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しおりを挟む再度ふたりは見つめ合う。フリューゲルが顎に手を添えて言った。
「……もしや、俺が呼び出されたのは事故なのか?」
「……そう、なのかもしれません……」
「用件があって、俺を呼び出したわけではないんだな?」
「残念ながら……」
「ふむ……」
相槌を打って、彼は続けた。
「とりあえず……」
「……とりあえず?」
「とりあえず、お茶にしよう」
なにが「とりあえず」なのかはよくわからなかったが、そんなわけで佐緒里はどこの誰かもわからない自称天使のマフィア男とお茶をすることになった。
紅茶を淹れたのは彼だったが、そのお茶は佐緒里が淹れる紅茶よりも遥かにおいしかった。
***
紅茶をすすって、フリューゲルはくちをひらいた。
「さて、状況を整理するが」
「はぁ」
「お前は意識的に魔力を使える人間ではないし、俺を呼び出したのも故意ではない。そういうことだな?」
「……すいません」
「なに、そういうことは稀にある。血縁者に魔力を扱える者がいた場合、子孫にもその能力がいくらか受け継がれることがあるのでな」
「……血縁者……」
佐緒里は、テーブルに置いたコンパクトミラーを見る。
「……これ、亡くなったお祖母ちゃんの形見なんです。私が小さい頃、お祖母ちゃんから譲ってもらって……」
「見せてもらっても?」
「どうぞ」
フリューゲルがコンパクトミラーを手に取り、それをひらく。次いで、少し観察してから述べた。
「……極端に古いものではないな。となると、その祖母が魔力を扱える人物だったのだろう。幼い君に譲ったのは、君を守るためだったのだろうな」
「……守る……?」
「ああ。この鏡には、天使の守護のチカラが含まれている。ここに刻まれている文字が、その証拠だ。おそらく、君の祖母は過去にとある天使と契約を交わし、守護を受けていたんだろう。困ったときはここに刻まれている文字をくちにして天使を召喚し、自分を守ってもらえるように……な」
「で、でも……それは、お祖母ちゃんだから効果があるんですよね? 私に譲ってもらっても、小さい頃の私は天使なんて呼び出せないわけで……いや、いま呼び出せてることも不思議なんですけど……」
「呼び出せなかったとしても、仮にも天使と契約を交わした道具だ。そこらのお守りよりはよほど効果がある。だからこそ、幼い君に譲ったんだろう。不慮の事故や病から、可愛い孫を守るためにな」
佐緒里は、祖母のことを思い出す。
祖母からは、優しくしてもらった記憶しかない。可愛がられている自覚はあったし、佐緒里もそんな祖母が大好きだった。蘇ってくるのは、佐緒里に笑いかけてくれる彼女の笑顔ばかりである。
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