転移先で出会ったアラフォー魔術師が時々かっこよく見えるのが悔しい

チーズたると

文字の大きさ
111 / 140

111

しおりを挟む


 ふふん、と笑ってメルウィンは重ねた。

「ひとりでは世界を変えられないのなら、ひとりでやろうとしなければいいのさ。

 今の世界の在り方に納得している魔術師なんて、おそらく数えるくらいだろう。それくらい、今の世界は魔術師にとって生きづらい。卑屈になっている者、反発する者、諦めている者……そんな魔術師が大半なんじゃないかな」

 ザルフィナは、黙ってメルウィンの話を聞く。
 メルウィンが続けた。

「だったら、魔術師みんなで協力して、世界の流れを変えていけばいい。もちろん、なかなかうまくはいかないだろうし、すぐには変化もしないだろう。

 だが、問題が【魔術師と魔術師以外】である時点で、魔術師が解決に身を乗り出さなければならないのは必然だ。……まぁ、今までなにもせずに、のらりくらりと旅をしてきた僕が偉そうに言えることでもないんだけど」

 肩を竦めて自嘲するメルウィンに、ザルフィナは首を横に振って返す。

「いえ……あなたがそういう生活をするようになった理由が、きっとあるのでしょう。見たところ、私などよりも遥かに人間との付き合いが巧みなようですし。人間嫌いにも見えませんしね」

「まぁ、僕の性格上、余計な恨みを買うことは多かったけどね。でも、人間との付き合いに関しては、苦労してない魔術師なんていないだろうさ。
 ……だから――ちょっとずつ変えていこうよ、皆で。強引な手段なんかじゃなくてさ」

 メルウィンの声調は、いたく優しい。
 しばし黙り込んでから、ザルフィナは不安げに呟く。

「……変えられる――でしょうか」
「おや、弱気な発言だね。ここと異世界を繋ごうとしていた魔術師の台詞とは思えない」

「茶化さないでください」
「茶化してなんていないとも。禁忌的な大魔術を使おうとする度胸はあるのに、自分達の手で地道に世界を変えていく自信はないってことだろう?」

「……あなたには、あるのですか。その自信とやらが」
「自信とまでは言わないけれど、やる前から弱気になる気はないね」

 メルウィンの言葉は、嘘には聞こえなかった。
 くちを噤んだザルフィナがメルウィンをじっと見つめてから、不安と悲しみが綯い交ぜになったふうな面持ちで言う。

「……どうして……」
「ん?」

「どうして、そんなふうに楽観的になれるのですか。この世界の現在を在り方を……魔術師の立場を知っていながら、どうして……」

 今度は、メルウィンが黙る番だった。
 彼はなにかを思案するふうな沈黙を挟んだのちに、ザルフィナに訊く。

「……ザルフィナくんさ、僕みたいに旅をして過ごした経験ってある?」
「……なんですか、急に」

「いいから、いいから。で、あるの? ないの?」
「……ありませんけど」

「それが答えだよ」
「は……?」

 メルウィンは微笑んだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...