85 / 90
最終章 運命の死神審問会
第84話 幻道の洞察
しおりを挟む
藍良から見て、幻道は室内の机の奥側に座り、蘭丸はその正面に向かい合う形で腰掛けていた。そして意外なことに、蘭丸は藍良の姿を見るなり、わずかに目を見開いた。彼は兼翔と視線を交わすと、静かに幻道へ向き直る。
「幻道様。これはいったい……なぜ彼女が」
「兼翔に頼んで、連れてきてもらったのよ。その方が、話が早いと思ってね。蘭丸、悪いけど先に彼女と話をさせてもらえるかしら?」
蘭丸は一瞬押し黙り、やがて小さく息を吐くと、納得したように立ち上がった。そして藍良に腰掛けるように無言で促す。
だが、藍良は状況を飲み込めずに、扉の前で立ち尽くしていた。すると、首元に滑る感触が走った。兼翔が藍良の首に巻きついていたタマオを離し、自らの首に巻き付けたのだ。
「ふ……ふおおおおぉぉん!わしはお主のマフラーではない!藍良のマフラー……」
「我慢しろ」
兼翔はそう言うと、無表情のまま藍良に椅子を指し示した。「座れ」と言いたいのだろう。藍良は躊躇いながら、ゆっくりと歩を進める。そして、重い椅子を両手で引いた。床を擦る鈍い音が響いたあと、藍良はそっと腰を下ろし、正面に座る幻道を見つめた。兼翔と蘭丸は立ったまま向かい合う二人を見つめている。
「なかなか話せなくて、ごめんなさいね」
幻道は、そう切り出した。
「……あなたからしてみたら、訳がわからないわよね。どうしてわたしが、あなたをここに連れて来るように蘭丸に命じたのか。どうして千景との接近を禁止しているのか。どうして特別最高審問に呼ばれたのか」
「……教えて、いただけるんですか?」
藍良の声は僅かに震えていた。幻道は微笑を携えてはいるものの、その眼差しは、針のように鋭かった。嘘や誤魔化し──ほんの少しの言葉の揺らぎも逃さない。そんな眼差しだった。
「そうね……まず、千景に接近禁止令を出した理由はいろいろあるけど、そのひとつは、あの子がわたしに嘘を吐いてまで、あなたを守ろうとしていることがわかったからよ」
「……嘘?」
藍良は眉間にしわを寄せた。
「花倉が黒標対象だと無線で伝えたとき、千景は彼女が闇属性を有している確証は八割程度だと言っていた。覚えてる?」
藍良は数日前を思い返す。幻道と千景……そして兼翔が花倉の件でやり取りをしていた場面には藍良も居合わせていた。彼は花倉と一度対面したものの、彼女が闇属性を持っているかどうか確証が得られず、後日彼女がいる相談室に足を運んでいた。ただ、肝心の花倉は病欠で、結局千景は彼女と会えなかったわけだが。
「覚えて……います」
藍良は途切れ途切れに答えた。自分でもひどく緊張しているのがわかる。言い知れぬ幻道の圧に押され、気付けば藍良は伏し目がちになっていた。
幻道は、なおも言葉を続ける。
「千景は優秀なセンサー。闇属性の有無を見誤ったことは一度もない。一度、対面しているならなおさらね。でもあのときは、確証を得ていないようだった。それがどうにも……おかしいと思ってね。もしかしたらまた、わたしが知らない間にとんでもないことになってるんじゃないかと思って調べてみたの」
「……とんでもないこと?」
藍良は首を傾げた。すると、幻道は小さく笑い、誤魔化すように軽く右手を振る。どうやら、今口走った「とんでもないこと」について、答えるつもりはないらしい。
「とにかくいろいろ考えた結果、別の結論に達したの。千景が花倉と対面したとき、彼の傍にはもうひとり別の闇属性がいた。二つの闇属性の気配が混じっていたから、千景は花倉が真に闇属性を持っているのか、確証を得られなかったんじゃないか。だから、後日また調べに行ったんじゃないかってね」
藍良は納得しながら、背もたれにそっと身を預けた。同時に、幻道の洞察力に舌を巻いていた。つまり幻道は、無線でやり取りをしていたときの千景の言葉「確証は八割程度」という言葉尻ひとつで、真白の存在を突き止めたことになる。
「千景が花倉と対面したとき、傍にいたのはあなただけ。つまり、闇属性を持っているのはあなた──もしくはあなたは宿主で、闇属性の化身がいることになる。結果的に、あなたの中に闇属性の化身がいるとわかったわけだけど……本題はここからよ」
藍良を見つめる幻道の眼差しは、刃のように研ぎ澄まされていた。その視線には迷いはなく、厳しさと決意が滲んでいた。
「彼女と話がしたい。今この場で、会わせてくれないかしら?」
「幻道様。これはいったい……なぜ彼女が」
「兼翔に頼んで、連れてきてもらったのよ。その方が、話が早いと思ってね。蘭丸、悪いけど先に彼女と話をさせてもらえるかしら?」
蘭丸は一瞬押し黙り、やがて小さく息を吐くと、納得したように立ち上がった。そして藍良に腰掛けるように無言で促す。
だが、藍良は状況を飲み込めずに、扉の前で立ち尽くしていた。すると、首元に滑る感触が走った。兼翔が藍良の首に巻きついていたタマオを離し、自らの首に巻き付けたのだ。
「ふ……ふおおおおぉぉん!わしはお主のマフラーではない!藍良のマフラー……」
「我慢しろ」
兼翔はそう言うと、無表情のまま藍良に椅子を指し示した。「座れ」と言いたいのだろう。藍良は躊躇いながら、ゆっくりと歩を進める。そして、重い椅子を両手で引いた。床を擦る鈍い音が響いたあと、藍良はそっと腰を下ろし、正面に座る幻道を見つめた。兼翔と蘭丸は立ったまま向かい合う二人を見つめている。
「なかなか話せなくて、ごめんなさいね」
幻道は、そう切り出した。
「……あなたからしてみたら、訳がわからないわよね。どうしてわたしが、あなたをここに連れて来るように蘭丸に命じたのか。どうして千景との接近を禁止しているのか。どうして特別最高審問に呼ばれたのか」
「……教えて、いただけるんですか?」
藍良の声は僅かに震えていた。幻道は微笑を携えてはいるものの、その眼差しは、針のように鋭かった。嘘や誤魔化し──ほんの少しの言葉の揺らぎも逃さない。そんな眼差しだった。
「そうね……まず、千景に接近禁止令を出した理由はいろいろあるけど、そのひとつは、あの子がわたしに嘘を吐いてまで、あなたを守ろうとしていることがわかったからよ」
「……嘘?」
藍良は眉間にしわを寄せた。
「花倉が黒標対象だと無線で伝えたとき、千景は彼女が闇属性を有している確証は八割程度だと言っていた。覚えてる?」
藍良は数日前を思い返す。幻道と千景……そして兼翔が花倉の件でやり取りをしていた場面には藍良も居合わせていた。彼は花倉と一度対面したものの、彼女が闇属性を持っているかどうか確証が得られず、後日彼女がいる相談室に足を運んでいた。ただ、肝心の花倉は病欠で、結局千景は彼女と会えなかったわけだが。
「覚えて……います」
藍良は途切れ途切れに答えた。自分でもひどく緊張しているのがわかる。言い知れぬ幻道の圧に押され、気付けば藍良は伏し目がちになっていた。
幻道は、なおも言葉を続ける。
「千景は優秀なセンサー。闇属性の有無を見誤ったことは一度もない。一度、対面しているならなおさらね。でもあのときは、確証を得ていないようだった。それがどうにも……おかしいと思ってね。もしかしたらまた、わたしが知らない間にとんでもないことになってるんじゃないかと思って調べてみたの」
「……とんでもないこと?」
藍良は首を傾げた。すると、幻道は小さく笑い、誤魔化すように軽く右手を振る。どうやら、今口走った「とんでもないこと」について、答えるつもりはないらしい。
「とにかくいろいろ考えた結果、別の結論に達したの。千景が花倉と対面したとき、彼の傍にはもうひとり別の闇属性がいた。二つの闇属性の気配が混じっていたから、千景は花倉が真に闇属性を持っているのか、確証を得られなかったんじゃないか。だから、後日また調べに行ったんじゃないかってね」
藍良は納得しながら、背もたれにそっと身を預けた。同時に、幻道の洞察力に舌を巻いていた。つまり幻道は、無線でやり取りをしていたときの千景の言葉「確証は八割程度」という言葉尻ひとつで、真白の存在を突き止めたことになる。
「千景が花倉と対面したとき、傍にいたのはあなただけ。つまり、闇属性を持っているのはあなた──もしくはあなたは宿主で、闇属性の化身がいることになる。結果的に、あなたの中に闇属性の化身がいるとわかったわけだけど……本題はここからよ」
藍良を見つめる幻道の眼差しは、刃のように研ぎ澄まされていた。その視線には迷いはなく、厳しさと決意が滲んでいた。
「彼女と話がしたい。今この場で、会わせてくれないかしら?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる