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しおりを挟むふふん、と笑ってメルウィンは重ねた。
「ひとりでは世界を変えられないのなら、ひとりでやろうとしなければいいのさ。
今の世界の在り方に納得している魔術師なんて、おそらく数えるくらいだろう。それくらい、今の世界は魔術師にとって生きづらい。卑屈になっている者、反発する者、諦めている者……そんな魔術師が大半なんじゃないかな」
ザルフィナは、黙ってメルウィンの話を聞く。
メルウィンが続けた。
「だったら、魔術師みんなで協力して、世界の流れを変えていけばいい。もちろん、なかなかうまくはいかないだろうし、すぐには変化もしないだろう。
だが、問題が【魔術師と魔術師以外】である時点で、魔術師が解決に身を乗り出さなければならないのは必然だ。……まぁ、今までなにもせずに、のらりくらりと旅をしてきた僕が偉そうに言えることでもないんだけど」
肩を竦めて自嘲するメルウィンに、ザルフィナは首を横に振って返す。
「いえ……あなたがそういう生活をするようになった理由が、きっとあるのでしょう。見たところ、私などよりも遥かに人間との付き合いが巧みなようですし。人間嫌いにも見えませんしね」
「まぁ、僕の性格上、余計な恨みを買うことは多かったけどね。でも、人間との付き合いに関しては、苦労してない魔術師なんていないだろうさ。
……だから――ちょっとずつ変えていこうよ、皆で。強引な手段なんかじゃなくてさ」
メルウィンの声調は、いたく優しい。
しばし黙り込んでから、ザルフィナは不安げに呟く。
「……変えられる――でしょうか」
「おや、弱気な発言だね。ここと異世界を繋ごうとしていた魔術師の台詞とは思えない」
「茶化さないでください」
「茶化してなんていないとも。禁忌的な大魔術を使おうとする度胸はあるのに、自分達の手で地道に世界を変えていく自信はないってことだろう?」
「……あなたには、あるのですか。その自信とやらが」
「自信とまでは言わないけれど、やる前から弱気になる気はないね」
メルウィンの言葉は、嘘には聞こえなかった。
くちを噤んだザルフィナがメルウィンをじっと見つめてから、不安と悲しみが綯い交ぜになったふうな面持ちで言う。
「……どうして……」
「ん?」
「どうして、そんなふうに楽観的になれるのですか。この世界の現在を在り方を……魔術師の立場を知っていながら、どうして……」
今度は、メルウィンが黙る番だった。
彼はなにかを思案するふうな沈黙を挟んだのちに、ザルフィナに訊く。
「……ザルフィナくんさ、僕みたいに旅をして過ごした経験ってある?」
「……なんですか、急に」
「いいから、いいから。で、あるの? ないの?」
「……ありませんけど」
「それが答えだよ」
「は……?」
メルウィンは微笑んだ。
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