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川原源明

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第1章 Whispr ―語られすぎた物語―

第11話 書き換えられる推理

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 教室の端末に届いた通知を、理久は無言で見つめていた。

    @viewer_X_17:「君の“相棒”は、語る資質があるようだね」

 スクリーンに映されたのは、自分の背中を写した写真だった。
 撮影したのが誰かも、どこから撮られたかもわからない。だがそれ以上に、理久を凍りつかせたのは──

    12:33「彼は気づいた。これが論理の罠であることに」

 ──その文言だった。

「……始まってる。俺の“推理”が」

 《Whispr》の新規投稿は、明らかに理久の“思考”を実況していた。
 しかも、それはただの“行動記録”ではない──彼がたどり着こうとしていた“考察の結論”に先回りする形で記されている。

    12:34「データ構造上の矛盾を見つけた。記録と視点の間に、0.4秒の誤差があることに」

「……ッ!」

 それは、まさに今、彼が解析ツールでログ検証中に見つけた微細な“投稿タイムラグ”だった。
 実行された動作と、記録されている時刻にごくわずかな遅延がある──“語り手”が誰かに“許可されたタイミング”で投稿している証拠。

「……こいつ、“思考”まで先読みしてる……?」

 実況は、ひなたの“感情”を記録するだけではなかった。
 理久のように論理で物語を解こうとする存在すら、“解釈という語り”の形式に取り込んでくる。

 思考すら実況される──それはつまり、**“推理すら筋書きになる”**ということだ。

 理久は息をひとつ吐き、ファイルを閉じた。

「……だったら、その筋書きごと壊してやるよ」

 彼が机の引き出しから取り出したのは、以前、**Parallax Memory Labから流出した“語り断絶記録”**だった。

 そのログは、唯一、《Whispr》への実況を途中で断ち切ることに成功したとされるアカウントのものだった。
 記録者のIDは存在せず、書き込み主の名前は**“NO ONE”**──誰でもなく、誰かでもない。

 理久は声に出さずつぶやく。

「“物語に回収されない視点”──その条件を突き止める」

 そのとき、ひなたからメッセージが届いた。

    【今どこ? 大丈夫?】
    【“見えてる”ってまた言ってきた……今度は私じゃなくて、“あなたが”って】

 理久は返答を打ちかけ、ふと手を止めた。
 《Whispr》の画面に、自分の端末の操作ログが表示されはじめていた。

    12:37「彼は、返答をためらった。なぜなら──“その言葉すら、記録される”ことに気づいたからだ」

 ──“考えること”も、“語ること”も、
 ──すでに“目撃されている”。

 彼は端末を閉じ、白紙のノートを開いた。

 文字を打つでもなく、何も語らず、
 ただ“観測されない思考”を、そこに刻み始めた。
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