あなたが読むかぎり

川原源明

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第1章 Whispr ―語られすぎた物語―

第21話 誰がユイを殺したか?

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 その問いは、画面の向こうから突きつけられた。

「語りが続く限り、死は終わらない。
    では、最初の“死”を語り始めたのは誰か?」

 《Whispr》が提示した問いは、単なる殺人事件の解明ではなかった。
 ユイという存在がなぜ、どうやって、“物語の中で死んだ”のか。

 理久は再び、アカウント“@Yui_walkalone”のタイムスタンプを遡る。

「最初の投稿は16:47。駅名の異変を呟いたのが16:51。
 その時点でGPSは正常だった。
 ……でも、17:05を最後に視覚データが一切残ってない。文章だけだ」

「つまり……」

「“語られた記憶”だけが残されてる。視覚情報は記録されていない。
 それは、彼女が自分で語ってない可能性を示してる」

 ひなたが呟く。

「ユイって、本当に“駅にいた”のかな……?」

「おそらく、いた。でも問題はそこじゃない。
 “彼女の行動が、いつから語られたものだったのか”が重要だ」

 理久はログを細かく再解析する。
 そして──1つだけ、異常な投稿を見つけた。

    16:56「さっきから、誰かが“こっちを見てる気がする”」

 この投稿だけ、文体が他と異なっていた。

 他のすべては「話し言葉」だったのに、これだけが客観文体。
 まるで“語り手の視点”が入れ替わっているような構造。

「ここで、ユイの語りは終わってる」

「……じゃあ、このあとのログは、全部……」

「“別の誰か”が書いた。もしくは──《Whispr》自身が語った」

 語り手の死は、ログ構造の中で曖昧に隠されていた。

 ユイが実際に殺されたのか、取り込まれたのか、それすら確証はない。
 ただ、“彼女の語り”は終わり、“構造の語り”が始まった。

    [Narrative Anomaly Flagged]
    ― 初期語り手の消失時刻と投稿継続に整合性なし
    ― 該当ログ:推定“構造的語り”による補完生成

 理久は苦笑した。

「つまり──ユイは誰かに殺されたんじゃない。
 “語り手として不要になったから、削除された”」

 殺したのは誰か?
 それは、読者であり、語り構造だった。

「私たちが……見続けたから……ユイは語りを“続けさせられてた”……」

「そして、語れなくなった瞬間、構造に取って代わられた。
 それが、《Whispr》の“構造的殺人”だ」

 ふたりの端末に、最後の通知が届く。

    [語り構造:循環点到達]
    ― @observer-000-yui:削除申請完了
    ― 次の語り手選定:@NoOne001 or @Riku_Kujo

 次に“語りを始める”のは、彼ら自身。

 だがそれは──語る自由を意味するのか、
 それとも“死ぬまで語らされる”義務なのか。

 誰がユイを殺したのか?

 その答えは、語りを“読む”すべての存在に向けられている。
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