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ヴィクトールに連れられた乃亜は、森の中にある一軒の家にたどり着く。
その家を視認して、乃亜はひそかに感嘆した。まるでヨーロッパの田舎にでもありそうな、石と木で造られた可愛い二階建ての家だったのである。
絵本にも出てきそうだ、などととも考えたりした。
「悪いが、男のひとり暮らしだ。期待はするなよ」
「いえ、そんな! 狼の胃の中で朝を迎えることを考えたら、天国ですとも!」
本音であったので、乃亜はこぶしを握って主張する。実際、ヴィクトールが来てくれなければそうなっていたのだ。そうでなくとも、野宿よりかは遥かに有難い。
なにを思ってか、ヴィクトールは微苦笑を零した。
自分が単細胞なのか、それとも自分よりもずっと年上の男性に親切にしてもらっているからかはわからないけれど、相変わらず見知らぬ世界にいるというのに、乃亜は徐々に落ち着いてきている自分に感付いている。
もちろん、不安がないわけではなかった。
それでも、やはり誰かが傍にいるということは、それだけで安心を与えてくれる。
知らない場所にひとりでいるのは――想像以上に心細く、怖いものだ。ひとりでいるというだけで、不安は簡単に増幅してしまう。
家のドアノブに手をかけて、ヴィクトールが扉をあけた。
木が小さく軋む音と共に、彼の自宅が乃亜を迎える。
家の内装は、外観を裏切らないものであった。
テレビや絵本で見るような、木をベースにして作られている家具の数々。
そして、そんな木々が年月の流れによって、温かみのある蜂蜜色をまとっていた。
カントリーな雰囲気とでも言うのだろうか。決して装飾品が多いわけではないのに、全体的に可愛らしい印象を受けた。
家を奥に進んでいけば、なんと暖炉まで設置されている。冬には、きっとこの温かい雰囲気は深みを増すのだろう。
リビングのテーブルを、ヴィクトールは指さす。
「適当に座れ」
言って、彼は乃亜に背中を向けると、すぐ側にあるキッチンで湯を沸かし始めた。
水を注がれたポットも、甘い生クリームを思わせるアイボリー色をしていて、いたく可愛らしかった。この国のひとには、きっとそれらの道具は日常的なもので、特別なものではないのだろうけど。
立ったまま湯を沸かすヴィクトールに少々申し訳なく思いながら、乃亜は椅子を一脚ひいて、そこに腰をおろした。
背中を向けたまま、ヴィクトールが言う。
「さて、さっそく本題だが」
腕を組んだヴィクトールが振り返った。彼は両目を細める。
「お前はあそこでなにをしていた? なにやら要領を得ない発言をしていたが」
問われ、乃亜は躊躇しながらも気が付いたらあそこにいたことや、日本という国に住んでいたことなどを正直に説明した。自分でもまだ理解できていない状況を説明するのは、妙な感覚だったが。
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