虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─

あさとゆう

文字の大きさ
13 / 90
第1章 黒標対象と死神審問官

第12話 タマオ、だし巻き卵に泣く

しおりを挟む
「むむっ……これは……神気を帯びし味……!」

 タマオはうやうやしく呟きながら、だし巻き卵をあむあむと頬張った。

目を細め、尻尾をぴこぴこと揺らす様は、まるで天上の御馳走でも口にしたかのよう。

 ──が、次の瞬間。

「ぐっ……ごふっ、ごふ……っ!!」

 急に顔が青ざめ、タマオがくねくねと苦しげにのたうつ。どうやら夢中で食べすぎて、喉につまらせたらしい。

「ちょ、ちょっと!大丈夫!?タマオ!」

 藍良が慌てて手を伸ばしかけた、そのときだった。

 タマオの鱗がぐにょりと蠢き、だし巻き卵が入っていたと思しき膨らみが、にゅるんと奥へと送られていく。

「ふぉふぉ……満たされたのである……」

 大儀そうに言いながら、タマオはごろんと横になる。その満足げな顔に、藍良はほっと胸を撫で下ろした。

「よかった。気に入ってくれて。……ちゃんと、お水も飲むんだよ」
「ふぉっふぉっふぉ~~♡」

 タマオは幸せそうに水の小皿に顔を寄せると、ちゅるちゅると舌をのばし、ゆっくり喉を潤しはじめた。まるで猫のような仕草に、藍良は思わず笑みをこぼす。

 タマオの食事が一段落したところで、話題は昼休みに見た出来事へと移っていった。体育館裏で目撃した、教員・藤堂の怪しいやり取り──その不審な行動についてだ。

「ねえ、藤堂先生はさ……その、黒標対象なの?」

 藍良の疑問に、千景は小さく首を振った。

「いや、違うと思う。ただ、かなりの邪気を帯びてたから、黒標対象から狙われる側の人間じゃないかな」
「邪気?」

 何度か聞いた、この邪気という言葉。

 でも、イマイチ藍良にはその意味がわからない。

「ねえ、その邪気って結局なんなの?どうして持っている人と持ってない人がいんの?」

 藍良が眉をひそめると、タマオが横から口を挟んできた。

「邪気っちゅうのはな、攻撃的な性格や後ろめたい秘密といった負の感情を強く持ってる者からにじみ出る淀んだ気なんじゃ。わしだって、ちょっとスケベ心を起こすとすぐ邪気が出てしまう。困ったもんじゃい」
「攻撃的で、後ろめたい人……?」

 すると、千景が言葉を続ける。

「黒標対象はそういう邪気を持つ人間ばかりを狙ってる。そういう人間の魂の方がエネルギーが強いんだ。藤堂先生の邪気、かなり強かった。あの不審な行動、なにか後ろめたい秘密があるんじゃないかな」
「黒標対象がもし気付いたら……」
「狙われる可能性はかなり高いと思う。あの邪気の強さは、ちょっと異常だったから」
「藤堂先生、一体どうしちゃったんだろう」

 藍良が呟くように言う。

「お金まで払って、用務員の人から鍵を受け取るなんて、只事じゃないよね。なにか隠してるのかな」
「たぶんね。この学園をくまなく探すつもりなのかなって思ったけど」

 千景が頷くと、藍良は少し考えてから、勢いよく提案する。

「じゃあさ、藤堂先生を尾行するのは!?黒標対象が藤堂先生に接触しそうになったところで、捕まえる!」
「……うん、それもアリだね」
「尾行なら、このタマオにお任せあれじゃ」

 タマオが、得意げに体をうねらせながら名乗り出た。

「天井裏からでも、壁の隙間からでも、しゅるしゅると藤堂とやらの動きを見張ってくれるわ」
「えっ、本当に?」

 藍良が目を丸くすると、タマオはシャッと牙を見せて笑う。

「神気を帯びし極上のだし巻き卵……あれほどのもてなし、久方ぶりじゃ。恩返しせねば、神の名が廃る!」

 この言葉に、千景はくすりと笑った。

「じゃあ、もし怪しい動きがあったら……神気で教えて」
「心得た!」

 そう言うと、タマオはくるんと体を巻いてピシッと伸ばす。

 見事な直立──いや、蛇なりの敬礼なのだろう。

「神気って?」

 藍良が首を傾げると、千景とタマオがぴたりと目を合わせた。まるで、「え、知らないの?」「そりゃそうか」と言いたげな表情。どうやら神気というのは、死神界ではごく当たり前の言葉らしい。

「この『月印』から発せられる『気』だよ。『神気』を発することができるのは、『月印』を刻まれた神獣や神蛇、死神だけ。これを発してくれれば、半径一キロメートルくらいは感知できるし、すぐに向かうことができる」
「へえ」

 タマオが見張ってくれるなら、藤堂はとりあえず安心だろう。

 藍良はずっと気になっていた疑問を、千景に投げかける。

「ねえ、それで家にある何がその…『黒標対象』を見つけるのに役立つの?」
「それは、寺の物置にあるはずだよ」
「物置?」
「黒標対象を見つけることができる、『虚映ノ鏡きょえいのかがみがね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...