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しおりを挟むナツネはいい加減な男ではあるが、この発言に嘘はないだろうとヴィクトールは感じた。
それよりも、気にするべきはノアのほうだろう。俯いてくちを閉ざしている彼女に、どんな言葉を掛ければいいのか。
――いや、どんな言葉もノアの精神的なショックを癒すには足りないだろう。その衝撃は、おそらく本人と同じ立場にならなくてはわからないのだから。
それでも、ナツネは実直に頭をさげた。彼はノアに詫びる。
「わりぃ、こんなことになるなんて……って、これはただの言い訳だな。自分の能力を過信して軽々しく召喚術に手を出したのは、事実なわけだし」
「いえ、あの……」
ノアは弱々しく微笑んだ。
「ナツネさんが魔法を使ってくれなかったら、私、向こうの世界でそのまま死んじゃって、ヴィクトールさんにも会えなかっただろうし……だから、その……謝らないでください……」
今にも消えそうな声で紡がれる台詞のすべてが、本音のわけはない。彼女は自分自身を責めるナツネのために、不安を飲み込んで言葉を発しているのだ。
そして、それがわからぬほどナツネも愚かではない。彼は依然として真剣な面持ちで頭を掻いて、言った。
「とりあえず、解決方法がないか調べられるだけ調べてみる。その上で俺の能力を向上させる必要があるってんなら、そうするし……」
そこまで述べて、ナツネはなにかを思い出したふうに顔を上げる。
「おお、そうだそうだ。じつは手土産があるんだった。すっかり忘れてた」
彼は持参していたバッグをテーブルに置くと、そこから一本の瓶を取り出した。
ヴィクトールは尋ねる。
「……なんだ、これは」
「俺が作ったフルーツのジュース。もちろん、こんなもんで詫びになるとは思ってねぇけど、せっかく持ってきたんだ。今はもらっといてくれよ」
ナツネは微苦笑をうかべた。
当人が意識してのことかどうかは不明だが、今の彼の言動は場の空気をいくらかゆるめた。それは、率直に言って有難いことでもある。今のノアにとって、これ以上の静寂や沈黙は酷なのではなかろうか。
無論、空気がゆるんだからといって彼女の精神的な衝撃が和らぐとは思っていない。が、現段階でノアを無事にもとの世界へ帰す手段がない以上、本人にとってのつらい時間は出来るかぎり削減したい。
焼け石に水なのだろうという事実も理解しているが、ヴィクトールはそんなふうに考えてしまうのだった。
瓶を出したナツネに、ノアは微笑をうかべて謝辞を述べる。
「ありがとうございます」
「なにか妙なものでも入っているのではなかろうな」
ヴィクトールの台詞に、ナツネは唇を尖らせた。
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