60 / 90
第3章 心に棲む者と審問の楔
第59話 分裂の序章
しおりを挟む
──精神干渉。
死神、あるいは生者の心に触れ、乱すことができる危険な力。
記憶の上書きや消去はもちろん、感情そのものを植え付け、相手の在り方を変えてしまう。そんな悪意を孕んだ存在。
百年前の片寄藍良への審問でも、千景はこうした精神干渉の本質を語っていた。
当時、彼女の心の中で耳を潜めていた真白は、「そういう力もあるんだ」くらいの認識だった。だが実は、すべての発端はカグヤであり、審問官たちは“闇属性”に加えて、“力の出どころ”そのものを警戒していたのだ。
真白はタマオの話を聞きながら、小さく頷く。そこへタマオがひょいっと顔を寄せてきた。
「どうしたのじゃ、藍良。急に黙り込んで」
「ううん……。で、死神審問官になったカグヤが起こした事件って何だったの?」
「うむ……順を追って話すとしようぞ……その前にじゃ、藍良」
「ん?」
「ここからする話は、本当に本っ当~~~に内緒じゃぞ!千景も兼翔も、わしが口を滑らせたと知ったら、きっとプンプンじゃ!」
タマオはそう、真剣に念押しした。真白は笑いながら、そんなタマオの鱗を撫でる。
「わかった、わかった。絶対言わないから。それで?」
「……カグヤはのう、あまりにも優秀すぎて、死神審問官の憧れの的になっておった。じゃが……噂では、その頃からすでにカグヤは“精神干渉”を始めておったそうじゃ。記憶の書き換えや消去を、少しずつ……な」
「何のために?」
「さあ。これはあくまでもわしの推測じゃが、カグヤは“試していた”のではなかろうか。自分の力で、どこまで他の死神の精神を操れるかを」
──悪趣味なやつ。
真白は心の中で、そっと毒ついた。
タマオはさらに続ける。
「そんな折、ちょうど当時の最高審問官が退いたんじゃ」
「最高審問官って、確か死神審問官のトップ……だっけ?」
「そうじゃ。その退官に伴って、今の千景の上司がその座に就くことになった。じゃがのう、そこに至るまでにひと悶着あったのじゃ」
そう言いながら、タマオはさらに声を潜める。
「実は、死神審問会には“二つの派閥”がある」
「派閥?」
初耳だ。真白は思わず瞬きをした。
「ひとつは白隠派。千景や兼翔、そして現在の最高審問官が所属している派閥じゃ。カグヤのような闇属性やユエが扱っていた禁術を強く警戒しておる。調査して危険と判断すれば、即座に封じる。だからこそ、闇属性を必死に探しておるわけじゃな」
真白は頷いた。
──確かに。千景や兼翔の行動は、まさに“白隠派”だな。
「もうひとつは幽光派じゃ。こちらは禁忌の力をも“秘められた可能性”と肯定しておってな。危険な死神も、すぐに黒標対象扱いにはせん。審問会が管理し、必要とあらばその力すら利用すべし──そう考える派閥じゃ。ちなみに、当時カグヤに心酔しておった死神たちも、多くはここに属しておったようじゃ」
「なるほどね。闇属性を持つ異端な死神……カグヤがどっちの派閥かは、聞くまでもないな」
「そう、カグヤは完全に幽光派側じゃった。最高審問官が退任して、新しい最高審問官を選ぶことになった審問会は、この白隠派と幽光派の争いとなった。そしてカグヤは、幽光派の代表として、どうしても最高審問官の座を手に入れたかったのじゃ」
そこで真白は、ひとつ息を呑んだ。
「……権力そのものを、奪いにきたわけか」
「じゃがのう、前任の最高審問官が白隠派だったこともあって、新しい最高審問官も“白隠派から選ぶべき”という声が、圧倒的に多かったんじゃ」
タマオは尾をゆらりと揺らしながら、神妙に続ける。
「そこでカグヤは、最高審問官の座を掴むために、大胆な方法に踏み切った」
「……それが、“精神干渉”か」
タマオが深く、ゆっくりと頷く。
「カグヤは自ら、白隠派の死神たちの記憶を、少しずついじり始めたんじゃ。ときには消し、ときには塗り替えて……そうして徐々に白隠派の死神たちを幽光派側に移していった。気付けば、派閥の力関係は大きく傾きかけておった。じゃが、そんなカグヤの企みに気付いた死神がいた」
「……誰?」
タマオは真白を真っ直ぐに見つめ、一段と静かな声で告げた。
「後に審問官たちを束ねることになる、現在の最高審問官──幻道じゃ」
死神、あるいは生者の心に触れ、乱すことができる危険な力。
記憶の上書きや消去はもちろん、感情そのものを植え付け、相手の在り方を変えてしまう。そんな悪意を孕んだ存在。
百年前の片寄藍良への審問でも、千景はこうした精神干渉の本質を語っていた。
当時、彼女の心の中で耳を潜めていた真白は、「そういう力もあるんだ」くらいの認識だった。だが実は、すべての発端はカグヤであり、審問官たちは“闇属性”に加えて、“力の出どころ”そのものを警戒していたのだ。
真白はタマオの話を聞きながら、小さく頷く。そこへタマオがひょいっと顔を寄せてきた。
「どうしたのじゃ、藍良。急に黙り込んで」
「ううん……。で、死神審問官になったカグヤが起こした事件って何だったの?」
「うむ……順を追って話すとしようぞ……その前にじゃ、藍良」
「ん?」
「ここからする話は、本当に本っ当~~~に内緒じゃぞ!千景も兼翔も、わしが口を滑らせたと知ったら、きっとプンプンじゃ!」
タマオはそう、真剣に念押しした。真白は笑いながら、そんなタマオの鱗を撫でる。
「わかった、わかった。絶対言わないから。それで?」
「……カグヤはのう、あまりにも優秀すぎて、死神審問官の憧れの的になっておった。じゃが……噂では、その頃からすでにカグヤは“精神干渉”を始めておったそうじゃ。記憶の書き換えや消去を、少しずつ……な」
「何のために?」
「さあ。これはあくまでもわしの推測じゃが、カグヤは“試していた”のではなかろうか。自分の力で、どこまで他の死神の精神を操れるかを」
──悪趣味なやつ。
真白は心の中で、そっと毒ついた。
タマオはさらに続ける。
「そんな折、ちょうど当時の最高審問官が退いたんじゃ」
「最高審問官って、確か死神審問官のトップ……だっけ?」
「そうじゃ。その退官に伴って、今の千景の上司がその座に就くことになった。じゃがのう、そこに至るまでにひと悶着あったのじゃ」
そう言いながら、タマオはさらに声を潜める。
「実は、死神審問会には“二つの派閥”がある」
「派閥?」
初耳だ。真白は思わず瞬きをした。
「ひとつは白隠派。千景や兼翔、そして現在の最高審問官が所属している派閥じゃ。カグヤのような闇属性やユエが扱っていた禁術を強く警戒しておる。調査して危険と判断すれば、即座に封じる。だからこそ、闇属性を必死に探しておるわけじゃな」
真白は頷いた。
──確かに。千景や兼翔の行動は、まさに“白隠派”だな。
「もうひとつは幽光派じゃ。こちらは禁忌の力をも“秘められた可能性”と肯定しておってな。危険な死神も、すぐに黒標対象扱いにはせん。審問会が管理し、必要とあらばその力すら利用すべし──そう考える派閥じゃ。ちなみに、当時カグヤに心酔しておった死神たちも、多くはここに属しておったようじゃ」
「なるほどね。闇属性を持つ異端な死神……カグヤがどっちの派閥かは、聞くまでもないな」
「そう、カグヤは完全に幽光派側じゃった。最高審問官が退任して、新しい最高審問官を選ぶことになった審問会は、この白隠派と幽光派の争いとなった。そしてカグヤは、幽光派の代表として、どうしても最高審問官の座を手に入れたかったのじゃ」
そこで真白は、ひとつ息を呑んだ。
「……権力そのものを、奪いにきたわけか」
「じゃがのう、前任の最高審問官が白隠派だったこともあって、新しい最高審問官も“白隠派から選ぶべき”という声が、圧倒的に多かったんじゃ」
タマオは尾をゆらりと揺らしながら、神妙に続ける。
「そこでカグヤは、最高審問官の座を掴むために、大胆な方法に踏み切った」
「……それが、“精神干渉”か」
タマオが深く、ゆっくりと頷く。
「カグヤは自ら、白隠派の死神たちの記憶を、少しずついじり始めたんじゃ。ときには消し、ときには塗り替えて……そうして徐々に白隠派の死神たちを幽光派側に移していった。気付けば、派閥の力関係は大きく傾きかけておった。じゃが、そんなカグヤの企みに気付いた死神がいた」
「……誰?」
タマオは真白を真っ直ぐに見つめ、一段と静かな声で告げた。
「後に審問官たちを束ねることになる、現在の最高審問官──幻道じゃ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる