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㉑嘘と真実

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「どう、私達の愛の話は」
結は勝ち誇ったような態度でどうだと言わんばかりの言葉である。しかし、この話は結にとってすべてであった。だからこそ、そこを崩せばもろいんだと感じた。
「私は貴方の本当の気持ちに用があるの」
光は戦いの中で結の気持ちを汲み取れるようになる。
その気持ちは助けてというSOSだ。
しかし、言葉とは裏腹である。助けて欲しいと素直になれない、いや、自分自身の憎悪に飲み込まれているだけである。
「だから、私の気持ちは」
「気持ちは何」
「気持ちは」
結は何だろうこの違和感はと自分自身に目覚めた心の渦が気になり始めている。
「うるさい」
「うるさい」
「うるさい」
「あの人がいれば後は要らない」
結は持っている銃で光を撃つ。
それを手の錠で防いだ。
「何、動揺しているの」
真島がこの好機を見逃さない。
「音階」と書き円で囲み。
「ドレ」と言い、「風」の弾を撃ちはなった。
その時、桐ケ谷翔が現れた。
「鷲」という文字を変異し「盾」にした。
真島からの攻撃から光を守った。
「もういいの、月菜ちゃんは」
「おかげさまで」
土埃の中から姿を現す。
「じゃ、こっからは俺も参加しましょうか」
「結に二人係っていじめみたいなもんね」
一気に立場が逆転する。
二人係で攻撃を繰り出している。
鎖が二つから三つに増える。
その時には光の解錠が外れる。
光が鎌で桐ケ谷は槍で鎖を防いでいる。
そして、これが結の隠し玉。
四つ目の鎖である。
これが、地中を通って光の後ろに鎖がでて、光の心臓に目掛けて飛んでくる。
「危ない」
そこに、桐ケ谷が鎖に貫けながら光を守る。両手で鎖をこれ以上後ろに通さないために握っている。
血を出しながら地面に倒れる。
「ごめんな」
死ぬ間際のセリフである。守りたかった。ただそれだけだったと二人は目を合わせる。
「何で私をかばうのよ」
光は大声で怒鳴る。まるで自分自身に対して怒っているようである。この状況を創り出した自分に腹が立つ。
「せっかく妹の月菜との時間を作ってくれたのに」
君を守れたから満足そうな笑みである。
守りたいものが出来た。ああ、これが、愛なんだ。誰にも分かつことが出来ない自分自身の感情である。光が無事でよかった。
「かっこ悪いな、俺は」
光は、こんなにカッコイイ王子様は、なかなかいないと素直に言えたらどんなに楽かを身に染みて分かっている。
「月菜のことよろし」
ばたん。
翔は、灰になって消えていった。
「なんでよ。私が好きになる人はいつも私の前からいなくなる」
「なんだよ、予定調和」
怒りを制御できずに泣き崩れている。こんなに取り乱している光を見るのは初めてだった。
こんなにこの子は泣けるのだと二人は光の気持ちが伝わってきた。
「舞」
声を高らかに言い放った。
「この憎悪だけは私が貰ってもいい」
「お好きにどうぞ」
憎悪の石を渡すことを躊躇すると思ったが、反応は素早かった。まるっきり考えていない。でも、この状況なら光達でも渡すなと後々考えることになる。しかし、今は非常事態。咄嗟に言葉をだせたのは、光の気持ちが伝わってきたから、なら、光への答えとしては当然だ。
「頂きます」
光は手を合わせて憎悪の宝石を噛んだ。
「これが彼の憎悪」
「ご馳走様」
「この戦いのときだけの力」
「彼が残してくれた力を借りるね」

「ダブルエフェクト」

「鷲」と書き円で囲み触れて背中に羽が生えた。
「鎌」と書き円で囲み触れて鎌を出した。
二つ同時発動。
これが桐ケ谷、嫌、翔が残してくれた一回限りの力。
「鎖でアンロックしてあげる」
「もう捕まらないよ」
羽を大きくなびかせて、空に飛びあがる。
流石に鎖はここまで、届かない。
「じゃ、行くよ。翔」
空から急降下し結に攻撃を与える。空を飛びながらの変則攻撃を続けている。
鎖が追いついてくる。
「そうかここが、鎖の範囲だな」
鎖が届く有効範囲を調べるために空を飛んでいたんだ。この鎖の有効範囲は百mだ。二つの鎖にしたら五十mが有効範囲になるということか。三つでは三十mくらいか。
まあ、当然だ。物質系は万能ではない。他の系統もだけど。
飛びながら距離を光は詰める。

「これが、本当の愛の力なんだ」

二人は応戦している。
「彼は、結の為に自分の命をなげうってまで助けてくれる」
光の言葉が結に届き始める。
「くれないでしょ」
「恋人ごっこがしたいなら。止めた方がいい。貴方も本当の愛の形を作るべきだ」
光は言葉の裏にある結の助けてという言葉を見ていた。だからこそ、声をかけるのだ。
「うるさい」
結の言葉は小さく弱いのだ。
「お前は私の嫌がることを平気で言葉にする。今のままでいいんだよ。今の関係が好きなんだ。彼は私だけを見続けるの」
「私は彼の言うことならなんでも聞くんだ。例え他の誰かが死ぬことになってもだ」
結の気持ちは単純である。
「それは、もう、愛とは言えない、愛じゃない、執着だ」

「いいじゃない、執着でも私だけを見てくれるのなら。私は彼が好きなの」
結の言葉は大きく今までの弱い自分の言葉を打ち消すかのような言葉を高らかと言い放つ。それが結からのSOSだ。

「その執着を断ち切ってあげる」

「どっちでもいい」
結は自分の気持ちをとことん隠している。
「貴方が救われたがっているのが分かったから」
「何言ってるの」
「じゃ、なんで、泣いているのさ」
この気持ちが本物ではない。
「だから、私が救ってあげる。貴方の予定調和を終わらせてあげる」
「貴方のような人たちを何十人も見てきたんだから。そして、それを救うお仕事だからさ」
光は本当の意味での結の執着を断ち切ろうと強いている。言葉をかけるたびに見せる結の動揺した姿を見てこの子は本当の愛を知るべきだと感じる。
「あんたは昔の私を見ているみたいだ」
光は結の言葉に自分の気持ちをつけている。だからこそ、自分の過去を話すことを決めている。



「貴方に私の過去を教えてあげる」


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