好きな人に触ると、その人私の事忘れちゃうんですけど!

七瀬 巳雨

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 余りの強さにエヴァリーとオースティンがエメレンスを見ると、押しやった後に片手をヒラヒラと揺らしてさっさと行けと言う。そして素早く人差し指で自身とリリアンを何度も交互に指差し、
 ––分かるだろう?さっさと行けと目線を送った。
 
 どうやらリリアンと2人きりになるため、邪魔者を1人でも多く追い出したいらしい。
 
 
「ふふっ…」
 エヴァリーはエメレンスの表情や仕草に笑みを漏らす。
 
「お兄さん面白いね」
 
「…脳みそも筋肉なんだろ」
 オースティンは呆れた様に溜め息を吐いた。
 
「私、ダンス踊った事無いよ。しかも、靴はサイズが無かったから革靴のままだし…」
 エヴァリーがそう言うと、オースティンはフッと笑みを溢す。
 
「エヴァらしいな」
 オースティンはそう言ってもう片方の手をエヴァリーの腰へ回した。
 
 なんだかエヴァリーはオースティンとの距離がむず痒い。触れた体が、オースティンは男性なのだと意識させた。
 
「良いんだよ、適当で。もう音楽もクラシックじゃないだろ?好きな様に、周りの奴らみたいに楽しめば良い」
 オースティンがエヴァリーの耳元でそう囁く。
 
 一体どうしちゃったのオースティン…––!?といつもなら口を突くのに、エヴァリーは何も返せない。
 
「ほら、革靴なんだから存分に動けるだろ」
 オースティンはそう言うと、上手くリズムに乗ってエヴァリーをリードする。
 
 
 オースティンは相変わらず耳元でいつものような皮肉やジョークを言うので、エヴァリーは時折声を上げて笑いながら、思いのままに踊った。
 
 
 これがファーストダンスなら、最高だ––––エヴァリーはそう思いながら、何曲もオースティンと踊り続けた。
 
 
 
 
 
 動き続けて喉が渇いた頃、エヴァリーとオースティンはリリアン達に合流し、エヴァリーはジュースや水で喉を潤す。
 
 それでも体の火照りが治らず、エヴァリーは適当に風に当たれそうな場所を探した。
 
 ダンスホールから少し歩いたところに、建物に囲まれた中庭がある。
 高い木々に囲めれていて、小道が整備された小さな森の様だった。
 
 興味本位でエヴァリーはその小さな灯りが点々と照らす小道へ入ろうとした。
 
 
 
「あ……」
 
 すると、中庭と建物の間から、少し乱れた白金の髪をした人が見える。
 
「アイゼイア先輩……」
 エヴァリーの視線に気付いたアイゼイアもエヴァリーと目が合う。
 
 アイゼイアは急ぐでも無く、ゆっくりとエヴァリーの元へやって来た。
 
 
 
「少し、歩かない?」
 アイゼイアが首を少し傾けて、エヴァリーを誘う。
 
 アイゼイアが歩き出すと、エヴァリーも断る理由も無いので、なんと無くそれに続いた。
 
 
「アイゼイア先輩、もうすぐキングとベストカップルの発表ですよ」
 そろそろ集計も終わってるはずだ––エヴァリーはアイゼイアを見上げてそう言った。

「そんなの興味無いよ」
 アイゼイアがそう答えると、さわさわとした爽やかな風が吹く。木々に囲まれているせいか、その夜風は冷たい。
 
 アイゼイアはジャケットを脱ぐと、エヴァリーの肩へ掛ける。
 エヴァリーが断る間も無いほど、自然に……––
 
「楽しそうに踊ってたね」
 
「あ、ああ、はい。全然踊れないんですけど……初めてです、ダンスパーティーもこんな素敵なドレスも」
 エヴァリーは先程の出来事を思い出して笑みを溢す。
 
「……じゃあオースティンは君と初めて踊った相手なんだ」
 アイゼイアは俄かに苛立って不満そうにそう言った。
 
 ––何か怒らせるような事をしただろうか?とエヴァリーは少し考える。
 考えられるとして、ユウリが退室しなければならない理由を作ってしまった事だろうか––……
 
 
「僕とは踊ってくれないの?」
 
 アイゼイアの言葉に、エヴァリーはビクッと体を震わせる。
 
 
 ––夏の夜、エヴァリーの周りの男性達が今日はなんだかいつもと違う……
 そんな小説の一文がふとエヴァリーの頭に浮かぶ。
 
 
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