがった肉を冷ますと、そっと口に運ぶ。
もこもことしばらく噛みしめると、ほうっとうっとりするように頬を緩めた。
なんともおいしそうに食べるものだ。
いつもの食事は食べ飽きてしまったのだろうか。
彼女は次々と焼けた肉を口に運んでは、もくもくとそれを噛みしめた。
興味と鼻を刺激するいい匂いにそそられ、「何をしてるの?」と声をかけると「肉を食べているの」と答えが返った。
見たままだった。
「食べる?」
棒に突き刺したそれを差し出され、おずおずと受け取る。
干し肉なんて、食べたことがない。
けれどさっきのおいしそうに食べる彼女の顔を思い出し、ぱくり、とかぶりついた。
思ったよりも固くない。
ぷりぷりしていて、噛みしめるほどにうまみがじわじわと出てくる。
「おいしい……」
思わず呟くと、ルーシーがにやりと笑った。
「食べたんだから、共犯ね」
初めてそんな顔を向けてくれたことに驚いて、嬉しくて、ルーシーと二人もくもくと食べた。
いつの間にか夢中になっていて、ガチャガチャンと繰り返し鳴り響くやかましい音と「キャー!?」という悲鳴が聞こえて初めてはっとした。
「何? 何の音?」
「ちっ。鬼婆が来た。逃げて、早く」
「ええ? ルーシーを置いて逃げられるわけないよ!」
「クランがいたら後で私がやばいことになるから。早く行って」
共犯だと言いながら私を逃がしたルーシーに後ろ髪を引かれながら、慌てて建物の陰に隠れた。
その後すぐにいくつかの足音がやってきて、「ルーシー」と硬い声がかけられた。
やってきたのは侍女を引き連れたファロウ伯爵夫人だった。
後妻で、ルーシーとは血が繋がっていないと聞いているけれど、いつもにこやかで、優雅な人という印象だった。
だから聞いたこともない硬い声を聞いて、私はどきりとした。
「ルーシー。ここで何をしているの?」
ルーシーは答えなかった。
ファロウ伯爵夫人は目に見えてぴくり、と眉を吊り上げた。
けれどすぐにはっとしたように窓の方に目を向け、眉を元に戻した。
「ルーシー、中で話をしましょう。二人はここを片付けてちょうだい。今はお客様がいらしているんだから、匂いも残らないように、完璧にね」
平静な口調で言いつけたファロウ伯爵夫人の後を、ルーシーは大人しくついていった。
その後すぐに、再びカチャンカチャンという音と「ギャー!! もう……!!」と怒りを吐き捨てる声が聞こえた。
足音が聞こえなくなってからそっと見に行くと、木と木の間に縄が結ばれていた。
大人のすねの高さで、間にはスプーンがいくつもぶらさげられていた。
先程のやかましい音は、ファロウ伯爵夫人がこれに足をひっかけて鳴ったものなのだろう。
ルーシーは誰かの接近を知らせるためにこんな罠を仕掛けたのに違いない。
ファロウ伯爵夫人がまさかの帰りまで引っかかっていたことを思い出すと笑い出しそうになってしまったが、それだけ怒りで冷静さを失っていたのかもしれない。
ルーシーは大丈夫だろうか。
心配だったけれど、ファロウ伯爵夫人が激昂するところなど想像できない。
邸の中は静かで、窓が開けられた廊下からは使用人たちがお喋りをしながら通り過ぎていく声だけが聞こえていた。
「いきなり薪に火が付くわけじゃないんですよ。火打石の傍に燃えやすい物、たとえば木くずなんかを置いて、火種を作るんです。それを細く割った木の棒に移して、だんだん火を大きくしていくんですよ」
「縄が簡単に解けないようにするには何歳くらいになればできるかって? 子供だってできますよ。力じゃないんです、縛り方があるんですよ」
「干し肉は確かに日持ちはしますがそのまま食べるのではなく、火で炙って食べた方がいいですよ」
ふんふん、といろんな人から情報収集をした彼女は、早速それを実践したくてたまらないようにうずうずとして見えた。
次に父に連れられファロウ伯爵家にお邪魔した時、彼女は相変わらず姿を見せなかった。
父親たちは話が弾んでいたので、私はルーシーを探しに行くと告げて散策に出た。
ルーシーはすぐに見つかった。
思った通り、裏庭にいた。
何故わかったのかというと、廊下を歩いていたら窓の外に煙が立ち上っているのが見えたからだ。
厨房からも遠いそんなところから煙が見えるのはおかしい。
窓から下を覗きたいけれど私の背では見えなくて、慌てて外に走り出した。
ルーシーは手に入れた火打石で薪に火を起こし、干し肉を炙って食べていた。
ふうふうと口をすぼめて焼きあがった肉を冷ますと、そっと口に運ぶ。
もこもことしばらく噛みしめると、ほうっとうっとりするように頬を緩めた。
なんともおいしそうに食べるものだ。
いつもの食事は食べ飽きてしまったのだろうか。
彼女は次々と焼けた肉を口に運んでは、もくもくとそれを噛みしめた。
興味と鼻を刺激するいい匂いにそそられ、「何をしてるの?」と声をかけると「肉を食べているの」と答えが返った。
見たままだった。
「食べる?」
棒に突き刺したそれを差し出され、おずおずと受け取る。
干し肉なんて、食べたことがない。
けれどさっきのおいしそうに食べる彼女の顔を思い出し、ぱくり、とかぶりついた。
思ったよりも固くない。
ぷりぷりしていて、噛みしめるほどにうまみがじわじわと出てくる。
「おいしい……」
思わず呟くと、ルーシーがにやりと笑った。
「食べたんだから、共犯ね」
初めてそんな顔を向けてくれたことに驚いて、嬉しくて、ルーシーと二人もくもくと食べた。
いつの間にか夢中になっていて、ガチャガチャンと繰り返し鳴り響くやかましい音と「キャー!?」という悲鳴が聞こえて初めてはっとした。
「何? 何の音?」
「ちっ。鬼婆が来た。逃げて、早く」
「ええ? ルーシーを置いて逃げられるわけないよ!」
「クランがいたら後で私がやばいことになるから。早く行って」
共犯だと言いながら私を逃がしたルーシーに後ろ髪を引かれながら、慌てて建物の陰に隠れた。
その後すぐにいくつかの足音がやってきて、「ルーシー」と硬い声がかけられた。
やってきたのは侍女を引き連れたファロウ伯爵夫人だった。
後妻で、ルーシーとは血が繋がっていないと聞いているけれど、いつもにこやかで、優雅な人という印象だった。
だから聞いたこともない硬い声を聞いて、私はどきりとした。
「ルーシー。ここで何をしているの?」
ルーシーは答えなかった。
ファロウ伯爵夫人は目に見えてぴくり、と眉を吊り上げた。
けれどすぐにはっとしたように窓の方に目を向け、眉を元に戻した。
「ルーシー、中で話をしましょう。二人はここを片付けてちょうだい。今はお客様がいらしているんだから、匂いも残らないように、完璧にね」
平静な口調で言いつけたファロウ伯爵夫人の後を、ルーシーは大人しくついていった。
その後すぐに、再びカチャンカチャンという音と「ギャー!! もう……!!」と怒りを吐き捨てる声が聞こえた。
足音が聞こえなくなってからそっと見に行くと、木と木の間に縄が結ばれていた。
大人のすねの高さで、間にはスプーンがいくつもぶらさげられていた。
先程のやかましい音は、ファロウ伯爵夫人がこれに足をひっかけて鳴ったものなのだろう。
ルーシーは誰かの接近を知らせるためにこんな罠を仕掛けたのに違いない。
ファロウ伯爵夫人がまさかの帰りまで引っかかっていたことを思い出すと笑い出しそうになってしまったが、それだけ怒りで冷静さを失っていたのかもしれない。
ルーシーは大丈夫だろうか。
心配だったけれど、ファロウ伯爵夫人が激昂するところなど想像できない。
邸の中は静かで、窓が開けられた廊下からは使用人たちがお喋りをしながら通り過ぎていく声だけが聞こえていた。
194
あなたにおすすめの小説
貴方は何も知らない
富士山のぼり
恋愛
「アイラ、君との婚約は破棄させて欲しい」
「破棄、ですか?」
「ああ。君も薄々気が付いていただろう。私に君以外の愛する女性が居るという事に」
「はい」
「そんな気持ちのまま君と偽りの関係を続けていく事に耐えられないんだ」
「偽り……?」
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。
あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。
そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。
貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。
設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
婚約破棄を言い渡された側なのに、俺たち...やり直せないか...だと?やり直せません。残念でした〜
神々廻
恋愛
私は才色兼備と謳われ、完璧な令嬢....そう言われていた。
しかし、初恋の婚約者からは婚約破棄を言い渡される
そして、数年後に貴族の通う学園で"元"婚約者と再会したら.....
「俺たち....やり直せないか?」
お前から振った癖になに言ってんの?やり直せる訳無いだろ
突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました
景
恋愛
パーティーの場でロイドが突如倒れ、メリッサに毒を盛られたと告げた。
メリッサにとっては冤罪でしかないが、周囲は倒れたロイドの言い分を認めてしまった。
信じてくれてありがとうと感謝されたが、ただ信じていたわけではない
しがついつか
恋愛
「これからしばらくの間、私はあなたに不誠実な行いをせねばなりません」
茶会で婚約者にそう言われた翌月、とある女性が見目麗しい男性を数名を侍らしているという噂話を耳にした
。
男性達の中には、婚約者もいるのだとか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる