タブー的幻想録

ももいろ珊瑚

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第十二章 繭美というヒト

悩ましい待ち伏せ

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「確かめたいことがあるから」

 とだけ言い捨てて、先に先にと歩く女の子に何となく同行して、駅近くにある高級中華飯店に入った。
 磯部いそべ繭美まゆみと名乗ったこの子。 外語大一回生だと言うが、もっと大人びて見えるのは濃いめの化粧と大胆な服装のせいだろう。 無言のまま奥のVIPルームに通され、給仕係の女性にホスト席の椅子を引かせ、当たり前の様に座る。

「料理は適当なのヨロシク。 あとマユ……じゃなくて私はドラゴンウォーターを頼むわ。 お姉さんは何する?」
「烏龍茶をお願いしていい?」
「聞いたわね? そんじゃヨロシク」

 店員の応対からも、彼女はこの店の上客らしい。

「あの、私はお料理は結構ですけれども」

「払うの私だしぃ、友達を呼んでもいいしぃ」

「友達を呼ぶのですか、ここに」

「後で、よ、話しが済んだらってこと。 お姉さんをボコるとか、そんなアブナイこと考えてないわょ。 料理は残ったら残ったでいいし……それに残した方が礼儀になったりもするのよ? この店とかはねっ」

「そうですか。 では早速お尋ねしても良いかしら。 失礼ですが繭美まゆみさんは、とおる君とは、どういったご関係なんですか?」

「友達……でもなんでマユミが聞かれなきゃいけないの? そんなのどうでもいいことでしょ! じゃ逆に聞くけどぉ、お姉さんがとおるの女神様ってことよね?」

「女神? って何ですかそれ?」

「えっ、いや、ん~とぉ……コレって? あぁーそっか」

 (自己完結?こちらは全く解決出来てないのですが)

「単に友人なら、こんな所まで私を連れて来たりしないでしょう。 今も『トオル』と呼び捨てにされていらっしゃったし。 とおる君よりもあなた、年下でしょ? 年長者には普通、敬称を付けますせん? 近親者や、親密な間柄だった、などでも無い限り」

 ポリシーを含むので、声のトーンを下げ旨意が曖昧にならぬよう言葉を選んだ。

「『敬称』とかってそこんとこ、マユミも分かってる。 トリマ、お姉さんにはお姉さんって言ってるじゃん? とおるのことも、とおるが怒るからとおるの前では、ちゃんとしてるもん。 それとか、マユミはマユミって呼ばれても怒んないよね。 ダチなら気にしないっしょ。 っていうかさぁ。なんで、“だった”? なんでソコ、過去形なワケー? それって『自分は今カノよぉー』って自慢? そりゃマユミは、とおるって言われたけどぉ。 けどナニその、上から目線! ハッ。 超ムカつく!」

 彼女は口を尖らせ怒る。 耳に残る様、敢えて選んだ言葉だが、重きを置く場所を違えている。
 互いの拘りはかけ離れたところにある様で、どうも話が噛み合わない。

 (偉そぶるつもりは無いけれど、ある意味で私の方が目上であるから、上から目線、とは当たらずしも遠からずね)

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