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19(終)
しおりを挟むそれに――と、紅葉は少しだけ迷って返した。
「レオナルドさんは、本当になにも悪くないです。それに、あの……こ、こんなこと言うのも変かもしれませんけど……私、レオナルドさんに触られるの……全然、嫌じゃなかったです……」
彼は驚いたふうに目を丸くする。
そしてレオナルドはしばらく黙り込んだあと、なにを思ってか、紅葉の頭を撫でてきた。
意図がわからずに相手を見返せば、彼はその手を滑らせて包むように紅葉の頬に触れる。
すると、不意にレオナルドの顔が近付いてきた。キスをされるのだと思い、反射的に紅葉はぎゅっと目を閉じる。
だが、予想していた感触は、唇に落ちてはこなかった。
柔らかい感触は唇ではなく、紅葉のひたいに降ってきた。
目をあけると、やや困ったような表情で微笑む彼と視線が絡む。レオナルドは言った。
「……あまり、そうやって男を甘やかしてはいけないよ。調子に乗ってしまうからね」
紅葉の心臓が高鳴る。それは、どういう意味だろう。
返事に窮していると、彼はベッドから立ち上がった。彼は窓際に進み、カーテンをひらいて夜空を見上げる。
空には、たくさんの星々が輝いていた。ぽつりと、レオナルドが呟く。
「……私は、この国の夜空が好きでね。地上の光が少ないからか、他の国で見るよりも星が明るく見える気がするんだ」
彼は紅葉に振り返った。
「君が住んでいた世界も、星は美しかったかい?」
もとの世界で見た夜空を思い出しながら、紅葉は頷く。
「……はい。ここほど星は明るくなかったですけど、それでも、星空は綺麗でした」
微笑を返したレオナルドがどこか遠くを見るような眼差しで再び星を見上げたあと、今度はなにかを決意したふうな顔付きで告げる。
「……今回のことの罪滅ぼしというわけではないが、君のことは、私が責任をもってもとの世界へと帰そう」
「レオナルドさん……」
本当に罪の意識を感じる必要などないのだけど、それでも、彼の根がこんなふうに真面目だからこそ、紅葉は会って間もないレオナルドを信用できたのだろう、とも思う。
少し迷った末に、紅葉は頷いた。
「……はい。じゃあ……お言葉に甘えちゃいます」
そこでようやく、彼が小さく笑った。腰から生えているしっぽも微かに揺れていて、それがなんだか可愛らしい。
そうして、紅葉は改めて彼との同居生活を開始することとなった。帰る手段を探すだけではなく、紅葉を召喚した魔法使いの存在も忘れてはいけない。不安も、ないと言えば嘘になる。
だとしても、帰るためにはそれらを乗り越えるしかないのだ。それに、レオナルドが一緒なら、未知の魔法使いに対する恐怖もいくらか和らぐ気がした。
紅葉とレオナルドは、おずおずと握手をする。
「それでは……改めて、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
挨拶を交わして、ふたりは笑い合った。
これから先、数多の困難が待ち受けているとも知らずに――。
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