虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─

あさとゆう

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最終章 運命の死神審問会

第84話 幻道の洞察

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 藍良から見て、幻道は室内の机の奥側に座り、蘭丸はその正面に向かい合う形で腰掛けていた。そして意外なことに、蘭丸は藍良の姿を見るなり、わずかに目を見開いた。彼は兼翔と視線を交わすと、静かに幻道へ向き直る。

「幻道様。これはいったい……なぜ彼女が」
「兼翔に頼んで、連れてきてもらったのよ。その方が、話が早いと思ってね。蘭丸、悪いけど先に彼女と話をさせてもらえるかしら?」

 蘭丸は一瞬押し黙り、やがて小さく息を吐くと、納得したように立ち上がった。そして藍良に腰掛けるように無言で促す。

 だが、藍良は状況を飲み込めずに、扉の前で立ち尽くしていた。すると、首元に滑る感触が走った。兼翔が藍良の首に巻きついていたタマオを離し、自らの首に巻き付けたのだ。

「ふ……ふおおおおぉぉん!わしはお主のマフラーではない!藍良のマフラー……」
「我慢しろ」

 兼翔はそう言うと、無表情のまま藍良に椅子を指し示した。「座れ」と言いたいのだろう。藍良は躊躇ためらいながら、ゆっくりと歩を進める。そして、重い椅子を両手で引いた。床を擦る鈍い音が響いたあと、藍良はそっと腰を下ろし、正面に座る幻道を見つめた。兼翔と蘭丸は立ったまま向かい合う二人を見つめている。

「なかなか話せなくて、ごめんなさいね」

 幻道は、そう切り出した。

「……あなたからしてみたら、訳がわからないわよね。どうしてわたしが、あなたをここに連れて来るように蘭丸に命じたのか。どうして千景との接近を禁止しているのか。どうして特別最高審問に呼ばれたのか」
「……教えて、いただけるんですか?」

 藍良の声はわずかに震えていた。幻道は微笑を携えてはいるものの、その眼差しは、針のように鋭かった。嘘や誤魔化し──ほんの少しの言葉の揺らぎも逃さない。そんな眼差しだった。

「そうね……まず、千景に接近禁止令を出した理由はいろいろあるけど、そのひとつは、あの子がわたしに嘘をいてまで、あなたを守ろうとしていることがわかったからよ」
「……嘘?」

 藍良は眉間にしわを寄せた。

「花倉が黒標対象だと無線で伝えたとき、千景は彼女が闇属性を有している確証は八割程度だと言っていた。覚えてる?」

 藍良は数日前を思い返す。幻道と千景……そして兼翔が花倉の件でやり取りをしていた場面には藍良も居合わせていた。彼は花倉と一度対面したものの、彼女が闇属性を持っているかどうか確証が得られず、後日彼女がいる相談室に足を運んでいた。ただ、肝心の花倉は病欠で、結局千景は彼女と会えなかったわけだが。

「覚えて……います」

 藍良は途切れ途切れに答えた。自分でもひどく緊張しているのがわかる。言い知れぬ幻道の圧に押され、気付けば藍良は伏し目がちになっていた。
 幻道は、なおも言葉を続ける。

「千景は優秀なセンサー。闇属性の有無を見誤ったことは一度もない。一度、対面しているならなおさらね。でもあのときは、確証を得ていないようだった。それがどうにも……おかしいと思ってね。もしかしたらまた、わたしが知らない間にとんでもないことになってるんじゃないかと思って調べてみたの」
「……とんでもないこと?」

 藍良は首を傾げた。すると、幻道は小さく笑い、誤魔化すように軽く右手を振る。どうやら、今口走った「とんでもないこと」について、答えるつもりはないらしい。

「とにかくいろいろ考えた結果、別の結論に達したの。千景が花倉と対面したとき、彼の傍にはもうひとり別の闇属性がいた。二つの闇属性の気配が混じっていたから、千景は花倉が真に闇属性を持っているのか、確証を得られなかったんじゃないか。だから、後日また調べに行ったんじゃないかってね」

 藍良は納得しながら、背もたれにそっと身を預けた。同時に、幻道の洞察力に舌を巻いていた。つまり幻道は、無線でやり取りをしていたときの千景の言葉「確証は八割程度」という言葉尻ひとつで、真白の存在を突き止めたことになる。

「千景が花倉と対面したとき、傍にいたのはあなただけ。つまり、闇属性を持っているのはあなた──もしくはあなたは宿主で、闇属性の化身がいることになる。結果的に、あなたの中に闇属性の化身がいるとわかったわけだけど……本題はここからよ」

 藍良を見つめる幻道の眼差しは、刃のように研ぎ澄まされていた。その視線には迷いはなく、厳しさと決意が滲んでいた。

「彼女と話がしたい。今この場で、会わせてくれないかしら?」
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