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しおりを挟む「……なに?」
「この私が、重要なアイテムを簡単にあんたに渡すわけないでしょ」
言われて、ギャレオスは手中の小瓶を一瞥した。
「……まさか、偽物だとでも?」
「本物だなんて、私が一度でも言った?」
マーガレットはにやりと笑う。
「それに、あんた私が魔法使いってこと、忘れてない?」
「……武力で解決するつもりかね?」
「まさか。そんなことしても自分の立場が危うくなるだけだって、いくら私でもわかるわ」
「では……」
ギャレオスの言葉を遮るかのように、マーガレットはスツールから立ち上がった。
その動作に無意識に身を硬くしてしまったギャレオスを面白がるふうに笑いながら、彼女は続ける。
「魔法には、色々な種類のものがあるのよ。あんたとそういった話はしてこなかったし、あんた自身もそこまで魔法に興味はなさそうだから、詳しいことはわからないでしょうけど」
「……なにが言いたい」
薄く笑って、マーガレットは沈黙を返した。そんな相手の余裕が、ギャレオスの不安を煽る。
問い掛けを無視して、マーガレットはさらに重ねた。
「たとえば遠くにいる誰かと連絡をとりたいときは、身近にあるものに魔法をかければ、それが通話の道具になるわ。他にも、聞き取りづらい小さな物音に魔法をかけたら、その音が大きくなって聞きやすくなったり」
彼女が一歩、ギャレオスに近付く。
ギャレオスは椅子からおりて、マーガレットとは逆に一歩しりぞいた。
ふたりの立場が一瞬で逆転したことをさとって、ギャレオスは屈辱を覚える。どうして自分は、彼女に対してこんな惨めな態度をとってしまっているのか。
しかし、相手の隠し球がわからないだけに、迂闊に動くことは難しかった。
ギャレオスは、無意識に小瓶をきつく握りしめる。
それを見たマーガレットが、どこか憐れんだ眼差しをギャレオスに向けた。
「……ねぇ、まだわからない?」
「……なにがだ」
「私がなんのために、早々にその瓶をあんたの前に出したか」
「……こちらの情報を得るためではないのか? 花の蜜を依頼した魔法使いの話を私に出し、尚且つ蜜を思わせるアイテムをチラつかせれば、私とて黙っているわけにはいかなくなる」
「それもあるわ。じゃあ、なんのために私はあんたから情報を聞き出したのかしら? 味方が誰もいない状況で話を聞き出したところで、この国ではどうしたって私は不利よ。城や街の皆に信じてもらえない情報なんて、無意味じゃない?」
――たしかに、その通りである。
彼女が真実を周囲に話したところで、ギャレオスが嘘の情報で塗り潰せば、それで事は済むのだから。
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