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 ローランドは腕を組み、顎に指を添えて思案する面持ちを見せる。

「こいつは、本格的に彩香ちゃんの健康管理を考える必要がありそうだな……。毎日お昼はどうしてるの? まさか、コンビニで適当に買って済ましてる?」

 とうとう「コンビニ」などという現代の単語まで飛び出した。いよいよ目の前の男が本当に悪魔なのかどうかを疑う必要性がありそうである。

 が、それよりも今は、投げかけられた問いに対する回答だ。彼の疑問の通り、面倒くさがり屋な一面もある彩香は、コンビニなどで適当に買って昼食を済ませることも多い。

 いや、ここに告白すると、朝食や夕飯も適当に買って済ませることが多かった。

 しかし、こればかりは彩香にも弁解がある。考えてもみてほしい。仕事で疲労し、ストレスをためる毎日。そんな中で、真面目に料理まで出来る人間が果たしてどれだけいるだろうか。

 料理が趣味であるなら、また話は別だろう。が、彩香は正直に言って料理があまり好きではない。準備や後片付けが面倒なのである。

 けれど、これを素直に悪魔に告げれば、どんな顔をされるかわかったものではなかった。

 彩香は必死に言い訳を考えながら「あー……」だとか「えーと……」だとか無意味な言葉をくちにして、時間を稼ぐ。

 だが、ローランドは無駄に察しがよかった。彼は両目を細め、チベットスナギツネのような顔をすると、短くも鋭く「図星だな」と穿つ。もはや彩香はなにも言えない。

 彼はいったん両目を閉じてから思案する様子を見せたあと、カッと開眼して述べた。

「……よし、これからはおじさんが弁当を作ろう! 大丈夫、悪魔だから早起きなんて微塵も苦にならないさ」

「いや、あの、そういう心配はしてないんですけど……」

「ああ、どうしても食べられないものだけ、あとでメモしてくれ。あと、ウインナーはタコさん希望の場合も、忘れずに書いといてくれ」

 一応は家主である彩香の意見を無視して、話はとんとん拍子で進んでいく。というか、いったいどこでタコさんウインナーの知識など得たのか。

「あの……」

「悪魔の俺と一緒に暮らすからには、栄養失調でなんて死なせはしないさ。安心してくれ、だし巻き玉子の味には自信がある」

 誇らしげに、ローランドは歯をちらりと見せて笑った。格好をつけるシーンを完全に間違えている。

 ここに至ってようやく、彩香は自分がとんでもない約束をしてしまったのではないかという疑問に行きついた。が、今更そんな疑いを持ったところで、後の祭りである。

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