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「お前は今、未来の名脚本家の下積み時代を目の当たりにしている。俺が有名になった日には、インタビューに来た連中にこう言ってやるといい。
 『彼は、いつだって脚本のことを考えていました。たくさんの作品を見て学び、眠ることも食べることも忘れて脚本に打ち込んでいたんです。彼のような素晴らしい友人をもって、僕は幸せです』
 ……とな!」

「今回はミステリーの脚本かい? うーん、ありきたりな感じだね。つまらないことはないけど、べつに面白くもないというか。昼寝して起きたら、なに読んだか忘れてしまいそうだよ」

「ぅおーい! 適当に読むな! パラパラめくるな! もっとちゃんと読め!」
「読んでる読んでる」
「嘘つけ! 原稿がめくれる勢いで、そよ風が発生してるぞ! 俺の魂を込めた原稿をうちわ代わりにするんじゃない!」

 休日の午後四時、悠也の部屋であった。
 脚本家を目指している悠也と、その友人の秋人は、学生の頃からの付き合いである。

 ふたりはこうして度々顔を合わせては、つまらない雑談をし、適当に食事をし、またあるときは今日のように悠也の書いた脚本を秋人が読む――という時間を過ごしているのであった。

 悠也の脚本をつまらなさそうに眺めながら、秋人が巨大なクッションに身を預ける。いわゆる、人類を駄目にするソファである。悠也は毎日このソファに腰を掛け、毎日駄目になっている。駄目人間は間違っても買ってはいけない代物だった。もう遅いが。

「そんなこと言われてもね。導入部分もありきたりで、しっかり読もうって気になれないというか」

「ミステリーなんだから、ひとが死ぬシーンから始まるのもお約束だろ! 序盤にだらだら日常シーンや紹介シーンを流すミステリーのほうが眠くなるぞ!」

「それはまぁ、そうかもしれないんだけど」
「それとも、なにか。最初に犯人の逮捕シーンを入れればいいのか? 出オチだぞ!」

「いや、それはそれで面白いんじゃないかな。最初に犯人逮捕のシーンを書けば、見てるほうは当然その人物が犯人だと思い込む。
 でも、じつはその人物を犯人に仕立て上げた本当の犯人があるんだ。この真の犯人は、自分の手を汚さずに気に入らない相手を始末することが出来たわけだね。

 でも、それじゃあ流石に後味が悪いから、真の犯人には事故や自殺で退場してもらったほうがいいかな。復讐で誰かから刺されるっていうのも、お約束ではあるけど因果応報のオチでいいかもね」

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