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第十八章 生神女進堂祭
口外されない噂
しおりを挟むそのお母様を内外的に紹介する為、その日に盛大な会食を催すことが恒例行事と化している。 家内の者の他、親類縁者や会社役員、時には貴賓を招く時もある。
『その日の招待客を選ぶ基準は何か?』と料理人の一人が黒田さんに訊いていた事がある。
「紹介される奥様の出自の違いだわ。旦那様がどう紹介するかを聞いていれば分かるでしょう? でも部外者のそんなの。どうだって私達、家に居る者には関係の無いこと。奥様に成り代われる女などいやしないというのは分かりきっているもの。 旦那様の本当の奥様は終身、〝 玲子様 〟だけなのだからね!」
「その〝 玲子様 〟って、そんなにお綺麗な方だったんですか? 会ってみたかったな。この中で知ってるのは黒田さんだけでしょ? ジジイ達に尋ねても見たこと無いって言うしさ。」
「皆、辞めさせられたのよ、若くして喪われて何を目にされても偲ばれてご心痛でね。残ることを許されたのは、輿入れ前から〝 玲子様 〟に尽くしてきた私だけ。〝 玲子様 〟への愛の深さが旦那様にそうさせたのね、お可哀相な旦那様……。」
「アレって事実なんかい? 一緒に生まれた子を殉葬させたとかってよ……」
「なっ、なんてコトを、お子様は、お子様は死産よ、馬鹿! 誰からそんなあり得ない話を? まさかそんな出鱈目、他所で喋ってやしないだろうね? アンタなんか旦那様に詰問して頂いてお払い箱にしてやるよ!」
「いやいや誤解ですよ! 先日お越しになっていた御親戚の従者と昔話をしてて……こんな噂をしてましたと。黒田さんに御報告しとこうとですね。死産を殉葬なんて言っちゃって、時代錯誤もいい所で馬鹿らしい話ですよね? 笑っちゃいますよ、でしょ? だから私はソイツに、そんなわけないだろ! 今後は余計な詮索をしたり噂を漏らしたりしたら容赦しないぞ! とキツく叱り飛ばして口止めしておきましたから御安心下さい。しかし旦那は何故、黒田さんだけを残したんでしょうね? 黒田さんはそれくらい旦那様に気に入られてるからだ、って皆言ってますよ。どう考えてもそうだろうって!」
「えっ、私が旦那様に? 皆がそんな事を? 全く困ったものね、うふふふ。私は玲子様の部屋の管理を任されている。それに祐子様のことも『この子を玲子のように思い、玲子の様に育てる手助けを頼む』と旦那様直々におっしゃっていただいてもいる。気に入られてるとかそんな次元じゃ無いのよ、馬鹿ね!」
その時、真っ赤にして伏せた顔は、私からよく見えていた。
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