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ダンジョン・ロマンティカ
第20話「声を上げる」
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十一月。
法案反対運動は、思わぬ広がりを見せた。
きっかけは奏太だった。
俺に打ち明けた翌日、奏太は自分のSNSアカウントに投稿した。
『僕は男です。そして、ダンジョンに憧れています。それは罪ですか?』
たった二行。でも、それが炎上した。
批判も来た。「男のくせに」「守られる立場を自覚しろ」「親が泣くぞ」。この世界の「常識」を背負った言葉の群れ。
でも同時に、賛同も来た。
『俺も同じことを思ってた。言えなかっただけ』
『男だからって夢を制限されるのはおかしい』
『探索者になりたい男の子がここにもいます』
声なき声が、奏太の二行に引き寄せられるように集まった。
日本中に、奏太と同じ思いを抱えた男たちがいた。夢を口にできず、「守られるべき存在」の檻に閉じ込められていた男たちが。
---
十二月。テレビの討論番組から出演依頼が来た。
「男性ダンジョン探索の是非」をテーマにした特集。賛成派のゲストとして、現役の男子高校生の意見を聞きたいと。
母さんは反対しなかった。
「れんが自分で決めなさい。……でも、何を言われても、折れないでね」
りんねえは「わたしがついていく」と言い張った。結局、保護者として母さんが同行し、りんねえは控室で待機することになった。
奏太も一緒に出ることになった。「僕も行く。……震えてるけど、行く」。その声は確かに震えていたが、目は真っ直ぐだった。
---
スタジオは、予想以上に殺伐としていた。
反対派のパネリストには、男性保護推進団体の代表や、社会学者、元政治家が名を連ねている。百戦錬磨の論客たち。対する賛成派は、ダンジョン産業の関係者と、俺と奏太。高校生二人。
「日向くん。あなたはダンジョンに潜りたいそうですが、男性の死亡リスクについてはどうお考えですか」
司会の問いかけに、カメラが向けられた。
「リスクは承知しています。でも、ダンジョン探索は男女関係なくリスクがある。女性の探索者だって命がけです。なのに、男だけ禁止するのは、安全の問題じゃなく、偏見の問題です」
「偏見とは厳しい言葉ですね。男性は数が少なく、社会的に保護すべき存在です。これは偏見ではなく現実でしょう」
「現実だからこそ、一人一人の意思を尊重すべきです。数が少ないから自由を奪っていいという理屈は、保護じゃなく支配です」
スタジオが静まった。
反対派の社会学者が眉を上げた。
「立派なお考えですが、あなたは十六歳。社会の現実を――」
「社会の現実なら、ここにいる柊が知っています」
奏太にマイクを向けた。奏太は真っ白な顔をしていたが、ゆっくりと口を開いた。
「……僕は、ずっとダンジョンに憧れていました。でも、誰にも言えなかった。母に一度だけ話したら、泣かれました」
声が震えている。でも、止まらない。
「この国には、僕みたいな男の子がたくさんいます。夢を見ることすら罪だと思わされている男の子が。……法律で禁止したら、その子たちの声は永久に消えます。それは保護じゃなく、沈黙の強制です」
カメラが奏太の涙を映した。
放送後、SNSは再び炎上した。賛否は半々。でも、「黙れ」と言われていた男たちの声が、確実に社会に届いた。
---
討論番組の反響は、仲間たちにも波及した。
紫月の全国優勝が、別の文脈で注目を浴びた。ある記者が過去のインタビューを掘り起こし、紫月が「ダンジョンを目指す男の子のために剣を振っている」と語っていた記事が拡散された。
「女性最強クラスの剣士が、男性のダンジョン挑戦を支持」。その構図がメディアで大きく取り上げられた。
紫月から電話が来た。
「取材が殺到してるわ。面倒だけど、利用させてもらう。……わたしの剣が、あんたの盾になるなら」
玲奈は政界に動いた。神楽坂グループのパイプを通じて、反対派議員への働きかけを強化。十六歳が政治を動かしている。末恐ろしい子だ。
沙耶は鷹司家の中で動いていた。当主・鉄花への進言を続け、鷹司家が正式に法案反対の声明を出した。名家の一声は、世論に少なくない影響を与えた。
楓は別のアプローチを取った。母・葵を通じて、探索チーム「アストレア」のメンバーたちが共同声明を出した。「性別で探索の権利を奪うべきではない」。現場の声が最も重いことを、楓は知っていた。
理緒は論文を書いた。「ダンジョン探索における性別要因の統計分析」。高校生が書いたとは思えない精度のレポートが、大学の研究者の目に留まった。
雫は全てを記録していた。運動の経緯、メディアの反応、SNSの推移。後世のための記録。「これは歴史だから」と雫は言った。
---
年末。法案の採決は来年の通常国会に持ち越されることが決まった。
つまり、まだ時間がある。まだ戦える。
大晦日の夜。今年は例年と違った。
日向家のリビングに、母さんとりんねえと結月。そしてスマホの画面には、沙耶、紫月、玲奈、楓、理緒、雫、奏太がビデオ通話で繋がっていた。
「今年、お疲れさまでした」
沙耶が静かに言った。画面の向こうで、紫月が「来年はもっと忙しくなるわよ」と腕を組んでいる。
「蓮、来年で十七歳。あと一年で十八になるのよ。準備は万全?」
玲奈の問いに、俺は頷いた。
「法案が止められれば、十八歳で探索者登録ができる。来年が勝負の年だ」
「「「おー!」」」
楓と結月と奏太が同時に声を上げた。画面がぶれて、理緒が「揺れてます揺れてます」と慌てている。
雫は画面の端で静かに笑っていた。
りんねえは俺の隣のソファで、スマホの画面を見つめていた。
「……すごい仲間だね、れんくん」
「りんねえのおかげだよ。姉ちゃんが一番最初に味方でいてくれた」
「……っ」
りんねえが目を逸らした。でも、口元が緩んでいた。
除夜の鐘が聞こえてきた。
「……来年は、全てが動く年になる」
呟いた。
画面の向こうで、九つの顔が頷いた。
---
第20話 了
十一月。
法案反対運動は、思わぬ広がりを見せた。
きっかけは奏太だった。
俺に打ち明けた翌日、奏太は自分のSNSアカウントに投稿した。
『僕は男です。そして、ダンジョンに憧れています。それは罪ですか?』
たった二行。でも、それが炎上した。
批判も来た。「男のくせに」「守られる立場を自覚しろ」「親が泣くぞ」。この世界の「常識」を背負った言葉の群れ。
でも同時に、賛同も来た。
『俺も同じことを思ってた。言えなかっただけ』
『男だからって夢を制限されるのはおかしい』
『探索者になりたい男の子がここにもいます』
声なき声が、奏太の二行に引き寄せられるように集まった。
日本中に、奏太と同じ思いを抱えた男たちがいた。夢を口にできず、「守られるべき存在」の檻に閉じ込められていた男たちが。
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十二月。テレビの討論番組から出演依頼が来た。
「男性ダンジョン探索の是非」をテーマにした特集。賛成派のゲストとして、現役の男子高校生の意見を聞きたいと。
母さんは反対しなかった。
「れんが自分で決めなさい。……でも、何を言われても、折れないでね」
りんねえは「わたしがついていく」と言い張った。結局、保護者として母さんが同行し、りんねえは控室で待機することになった。
奏太も一緒に出ることになった。「僕も行く。……震えてるけど、行く」。その声は確かに震えていたが、目は真っ直ぐだった。
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スタジオは、予想以上に殺伐としていた。
反対派のパネリストには、男性保護推進団体の代表や、社会学者、元政治家が名を連ねている。百戦錬磨の論客たち。対する賛成派は、ダンジョン産業の関係者と、俺と奏太。高校生二人。
「日向くん。あなたはダンジョンに潜りたいそうですが、男性の死亡リスクについてはどうお考えですか」
司会の問いかけに、カメラが向けられた。
「リスクは承知しています。でも、ダンジョン探索は男女関係なくリスクがある。女性の探索者だって命がけです。なのに、男だけ禁止するのは、安全の問題じゃなく、偏見の問題です」
「偏見とは厳しい言葉ですね。男性は数が少なく、社会的に保護すべき存在です。これは偏見ではなく現実でしょう」
「現実だからこそ、一人一人の意思を尊重すべきです。数が少ないから自由を奪っていいという理屈は、保護じゃなく支配です」
スタジオが静まった。
反対派の社会学者が眉を上げた。
「立派なお考えですが、あなたは十六歳。社会の現実を――」
「社会の現実なら、ここにいる柊が知っています」
奏太にマイクを向けた。奏太は真っ白な顔をしていたが、ゆっくりと口を開いた。
「……僕は、ずっとダンジョンに憧れていました。でも、誰にも言えなかった。母に一度だけ話したら、泣かれました」
声が震えている。でも、止まらない。
「この国には、僕みたいな男の子がたくさんいます。夢を見ることすら罪だと思わされている男の子が。……法律で禁止したら、その子たちの声は永久に消えます。それは保護じゃなく、沈黙の強制です」
カメラが奏太の涙を映した。
放送後、SNSは再び炎上した。賛否は半々。でも、「黙れ」と言われていた男たちの声が、確実に社会に届いた。
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討論番組の反響は、仲間たちにも波及した。
紫月の全国優勝が、別の文脈で注目を浴びた。ある記者が過去のインタビューを掘り起こし、紫月が「ダンジョンを目指す男の子のために剣を振っている」と語っていた記事が拡散された。
「女性最強クラスの剣士が、男性のダンジョン挑戦を支持」。その構図がメディアで大きく取り上げられた。
紫月から電話が来た。
「取材が殺到してるわ。面倒だけど、利用させてもらう。……わたしの剣が、あんたの盾になるなら」
玲奈は政界に動いた。神楽坂グループのパイプを通じて、反対派議員への働きかけを強化。十六歳が政治を動かしている。末恐ろしい子だ。
沙耶は鷹司家の中で動いていた。当主・鉄花への進言を続け、鷹司家が正式に法案反対の声明を出した。名家の一声は、世論に少なくない影響を与えた。
楓は別のアプローチを取った。母・葵を通じて、探索チーム「アストレア」のメンバーたちが共同声明を出した。「性別で探索の権利を奪うべきではない」。現場の声が最も重いことを、楓は知っていた。
理緒は論文を書いた。「ダンジョン探索における性別要因の統計分析」。高校生が書いたとは思えない精度のレポートが、大学の研究者の目に留まった。
雫は全てを記録していた。運動の経緯、メディアの反応、SNSの推移。後世のための記録。「これは歴史だから」と雫は言った。
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年末。法案の採決は来年の通常国会に持ち越されることが決まった。
つまり、まだ時間がある。まだ戦える。
大晦日の夜。今年は例年と違った。
日向家のリビングに、母さんとりんねえと結月。そしてスマホの画面には、沙耶、紫月、玲奈、楓、理緒、雫、奏太がビデオ通話で繋がっていた。
「今年、お疲れさまでした」
沙耶が静かに言った。画面の向こうで、紫月が「来年はもっと忙しくなるわよ」と腕を組んでいる。
「蓮、来年で十七歳。あと一年で十八になるのよ。準備は万全?」
玲奈の問いに、俺は頷いた。
「法案が止められれば、十八歳で探索者登録ができる。来年が勝負の年だ」
「「「おー!」」」
楓と結月と奏太が同時に声を上げた。画面がぶれて、理緒が「揺れてます揺れてます」と慌てている。
雫は画面の端で静かに笑っていた。
りんねえは俺の隣のソファで、スマホの画面を見つめていた。
「……すごい仲間だね、れんくん」
「りんねえのおかげだよ。姉ちゃんが一番最初に味方でいてくれた」
「……っ」
りんねえが目を逸らした。でも、口元が緩んでいた。
除夜の鐘が聞こえてきた。
「……来年は、全てが動く年になる」
呟いた。
画面の向こうで、九つの顔が頷いた。
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第20話 了
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