23 / 36
23
しおりを挟む「エヴァ、大丈夫かしら…」
リリアンが心配そうにオースティンに漏らす。
ダンス会場はバンドの演奏が続き、両校の生徒たちは最高潮に盛り上がっていた。
「……」
「…大丈夫ですよ、リリアン嬢。会長は優しい人です」
オースティンの体の後ろに大きな筋肉質の体を隠し、チラチラとリリアンを覗き見ながらエメレンスはそう答える。
「……そうですか」
リリアンは困惑した顔で、はっきりと姿の見えぬエメレンスを覗き込む様にしてそう返した。
「ブライトンに来ると濡れてばかりね、エヴァは…」
リリアンがポツリとそう溢す。
リリアンの言葉に、オースティンは直ぐに眉を顰めた。
「濡れて?」
「こないだも、ブライトンの人のジャージを借りたらしくて部屋に置いてあって。 聞いてもエヴァがはぐらかすから詳しくは分からないけど、なんか水を被ったとか何とか…」
オースティンは眉間に深い皺を寄せた。
オースティンには初耳だった。
水を被る…今日みたいに…–––?
「お待たせした、諸君」
そこへユウリが満足そうな笑みを浮かべて3人の前に現れる。
「エヴァ、こっちだ」
ユウリが向いた先に、3人も視線を移した。
そこには、黒髪のショートカットをワックスで纏め、耳元にはクリスタルの大振りのイヤリング、そしてシルバーに煌めくドレスを纏ったエヴァリーが居た。
「エヴァっ!…っすっごく綺麗!」
リリアンが堪えきれずエヴァリーに駆け寄ると、エヴァリーは照れ臭そうに笑みを漏らす。
「ちょっとメイクもしてみた。造形が良いとこちらも腕が鳴るよ」
ユウリは自信たっぷりで満足そうな笑みを浮かべそう言う。
「エヴァ、どうして今までドレスを着なかったのよ!これからはスーツ禁止ね!」
リリアンが興奮してそうエヴァリーを見上げる。
「なんか落ち着かない…」
エヴァリーはどこか落ち着かず、更に頬を赤らめた。
「ちょっと待ってくれ…エヴァン……エヴァンだよな?君は女性だったのかっ!?」
今まで目を丸くしたまま固まっていたエメレンスが、驚きそのままに、お腹から声を出す。
「……君も見る目が無いな、エメレンス」
ユウリは呆れた顔でエメレンスを見る。
「ああ、いや俺の目はリリアンを追うのに忙しく…––ッハ!」
エメレンスは自分で言ってて慌てて両手で口を塞ぐ。その顔は今にも煙を噴きそうな程真っ赤だった。
「そうか、見る目が無いんじゃ無くて視野が狭いのか」
ユウリは呆れたような顔でエメレンスを見た。
「……エヴァン、じゃないエヴァッ!今日はダンスパーティーだぞ、相手ならここに居る!せっかくだ!踊るしか無い!」
エメレンスは気まずい空気を打破しようとしたのか、そう言うと逞しい腕でオースティンをエヴァリーの方へ押しやる。
「ちょっとっ––兄さんっ!」
オースティンはエメレンスを睨みつけながら焦って踏ん張ろうとするが、鍛え上げれた腕にはなす術が無い。
「そうよ、オー!エヴァのファーストダンス、本当にファーストダンスよ!今までエヴァがダンスパーティーに出た事無いものっ!」
リリアンは嬉しそうに両手を叩いた。
えー…とエヴァリーが気まずそうな声を漏らすのも、リリアンは聞こえていない。
「リリアン、オースティンも元々そういうの好きじゃ無いし…」
エヴァリーはそう言って苦笑いを浮かべる。
「この絶世の美女と踊る機会を逃すなんて、君も物好きだ」
ユウリが煽る様にオースティンを見た。
オースティンは一瞬何か考えて、小さく溜め息を吐く。その耳は、仄かに赤かった。
「……踊ってくれますか?」
オースティンはそう言って上体を少し傾け、エヴァリーに腕を差し出す。
恥ずかしそうだが、オースティンの表情は柔らかだった。
そうこなくっちゃ!とリリアンが甲高い声を上げる。
「さぁ曲が変わる、行っておいで」
ユウリの言葉に、エメレンスはオースティンの腕を取ったエヴァリーと纏めてググッとダンスホールへ押しやった。
16
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
戦いの終わりに
トモ
恋愛
マーガレットは6人家族の長女13歳。長く続いた戦乱がもうすぐ終わる。そんなある日、複数のヒガサ人、敵兵士が家に押し入る。
父、兄は戦いに出ているが、もうすぐ帰還の連絡があったところなのに。
家には、母と幼い2人の妹達。
もうすぐ帰ってくるのに。なぜこのタイミングで…
そしてマーガレットの心には深い傷が残る
マーガレットは幸せになれるのか
(国名は創作です)
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪女の最後の手紙
新川 さとし
恋愛
王国を揺るがす地震が続く中、王子の隣に立っていたのは、婚約者ではなかった。
人々から「悪女」と呼ばれた、ひとりの少女。
彼女は笑い、奪い、好き勝手に振る舞っているように見えた。
婚約者である令嬢は、ただ黙って、その光景を見つめるしかなかった。
理由も知らされないまま、少しずつ立場を奪われ、周囲の視線と噂に耐えながら。
やがて地震は収まり、王国には安堵が訪れる。
――その直後、一通の手紙が届く。
それは、世界の見え方を、静かに反転させる手紙だった。
悪女と呼ばれた少女が、誰にも知られぬまま選び取った「最後の選択」を描いた物語。
表紙の作成と、文章の校正にAIを利用しています。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる