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第7章
第97話 氷の回廊
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氷の通路に響く金属靴の音が、次第に重く、近くなる。規則正しい歩調は、訓練された兵士の証拠だった。正面の高位指揮官と数名の兵士、背後から迫る別動隊――狭い洞窟内での包囲戦。退路は氷壁、進路は敵陣。
洞窟の構造上、機動性を活かした戦術は取りにくく、正面からの力押しでは不利は明らかだった。
(逃げ場は……ない。なら、抜けるしかない)
俺は瞬時に状況を分析し、唯一の活路を見出した。翼を軽く広げ、洞窟天井付近へ舞い上がった。氷の天井は滑らかに磨かれており、爪で掴める突起は少ないが、短時間なら飛行を維持できる。
黒羽兵の視線が一瞬そちらへ向く。地上戦に慣れた彼らにとって、空中からの攻撃は想定外の戦術だった。
その隙に、リィナが投げた小瓶が床で割れ、白い煙が一気に広がった。彼女の薬学知識により調合された煙幕は、刺激臭と視界の遮断で、敵の動きを大幅に鈍らせる。
煙の成分は呼吸器に軽度の刺激を与えるが、致命的ではない。リィナの人道的な配慮が表れた調合だった。
「バルグ、左だ!」
「任せろ!」
バルグが煙の中を突進し、左側の兵士を盾ごと壁に叩きつける。彼の巨体と怪力により、重装備の兵士でも一撃で戦闘不能にできる。氷壁に亀裂が走り、衝撃音が狭い空間に反響した。
氷の特性により、衝撃が壁全体に伝わり、洞窟の構造にも影響を与えていく。
俺は天井付近から急降下し、敵の持つ槍の石突を蹴り飛ばして武装を奪う。鷲の鋭い爪と正確な攻撃により、武器の急所を的確に攻撃できる。
直接致命傷は与えられないが、武器を削ぐだけでも戦況は大きく変わる。武装を失った兵士は、事実上戦闘能力を失う。
◆
しかし、高位指揮官は動じなかった。彼の戦闘技術は部下たちとは明らかに格が違い、煙の中でも迷いなく剣を振るい、バルグの攻撃を紙一重で受け止める。
剣戟の火花が氷壁に映り、青白い光を放った。金属同士の激突により生まれる火花が、氷の表面で反射して幻想的な光景を作り出している。
「やはり……港町で暴れた連中か。首領が貴様らの首を望んでいる」
その言葉に、俺たちは互いに短く視線を交わした。黒羽同盟の首領が、すでにこちらの存在を明確に把握している――それは同時に、この戦いが終局に近づいている証でもあった。
敵の情報網の精度に改めて驚かされるが、同時に俺たちの行動が確実に敵の中枢に影響を与えている証拠でもある。
指揮官の剣技は洗練されており、長年の修練を積んだ実力者であることが分かる。この男を相手に長期戦を続けるのは得策ではない。
◆
煙が薄れる前に、リィナが再び動く。薬学知識を戦術に応用する彼女の発想力は、これまでの戦いでも何度も俺たちを救ってきた。
腰の薬箱から取り出した液体を氷壁の亀裂に注ぎ込むと、数秒後、内部から小さな爆発音が響き、壁の一部が崩れた。
化学反応により氷の結晶構造を破壊し、局所的な崩落を引き起こす技術だった。崩落は派手ではないが、人ひとり通れる隙間は十分だ。
「今よ!」
リィナの的確な判断により、新たな脱出ルートが開かれた。俺たちは即座にその隙間へ走り込む。
高位指揮官が追おうとするが、バルグが最後に氷の欠片を蹴り飛ばして足止めする。細かい氷片が煙のように舞い上がり、追跡者の視界を再び遮った。
その一瞬の差が、命を分けた。チームワークによる連続した行動により、包囲網を突破することができたのだ。
◆
隙間を抜けた先は、要塞内部へ続く氷の回廊だった。先ほどの洞窟とは異なり、ここは明らかに人工的に作られた通路で、壁面は滑らかに仕上げられている。
壁の内側には火鉢の明かりが揺れ、兵士たちの往来は少ない――どうやら補給物資の搬入用の裏道らしい。メインの通路ではないため、警備も手薄になっている。
通路の構造から、要塞の設計思想が読み取れる。機能性を重視しつつ、美的な要素も取り入れた高度な建築技術だった。
「……これで中に入れたな」
「でも、ここからが本番よ」
リィナの声には緊張と決意が混じっていた。要塞の外郭を突破したとはいえ、真の目標はまだ先にある。
この道を抜ければ、汚染液の製造施設や、黒羽同盟の中枢へ辿り着けるはずだ。長い戦いの終着点が、ようやく見えてきた。
背後からはまだ金属靴の音が響いてくる。追っ手は完全には撒けていない。高位指揮官の執念深さが、その足音の規則正しさからも伝わってくる。
しかし、俺たちは確実に前進している。港町での戦いから始まったこの長い旅路も、ついに最終段階に入った。
氷の要塞の奥深く、最終決戦の舞台へと、俺たちは足を踏み入れた。通路の先から漂ってくる化学薬品の匂いが、目標が近いことを告げている。
これまでの戦いで培った経験と絆を武器に、俺たちは最後の戦いに挑む準備を整えていた。どれほど強大な敵が待ち受けていようとも、必ず勝利してみせる。
港町の人々の笑顔と、世界の平和を守るために。
洞窟の構造上、機動性を活かした戦術は取りにくく、正面からの力押しでは不利は明らかだった。
(逃げ場は……ない。なら、抜けるしかない)
俺は瞬時に状況を分析し、唯一の活路を見出した。翼を軽く広げ、洞窟天井付近へ舞い上がった。氷の天井は滑らかに磨かれており、爪で掴める突起は少ないが、短時間なら飛行を維持できる。
黒羽兵の視線が一瞬そちらへ向く。地上戦に慣れた彼らにとって、空中からの攻撃は想定外の戦術だった。
その隙に、リィナが投げた小瓶が床で割れ、白い煙が一気に広がった。彼女の薬学知識により調合された煙幕は、刺激臭と視界の遮断で、敵の動きを大幅に鈍らせる。
煙の成分は呼吸器に軽度の刺激を与えるが、致命的ではない。リィナの人道的な配慮が表れた調合だった。
「バルグ、左だ!」
「任せろ!」
バルグが煙の中を突進し、左側の兵士を盾ごと壁に叩きつける。彼の巨体と怪力により、重装備の兵士でも一撃で戦闘不能にできる。氷壁に亀裂が走り、衝撃音が狭い空間に反響した。
氷の特性により、衝撃が壁全体に伝わり、洞窟の構造にも影響を与えていく。
俺は天井付近から急降下し、敵の持つ槍の石突を蹴り飛ばして武装を奪う。鷲の鋭い爪と正確な攻撃により、武器の急所を的確に攻撃できる。
直接致命傷は与えられないが、武器を削ぐだけでも戦況は大きく変わる。武装を失った兵士は、事実上戦闘能力を失う。
◆
しかし、高位指揮官は動じなかった。彼の戦闘技術は部下たちとは明らかに格が違い、煙の中でも迷いなく剣を振るい、バルグの攻撃を紙一重で受け止める。
剣戟の火花が氷壁に映り、青白い光を放った。金属同士の激突により生まれる火花が、氷の表面で反射して幻想的な光景を作り出している。
「やはり……港町で暴れた連中か。首領が貴様らの首を望んでいる」
その言葉に、俺たちは互いに短く視線を交わした。黒羽同盟の首領が、すでにこちらの存在を明確に把握している――それは同時に、この戦いが終局に近づいている証でもあった。
敵の情報網の精度に改めて驚かされるが、同時に俺たちの行動が確実に敵の中枢に影響を与えている証拠でもある。
指揮官の剣技は洗練されており、長年の修練を積んだ実力者であることが分かる。この男を相手に長期戦を続けるのは得策ではない。
◆
煙が薄れる前に、リィナが再び動く。薬学知識を戦術に応用する彼女の発想力は、これまでの戦いでも何度も俺たちを救ってきた。
腰の薬箱から取り出した液体を氷壁の亀裂に注ぎ込むと、数秒後、内部から小さな爆発音が響き、壁の一部が崩れた。
化学反応により氷の結晶構造を破壊し、局所的な崩落を引き起こす技術だった。崩落は派手ではないが、人ひとり通れる隙間は十分だ。
「今よ!」
リィナの的確な判断により、新たな脱出ルートが開かれた。俺たちは即座にその隙間へ走り込む。
高位指揮官が追おうとするが、バルグが最後に氷の欠片を蹴り飛ばして足止めする。細かい氷片が煙のように舞い上がり、追跡者の視界を再び遮った。
その一瞬の差が、命を分けた。チームワークによる連続した行動により、包囲網を突破することができたのだ。
◆
隙間を抜けた先は、要塞内部へ続く氷の回廊だった。先ほどの洞窟とは異なり、ここは明らかに人工的に作られた通路で、壁面は滑らかに仕上げられている。
壁の内側には火鉢の明かりが揺れ、兵士たちの往来は少ない――どうやら補給物資の搬入用の裏道らしい。メインの通路ではないため、警備も手薄になっている。
通路の構造から、要塞の設計思想が読み取れる。機能性を重視しつつ、美的な要素も取り入れた高度な建築技術だった。
「……これで中に入れたな」
「でも、ここからが本番よ」
リィナの声には緊張と決意が混じっていた。要塞の外郭を突破したとはいえ、真の目標はまだ先にある。
この道を抜ければ、汚染液の製造施設や、黒羽同盟の中枢へ辿り着けるはずだ。長い戦いの終着点が、ようやく見えてきた。
背後からはまだ金属靴の音が響いてくる。追っ手は完全には撒けていない。高位指揮官の執念深さが、その足音の規則正しさからも伝わってくる。
しかし、俺たちは確実に前進している。港町での戦いから始まったこの長い旅路も、ついに最終段階に入った。
氷の要塞の奥深く、最終決戦の舞台へと、俺たちは足を踏み入れた。通路の先から漂ってくる化学薬品の匂いが、目標が近いことを告げている。
これまでの戦いで培った経験と絆を武器に、俺たちは最後の戦いに挑む準備を整えていた。どれほど強大な敵が待ち受けていようとも、必ず勝利してみせる。
港町の人々の笑顔と、世界の平和を守るために。
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