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しおりを挟むドドドドッと、扉がすさまじい速度でノックされた。
「あけろよトール! あけてくれねぇと、あした城でお前の変な噂しこたま流すぞ! いいのか!」
外からの声を聞き、ノアが困惑に眉根を寄せる。
「ずいぶんと……主張の激しい幻聴ですけど……」
「そんなこともあろう。気にすることはない。お前も、なにも聞かなかったことに――」
そう言いながら、玄関に背を向けた直後だった。
背後から魔力の存在を感知し、振り返ると、玄関扉の表面に淡く光る魔法陣が刻まれているのを視認する。
その魔法陣が消えたのと同時に、カチャリと小さな音が響いた。ドアの鍵があけられた音なのだと、すぐに気が付いた。
そうして、扉は家主に施錠された事実などすっかり忘れて、軽やかにひらく。
ひらいたドアの向こうからは、忌々しいほどに明るい声が聞こえてきた。
「いやー、ロック解除の魔法がこんなところでも役に立つとはな! 不法侵入になっちまうけど、同僚を問答無用で追い出すほうが悪いから、まぁ仕方ねーよなぁ。これに懲りたら、トールも鍵かけるなんて無駄な足掻きはせずに――」
扉から入ってきた人物の台詞が、途中で途切れる。彼の瞳は、ヴィクトールの後ろにいるノアに釘付けとなっていた。
ヴィクトールは後悔する。目の前の男に、彼女の存在を知られたくはなかった。
目をしばたたいた彼が、戸惑い気味の指先でおそるおそるノアを指す。
「……トール、お前……」
「ナツ、これには事情が――」
「なんだよ、隠し子がいるならもっと早く言えよ~~~! びっくりしたじゃねーか~~~!」
「違う」
笑顔で盛大に誤解をした男にヴィクトールは否定の言葉を返したが、聞いてはもらえなかった。
そんなわけで、結局ヴィクトールは彼の誤解を解くために、相手を自宅に招き入れることとなったのである。
大変、不本意ではあるが。
――大変、不本意ではあるが。
◇
リビングのテーブルについた客人に、ヴィクトールは自らコーヒーを入れて相手に手渡した。
彼は嬉しそうにマグカップを受け取り、それにくちをつける。
「お、さんきゅー。って、あっついなコレ!」
唇をつけた瞬間、男は驚愕に目を見開いた。ヴィクトールは淡々と謝る。
「そうか、すまなんだ。わざとではない」
「嘘つけ! 殺意を感じる熱さだぞ!」
「…………」
「目を逸らすな!」
ふたりのやり取りを、ノアが戸惑いの眼差しで見ていた。仕方なく、ヴィクトールは彼女に目の前の男を紹介する。
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