好きな人に触ると、その人私の事忘れちゃうんですけど!

七瀬 巳雨

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「エヴァ、大丈夫かしら…」
 リリアンが心配そうにオースティンに漏らす。
 ダンス会場はバンドの演奏が続き、両校の生徒たちは最高潮に盛り上がっていた。
 
「……」
 
「…大丈夫ですよ、リリアン嬢。会長は優しい人です」
 オースティンの体の後ろに大きな筋肉質の体を隠し、チラチラとリリアンを覗き見ながらエメレンスはそう答える。
 
 
「……そうですか」
 リリアンは困惑した顔で、はっきりと姿の見えぬエメレンスを覗き込む様にしてそう返した。
 
 
「ブライトンに来ると濡れてばかりね、エヴァは…」
 リリアンがポツリとそう溢す。
 リリアンの言葉に、オースティンは直ぐに眉を顰めた。
 
「濡れて?」
 
「こないだも、ブライトンの人のジャージを借りたらしくて部屋に置いてあって。 聞いてもエヴァがはぐらかすから詳しくは分からないけど、なんか水を被ったとか何とか…」
 
 オースティンは眉間に深い皺を寄せた。
 オースティンには初耳だった。
 
 水を被る…今日みたいに…–––?
 
 
 
「お待たせした、諸君」
 そこへユウリが満足そうな笑みを浮かべて3人の前に現れる。
 
「エヴァ、こっちだ」
 ユウリが向いた先に、3人も視線を移した。
 
 そこには、黒髪のショートカットをワックスで纏め、耳元にはクリスタルの大振りのイヤリング、そしてシルバーに煌めくドレスを纏ったエヴァリーが居た。
 
「エヴァっ!…っすっごく綺麗!」
 リリアンが堪えきれずエヴァリーに駆け寄ると、エヴァリーは照れ臭そうに笑みを漏らす。
 
「ちょっとメイクもしてみた。造形が良いとこちらも腕が鳴るよ」
 ユウリは自信たっぷりで満足そうな笑みを浮かべそう言う。
 
「エヴァ、どうして今までドレスを着なかったのよ!これからはスーツ禁止ね!」
 リリアンが興奮してそうエヴァリーを見上げる。
 
「なんか落ち着かない…」
 エヴァリーはどこか落ち着かず、更に頬を赤らめた。
 
「ちょっと待ってくれ…エヴァン……エヴァンだよな?君は女性だったのかっ!?」
 今まで目を丸くしたまま固まっていたエメレンスが、驚きそのままに、お腹から声を出す。
 
「……君も見る目が無いな、エメレンス」
 ユウリは呆れた顔でエメレンスを見る。
 
 
 
「ああ、いや俺の目はリリアンを追うのに忙しく…––ッハ!」
 エメレンスは自分で言ってて慌てて両手で口を塞ぐ。その顔は今にも煙を噴きそうな程真っ赤だった。
 
「そうか、見る目が無いんじゃ無くて視野が狭いのか」
 ユウリは呆れたような顔でエメレンスを見た。
 
 
「……エヴァン、じゃないエヴァッ!今日はダンスパーティーだぞ、相手ならここに居る!せっかくだ!踊るしか無い!」
 エメレンスは気まずい空気を打破しようとしたのか、そう言うと逞しい腕でオースティンをエヴァリーの方へ押しやる。
 
 
「ちょっとっ––兄さんっ!」
 オースティンはエメレンスを睨みつけながら焦って踏ん張ろうとするが、鍛え上げれた腕にはなす術が無い。
 
「そうよ、オー!エヴァのファーストダンス、本当にファーストダンスよ!今までエヴァがダンスパーティーに出た事無いものっ!」
 リリアンは嬉しそうに両手を叩いた。
 
 えー…とエヴァリーが気まずそうな声を漏らすのも、リリアンは聞こえていない。
 
 
「リリアン、オースティンも元々そういうの好きじゃ無いし…」
 エヴァリーはそう言って苦笑いを浮かべる。
 
「この絶世の美女と踊る機会を逃すなんて、君も物好きだ」
 ユウリが煽る様にオースティンを見た。
 
 
 オースティンは一瞬何か考えて、小さく溜め息を吐く。その耳は、仄かに赤かった。
 
「……踊ってくれますか?」
 オースティンはそう言って上体を少し傾け、エヴァリーに腕を差し出す。
 恥ずかしそうだが、オースティンの表情は柔らかだった。
 
 そうこなくっちゃ!とリリアンが甲高い声を上げる。
 
 
 
「さぁ曲が変わる、行っておいで」
 ユウリの言葉に、エメレンスはオースティンの腕を取ったエヴァリーと纏めてググッとダンスホールへ押しやった。
 
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