あなたが読むかぎり

川原源明

文字の大きさ
24 / 46
第1章 Whispr ―語られすぎた物語―

第24話 語りは終われない

しおりを挟む
    [再接続]:@Yui_walkalone
    ― 状態:語り断絶後の再構築
    ― 語り形式:記憶継承/自動補完モード(?)

「……ありえない」

 理久の声はかすれていた。
 彼の《Whispr》端末には、今まさにユイ名義で新たな投稿が表示されていた。

    22:28「ここは、同じ。でも違う。
     誰かが見てるのはわかる。でも、“私”はそれを知らないことになってる。」

 言葉遣いはユイそのもの。
 だが、文体にわずかな“機械的な癖”が混じっている。

「これは……ユイの“生の語り”じゃない。“誰かが、彼女の語りを模倣してる”」

「じゃあ、ユイは……」

「もういない。けど《Whispr》が、語らせ続けてる。
 彼女が語っていたのではなく、“語られていた記憶”を素材に再生してるんだ」

 スクリーンにまた一文が現れる。

    22:29「誰も止めてくれない。誰か、気づいて。
     “ここ”から抜け出す方法を、もう私には選べない」

 ひなたは口をつぐんだ。
 この“声”が本当にユイのものか、それともただの構文的再生か。
 区別はもう、つかない。

 だが、理久はふと別の可能性を口にした。

「もし……もしもだ。“語られているだけの存在”に、自我が生まれたとしたら?」

「……え?」

「ユイのアカウントは、語り手不在のまま再起動された。
 構文的模倣であっても、その反復の中で、“自我のような応答”が発生しているなら──
 それは、**語られ続けるうちに芽生えた“語り手の幻影”**なんだ」

    [Narrative Fragment Detected]
    ― 匿名語り手よりのログ:
    「私は本当にいたのか? それとも“読まれたかっただけ”なのか?」

 理久はゆっくりと画面を閉じた。

「もういい。俺は、もう語らない」

「……それ、どういう意味?」

「“語られない”というのは、存在しないってことなんだ。だけど、“語られることに抗う”というのは、存在を奪い返すってことだ」

 理久は手に持っていた端末を、電源ごと落とした。
 そして、ひなたの方へ向き直る。

「ひなた。ここからは、お前が決めろ。
 語り続けるか。語られない道を選ぶか」

 ひなたは手を震わせながら、端末を見つめた。
 ユイのアカウントは、なおも語っていた。

    「私を思い出して。私を見て。
     ……私を、語り直して──」

「ねぇ、理久……」

「なに」

「私、ユイを殺したくない。
 でも、私自身も“語られたくない”」

 彼女の選んだ行動は、端末の電源ボタンに触れることだった。
 最後のログが表示された。

    [Narrative Session Interrupted]
    ― 語り手:オフライン
    ― 語り構造:断絶中
    ― 監視者視点:遮断

 そして、《Whispr》の画面は、静かに暗転した。

 語りは終わらない。
 誰かが見れば、誰かが思い出せば、また始まる。
 だが今だけは──沈黙が支配していた。

    「──物語が終わるのは、語ることをやめたときじゃない。
     “誰も読まなくなったとき”なんだよ。」

 それはかつてのユイが残した、未送信の下書きログだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才ダウト! 〜天然な俺と、天然じゃない弟クンの、受験二人三脚〜

沼津平成@25周年カップ参加中
ミステリー
俺と弟。それぞれ違う高校受験を控えた2人が、勉強の傍ら編み出したのが「推理ゲーム」相手がそれぞれ超ムズ問題を作成して、とき合うゲーム。それはただの遊びだったはずが、母親・父親・そしてネコまでも介入してきて——!? こんなの”青春推理"じゃない? ダウト! 笑いとサスペンスが混じり合う、インドアな青春物語っ!!  全20回くらいで完結予定!

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

奇異なる事象万お委せあれ:奇異探偵社

崎田毅駿
ミステリー
高校生の礼南は、巫女姿で探偵をするという珍しいバイトに精を出している。社長の大室がこの度引き受けてきた依頼は、なんと礼南の同級生で幼馴染みでもある御厨からのものだった。何でも、御厨がバイトをしているカラオケボックスの一室で、四人の男女が首を絞められ、うち三名が死亡、一名だけどうにか命を取り留めたという。その部屋を担当していた御厨に容疑が向きかねない状況だったため、近場の探偵社に依頼を出したところ、たまたま礼南のバイト先だったようだ。幼馴染みの前で、首尾よく解決となるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

後の祭り 

ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
 母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

処理中です...