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第2章 ウブカタバコ ―言葉にしてはいけない箱―
第25話 禁忌の始まり
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「それ、見ないほうがいいよ」
昼休みの教室。ざわざわと響く談笑の中、ぽつりと落ちた声に、朝倉ひなたは思わず顔を上げた。
スマホを覗き込んでいた高良みなとが、画面を持ったまま目を逸らしている。
「なにそれ? こっち見せてよ」
ひなたが身を乗り出すと、みなとは明らかに戸惑いを浮かべたまま、スマホを押し返した。
「名前までは言ってなかったけど……たぶん、呪われてる箱だって。昨日、兄の友達がネットで拾ったんだって」
その名前に、ひなたの背中がぞわりとした。
聞いたことがある。都市伝説――いや、もっと異質な“語られてはいけない話”。
みなとはしぶしぶ画面をひなたに向ける。そこには荒く撮られた木箱の写真が写っていた。
暗く、歪んだ光の中、封をされた箱の表面に何かの血痕のような黒ずみが浮かび上がっている。
「開けたの……?」
ひなたが息を呑んで尋ねると、みなとは首を振った。
「開ける前に、写真を撮ったら、兄の友達、急に吐いたんだって。何も食べてないのに、胃液だけ吐き出して……それからずっと寝込んでるらしい」
ひなたは一瞬、スマホを見つめ、そしてふっと笑った。
「呪いの箱……? 古典的だけど、逆にリアルっぽい」
「でも、それから“名前”を口に出すと──変な夢を見るって……兄も言ってた。“誰かが開けろって、箱の中で囁く声がする”って」
ひなたは無意識に、スマホの画面をスクリーンショットした。
その瞬間、校内放送のチャイムが鳴ったが、なぜか音がわずかに歪んで聞こえた。
放課後。
ひなたはそのまま例のスクショを理久に見せた。
校舎裏、人気のないベンチで読書していた彼は、いつものように興味なさげに画面を一瞥した。
「……またネットの与太話か」
「でも見て、この箱。普通じゃない。質感とか、何かこう……“現実じゃないもの”っぽくない?」
理久は画面を凝視する。そして、数秒後──眉をひそめた。
「……これ、物体として“消失してる”部分がある。写ってないんじゃない。“認識できない”んだ」
「え?」
「写真に写ってるはずの輪郭が、解析アプリでも補正できない。見たものの記憶とデータの齟齬がある。つまり、“意味づけ不可能な物体”だってこと」
「それって、どういう──」
「お前、誰からこれ聞いた?」
ひなたは答える。
「みなと。友達。お兄さんの知り合いが拾ったって」
理久は腕を組んで黙り込む。そして低く呟く。
「……伝播してる。語ることで」
「は?」
「この箱……“語られることで存在する”類の呪いだ。由来不明の“名前だけが先にある”呪物。そういう類の記録は、いくつか文献に残ってる。」
ひなたは無言でスクリーンを見つめる。
そしてふと、画面の端に赤い通知が表示されていることに気づいた。
「AirTrace:あなたの写真が外部に拡散されています」
リンク先を見ると、すでに複数の匿名掲示板に、彼女の撮ったスクリーンショットが貼られていた。
「なんで、こんな……!」
理久は低く唸る。
「拡がった……“語られた”ってことだ。
このままだと、形になる。次に“見る”のは、お前かもしれない」
昼休みの教室。ざわざわと響く談笑の中、ぽつりと落ちた声に、朝倉ひなたは思わず顔を上げた。
スマホを覗き込んでいた高良みなとが、画面を持ったまま目を逸らしている。
「なにそれ? こっち見せてよ」
ひなたが身を乗り出すと、みなとは明らかに戸惑いを浮かべたまま、スマホを押し返した。
「名前までは言ってなかったけど……たぶん、呪われてる箱だって。昨日、兄の友達がネットで拾ったんだって」
その名前に、ひなたの背中がぞわりとした。
聞いたことがある。都市伝説――いや、もっと異質な“語られてはいけない話”。
みなとはしぶしぶ画面をひなたに向ける。そこには荒く撮られた木箱の写真が写っていた。
暗く、歪んだ光の中、封をされた箱の表面に何かの血痕のような黒ずみが浮かび上がっている。
「開けたの……?」
ひなたが息を呑んで尋ねると、みなとは首を振った。
「開ける前に、写真を撮ったら、兄の友達、急に吐いたんだって。何も食べてないのに、胃液だけ吐き出して……それからずっと寝込んでるらしい」
ひなたは一瞬、スマホを見つめ、そしてふっと笑った。
「呪いの箱……? 古典的だけど、逆にリアルっぽい」
「でも、それから“名前”を口に出すと──変な夢を見るって……兄も言ってた。“誰かが開けろって、箱の中で囁く声がする”って」
ひなたは無意識に、スマホの画面をスクリーンショットした。
その瞬間、校内放送のチャイムが鳴ったが、なぜか音がわずかに歪んで聞こえた。
放課後。
ひなたはそのまま例のスクショを理久に見せた。
校舎裏、人気のないベンチで読書していた彼は、いつものように興味なさげに画面を一瞥した。
「……またネットの与太話か」
「でも見て、この箱。普通じゃない。質感とか、何かこう……“現実じゃないもの”っぽくない?」
理久は画面を凝視する。そして、数秒後──眉をひそめた。
「……これ、物体として“消失してる”部分がある。写ってないんじゃない。“認識できない”んだ」
「え?」
「写真に写ってるはずの輪郭が、解析アプリでも補正できない。見たものの記憶とデータの齟齬がある。つまり、“意味づけ不可能な物体”だってこと」
「それって、どういう──」
「お前、誰からこれ聞いた?」
ひなたは答える。
「みなと。友達。お兄さんの知り合いが拾ったって」
理久は腕を組んで黙り込む。そして低く呟く。
「……伝播してる。語ることで」
「は?」
「この箱……“語られることで存在する”類の呪いだ。由来不明の“名前だけが先にある”呪物。そういう類の記録は、いくつか文献に残ってる。」
ひなたは無言でスクリーンを見つめる。
そしてふと、画面の端に赤い通知が表示されていることに気づいた。
「AirTrace:あなたの写真が外部に拡散されています」
リンク先を見ると、すでに複数の匿名掲示板に、彼女の撮ったスクリーンショットが貼られていた。
「なんで、こんな……!」
理久は低く唸る。
「拡がった……“語られた”ってことだ。
このままだと、形になる。次に“見る”のは、お前かもしれない」
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