虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─

あさとゆう

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第3章 心に棲む者と審問の楔

第71話 見抜かれた想い

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 翌日の土曜日。藍良は自分の部屋で、期末テストに向けて勉強を進めていた。隣には千景の姿がある。

 今日は休日。朝食のあと、兼翔は「学校周辺を調べてくる」と言い出し、家を出た。タマオも兼翔に同行中。慈玄は地方への法要で、今日から五日間家を空けることになっている。今、部屋には藍良と千景だけが、ノートにペンを走らせていた。

 藍良はタイミングを見計らうかのように、そっとペンを置いた。両手を膝の上に乗せ、ゆっくりと千景に向き直る。

「あのね、千景。昨日、夢の中でちょっと考えてみたんだけど……」

 藍良は、真白と交わした会話を、言葉を選びながら千景へ伝えた。

『化身が他の人間に宿るかどうかはわからない。だが、かつてカグヤが人間に宿っていたことから察するに、“宿る方法”は存在する可能性がある。花倉の化身は、その“方法”を知っていたのではないか──』

 真白の推測をかいつまんで説明したところで、千景は小さく息を漏らし、くすりと笑った。

「……夢の中でいろいろ考えてくれたんだね。ありがとう。凄く参考になったよ」

 真白の“探偵ぶり”が褒められた気がして、藍良は思わず「へへへ」と笑う。だがその直後、千景は表情を引き締め、神妙に続けた。

「……他にも、もしかして何か考えたりした?」
「え?」
「藍良、夢の中にいると、異様に鋭くなるみたいだから。参考に色々聞いておきたくて」

 この発言に、藍良は苦笑いを浮かべた。千景は完全に真白の存在に気付いている。それなのにこんなに遠回しに聞いてくるのは、以前、藍良が頑なに真白のことを言わなかったからだ。

 そのため、千景はこうして気を遣ってくれているわけだが、藍良にはそれがちょっぴり嬉しかったりする。

「えっとね……」

 藍良は、真白との会話を思い返すように、少し天井を見上げる。

「もしかして、花倉先生の殺人は、計画されてたんじゃないかな……」

 途端に千景の目に鋭い光が宿った。光を帯びた視線は逸らされることなく、真っ直ぐ藍良へと注がれる。その圧に、藍良は驚きを隠せなかった。

「か、仮説だよ。念のため言っておくけど」
「いいよ。聞かせて」

 藍良は咳払いをし、呼吸を整えながら語り始めた。

「花倉先生が黒標対象だっていう情報が……もしかしたら洩れてたとか。ホラ、化身の力って闇属性なんでしょ?それを利用したい勢力が、千景たちが来る前に先回りして、化身を奪おうとした。でも、勢い余って殺してしまった。それで──」

 藍良は一度、息を吸う。

「……まずは花倉先生の魂を先に奪うことにして、先生を審問して情報を引き出そうとしている……みたいな!」

 言い終えた瞬間だった。千景は、はっきりと目を見開いた。その反応に、藍良は言葉を失う。

「……え?」

 変なことを言ったのだろうか。そう思った矢先、千景は表情を緩め、にっこりと笑った。そして、藍良の茶色い髪を指先でそっと摘む。

「油断も隙も無いね、藍良ってば」
「は、はい!?」

 千景はグッと藍良に顔を寄せる。それだけで、藍良の頬は一気に熱を帯びた。

「な……何か変なこと言った!?」
「うん。化身の力を利用したい“勢力”が花倉先生を“審問”しようとしている──っとこ。“審問”ってことは……つまり、その“勢力”は審問官ってことでしょ?」

 ──ぎくっ!やっば!

 ここまで言われて、藍良はうっかり核心に触れた自らの発言に気付いた。途端に、背中を冷たい汗が伝う。

 おそるおそる千景を見ると、彼は一瞬だけ申し訳なさそうに視線を伏せた。

「……僕が思っている以上に、藍良は僕のこと心配してくれてたんだね」

 言葉の意味が飲み込めず、藍良は首を傾げる。

「実はね、気付いてたんだ。藍良──というか“彼女”が数日前の夜、タマオからいろいろ聞いたこと。あの夜、藍良の寝室で闇の気配を感じて、気になってこっそり様子を見に行った。そうしてら、タマオと話してる声が聞こえて、その……」
「まさか……立ち聞きしてた……とか!?」

 千景は少し気まずそうにしたあと、はにかんで頷いた。その表情があまりにも爽やかで、ふにゃりと身体から力が抜ける。すると、千景はその夜のことを思い出したのか、堪えきれないように笑った。

「“彼女”、藍良の真似、頑張ってたね。ときどき隠しきれてなくて、素が出ちゃってたけど」

 藍良は小さく息を吐いた。こっそり調べていたはずが、まさか全バレだったとは。きっと今ごろ、真白も胸の内で仰天しているだろう。藍良はペコリと頭を下げる。

「……その、ごめん。探るようなことして」

 すると、千景はいつものように、藍良の頭を優しくポンポンと撫でる。

「気にしないで。僕も結構コソコソしてるから。お互い様だよ」

 藍良は顔を上げると、彼の目を真っ直ぐに見つめる。少し声を落とし、意を決したように問いかけた。

「ねえ、千景」
「うん?」
「どうして……顔を変えたりしたの?」
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