【待合室書店】のオーナーきゅうりさんの履歴書とアクアマリンのカード

愛澤凛音

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第5話

どうも犬ときゅうりさん

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ある日のことだったのです。

きゅうりさんが、「美咲さん、レジの近く邪魔になるけど、これ置いていいかな?」

と…募金箱を私に見せました。

それと同時に、【盲導犬の活動費のためにご協力をお願いします】

と書かれた札を首からぶら下げた犬のぬいぐるみを、その募金箱の横に置いたのです。

「邪魔でなければ…」ときゅうりさん。

「これ、どうしたんですか?」

「少しずつ、お客さんも増えたしさ~協力してもらえたらうれしいな~と思ってね」

「どうして、盲導犬の募金なのですか?」

「昔、どうも犬を飼っていてね」ときゅうりさんがニコッと笑う。

「どうも犬?」

「うん、ゴールデンレトリバーだったんだけど、盲導犬にはなれなかったけど…

ボクのことを助けてくれたから…どうも犬」

私は返事に困ったので、黙ってしまいました。

すると「ごめん、ごめん、冗談が過ぎたかな?」ときゅうりさん。

「ボクの相棒だったんだ~つき

「どうも犬のお名前ですか?」

「そう、月ちゃん、女の子、もう、いなくなって3年くらいかな?」

きゅうりさんは、優しい目で遠くを見つめながら…

「前も話したかな?

ボク、高校の教師だったんだけど…いろいろあってね、体調を崩しちゃって…

自律神経失調症と診断されて、何もする気力がなかったんだけど…

主治医に生き物とか飼うのもいいですよといわれて…

思いついてのが…今まで一緒に暮らしてみたかった大型犬の

ゴールデンレトリバーだったの。憧れだったんだ~大型犬。

でもさ、ボクは、叔父さんに育ててもらっているから

動物を飼いたいなんて言えなくてね~

その思い出があったから…飼ってみようかな?と思って、

一人だけ頼れる友人がいたから

相談してみたら、知人のブリーダーのところに

生まれたばかりのゴールデンレトリバーがいるっていうから…

話が進んで、飼うことになったんだけど、はじめてだし、大変でさ~

でも、ボクがいないと月は生きていてないんだな~と思うと…

ボクは自分の病気なんて忘れちゃってね。

まあ、生き物を育てることは、想像以上にエネルギーが必要だってことは、

後で身に染みて理解できたんだけど、

餌あげたり、トイレのしつけした、散歩させたり、シャンプーしてあげたりと、

しないといけないことに追われたんだけど…

子犬の月を抱っこしたり、綺麗なつぶらな瞳を見つめていたら…癒されてね~

気持ちを切り替えるためにも、高校を辞めたんだ。

少しでも心地よく過ごせるようにね。

それから、退職金も少しもらえたけど、今までの貯金で何とか生活できたし、

叔父さんが残してくれたこの病院や財産のおかげで、

本屋さんでアルバイトを少ししながら、月と楽しく生活したんだけど…

月も年齢に勝てなくて、8歳くらいからだんだん体力も落ちてきたから、

アルバイトやめて、この書店を始めたんだ。

何とか月も頑張って生きていたんだけど、10歳6か月のとき…

ボクが夜寝ているときに、静かに息を引き取ったんだ。

頑張ってそばで生きてくれたことに、今でも感謝しているんだよ」

長い告白のような話が終わると…きゅりさんは、優しい笑顔で…

「ごめんね…なんか湿っぽくなっちゃって…」

私は、大きな優しさに包まれたような感じがして、何も言葉にできなかったのです。

「もうボクも、年だし、もう飼えない。月が最初で最後のどうも犬だからさ~

あとは、盲導犬になるような犬や困っている人の役に立てればいいな~

と、思っているんだよね」

私は、涙が流れそうな部分に指をあてて、我慢することが精一杯でした。

「きっと、月ちゃん、きゅうりさんにありがとうって言ってますよ」

「そうだとボクも嬉しんだけどね」と…

手に持った月ちゃんの写真を大切そうに眺めていたのです。
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