婚約破棄された令嬢は魔法で仕返しいたします!

チーズたると

文字の大きさ
27 / 29

27

しおりを挟む


 そのショックは、計り知れない。

 さらに、拡声でふたりの会話が街中に流れた以上、どれだけ息子に愛情があったところで、お咎めなしというわけにもいかない。そんなことは、国民が許さないだろう。

 仮に軽い処分で済んだとしても、街の人々がギャレオスを愚直に信じることは、もうないのに違いなかった。

 そして、それこそが、きっとマーガレットの狙いなのだ。

 一部の者に真実を伝えたところで、マーガレットよりも立場が上の者に真実を握り潰されれば意味がない。

 だが、街中に真実をバラまけば、城の者が否定したところで情報は噂として残り続ける。

 なにも、全員に信じてもらう必要はないのだ。
 中には、マーガレットを非難する者もあるだろう。

 しかし、それ以上に、広範囲に情報を広めることがなにより大切だったのだ。
 敵にまわしたくない女だなと、率直に思う。

 なにより恐ろしいのは、その行動力に加えて、一部の者に嫌われても気にしないメンタルの強さだ。正直なところ、シャールよりも精神面は強そうである。

 さらに、森でシャールに出会った強運も見過ごせない。
 総じて今回の件は、そんなマーガレットを敵にまわしてしまったギャレオスの不運が招いた敗北だったと言えよう。

 小さくため息を漏らしながら、シャールは街の人々を観察した。
 バーの存在が明らかになったことで、おそらく芋づる式に他の犯罪者もあぶり出されていくだろう。

 この国は、しばらく慌ただしくなるに違いなかった。
 様々な感情をあらわにしている国民の表情を眺めつつ、シャールはそう予感する。

 もっとも、王族の膿が出されることになるのだから、長期的に見れば今回の件は決して悪くはないのだろうけど。

 時計台の向こうでは、まだマーガレットとギャレオスが言い争っていた。
 そして今の天候は皮肉なことに晴天で、空の青さがどこまでも爽やかである。

 空気も澄んでおり、ふたりの会話はきっと遠くまでよく響いたことだろう――。





 ガラス越しの青空を見ながら、マーガレットはバルコニーの扉をひらいて外に出た。

「んー、いい天気!」

 両腕を空に向かって伸ばして、深く呼吸をする。
 ギャレオスの本性が暴露されてから、一ヶ月が経過していた。
 案の定、あれからレイディン国は上を下への大騒ぎであった。

 街ではギャレオスのバッシングが響き、城内では次の王の跡継ぎの問題でてんやわんやし、バーを情報交換の場にしていた犯罪者達も次々と捕まった。

 その中には当然マーガレットに対する批判もあったが、ギャレオスの批判に比べれば可愛いものであった。

 そして、レイディン国の騒ぎを聞きつけたマーガレットの両親が迎えの馬車を寄越してくれたので、レイディン国の騒ぎもおさまりきらないうちに、マーガレットはちゃっかりと帰国したのである。

 ――シャールも連れて。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

竜皇帝陛下の寵愛~役立たずの治癒師は暗黒竜に今日も餌付けされ中!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリリアーナ・アンシーは社交界でも醜い容姿故にアザラシ姫と呼ばれていた。 そんな折、敵対する竜の国との平和条約の為に生贄を差し出すことになった。 その相手は純白の聖女と呼ばれるサンドラだったが国の聖女を差し出すわけにも行かず、リリアーナが身代わりを務めることになった。 辺境伯爵令嬢ならば国の為に働くべきだと泣く泣く苦渋の選択をした婚約者だったが体よくリリアーナを国から追い出し、始末する魂胆が丸見えだった。 王も苦渋の選択だったがリリアーナはある条件を付け了承したのだ。 そして決死の覚悟で敵国に迎えられたはずが。 「君が僕のお嫁さんかい?とりあえず僕の手料理を食べてくれないかな」 暗黒竜と恐れられた竜皇帝陛下は何故か料理を振る舞い始めた。 「なるほどコロコロ太らせて食べるのか」 頓珍漢な勘違いをしたリリアーナは殺されるまで美味しい物を食べようと誓ったのだが、何故か食べられる気配はなかった。 その頃祖国では、聖女が結界を敷くことができなくなり危機的状況になっていた。 世界樹も聖女を拒絶し、サンドラは聖女の地位を剥奪されそうになっていたのだった…

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

追放聖女ですが、辺境で愛されすぎて国ごと救ってしまいました』

鍛高譚
恋愛
婚約者である王太子から 「お前の力は不安定で使えない」と切り捨てられ、 聖女アニスは王都から追放された。 行き場を失った彼女を迎えたのは、 寡黙で誠実な辺境伯レオニール。 「ここでは、君の意思が最優先だ」 その一言に救われ、 アニスは初めて“自分のために生きる”日々を知っていく。 ──だがその頃、王都では魔力が暴走し、魔物が溢れ出す最悪の事態に。 「アニスさえ戻れば国は救われる!」 手のひらを返した王太子と新聖女リリィは土下座で懇願するが…… 「私はあなたがたの所有物ではありません」 アニスは冷静に突き放し、 自らの意思で国を救うために立ち上がる。 そして儀式の中で“真の聖女”として覚醒したアニスは、 暴走する魔力を鎮め、魔物を浄化し、国中に奇跡をもたらす。 暴走の原因を隠蔽していた王太子は失脚。 リリィは国外追放。 民衆はアニスを真の守護者として称える。 しかしアニスが選んだのは―― 王都ではなく、静かで温かい辺境の地。

処理中です...