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第九章 肉欲と呼ぶもの
見えない逃げ道、そして投げ掛けられる質問
しおりを挟むマユミが寝返りを打った。
手で僕が寝ていた所を探って、居ない事に気が付いて瞼を開き僕を探す。
「透、そこに居たの?ずっと?」
掛布を胸に宛て身を起こし、髪を掻き上げながら話掛けてくる。
「ああ……シャワーを浴びたよ」
「全然眠って無いの?いま何時だろ」
枕元に載せてある自分のスマホを手に取り、時間を確認して喋り続ける。
「二時過ぎね。一人でベッド占領してたわ。すっかり寝ちゃった、ごめんなさい。透……さんは神経質なのね、人が横にいちゃ寝れなかった?気がつかなくて……昨日は飲み過ぎたわ。起きてて透さんの寝顔見たいと思ってたのに!寝ちゃった。残念!今度は……ねえこっちに来ない?」
「いや、ここでいいよ」
「それじゃ、マユミがそっちに行ってもいい?」
「ん」
脱ぎ捨ててあったローブを再び纏い直し、マユミがもう一つのソファーに座ったがすぐに立ち上がり、僕の横にある冷蔵庫の扉を開け中を覗き込んだ。
「マユミも何か貰うね、いい?」
「なんでも。好きな物を飲んでいいよ」
「ありがと♪ねえ、どうしてそんな暗い顔してるの?『やってもた!ドツボにハマった!』て顔してるよ?」
冷蔵庫の上にあったグラスを二つ、テーブルに置きながらマユミが僕の顔を覗きこみ言った。
僕は顔を背けたままで答えた。
「俺さ、お前の事、愛してる訳じゃ無いよ。ここまでするつもりは無かった」
マユミの顔を恐る恐る見た。 目に涙をいっぱい溜めて、それがぽとり床に落ちた。
「悪い事したと思ってる。でも付き合うつもりが無いことをハッキリ言っておかなきゃな」
「彼女いるの?」
「いない……でも心に決めた女性がいる」
聞いた眉がピクっとしたのが見えた。
「マユミの知ってる子?」
「違う。知ってる筈ない」
「どんな人?同じ大学の女の子?」
「いや違う。何処で暮すのかも知らない」
「えっ?何?どういうこと?逃げられたの?」
(なんで逃げられなきゃなんないのさ!)
質問責めして素っ頓狂なことまで言うマユミを、軽く睨み返した。
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