好きな人に触ると、その人私の事忘れちゃうんですけど!

七瀬 巳雨

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「かっ、会長は中にいらっしゃいますよ。
 それに……ここからでは音楽もそんなに聞こえないです」
 エヴァリーは努めて冷静に、そして自然にそう返した。

「本当は……僕だって君を誘いたかった。
 立場上叶わなかったけど。……それに君は誘っても断りそうだし」

 アイゼイアの言葉に、まぁそれは…あるかも……とエヴァリーは気まずそうに視線を泳がす。
 
 いや––だが、もしかすると––––


「こないだの事気にされてます?バケツで水を被せられた事……」
 エヴァリーの言葉に、アイゼイアは一瞬ギュッと眉間に皺を寄せた。
 
「……僕が申し訳無いから罪滅ぼしに君を誘いたかったと?」
 
「私は大丈夫でしたし、先輩と会長凄くお似合いでした。きっとキングとクイーンに選ばれます。もしかしたらベストカップルにも…––会長、本当にお綺麗ですよね」
 エヴァリーは会長の姿を思い出す。
 同じ女でも見惚れる程、今日の会長は一際綺麗だった。


「……エヴァの方が綺麗だよ」
 アイゼイアの一言に、エヴァリーはアイゼイアの顔をこれ以上無い程目を見開いて見つめる。
 
 まるで射抜いてしまうほど見ても、アイゼイアに動揺の色は見えない。
 
 ただ、真剣な眼差しでエヴァリーを見下ろしている。



「……最初に会った時から、なんて綺麗な子だろうって…思ってた」
 素っ気なくそれだけ言うと、アイゼイアは少し顔を逸らした。
 
 
 
 今この時が、現実なのかエヴァリーには実感がない。
 
 いや夢…––?もしかしたら幻…––––
 
 エヴァリーは何度も目をパチパチとさせ、目の前にいるアイゼイアは本物なのかと上から下まで確認してみる。
 
 足はある……––––じゃあやっぱり現実…?

 
 
 
「そういえば……ジャージまだ返してなくてすみません……」
 
 エヴァリーは呆然としながらポツリとそう溢す。

「ふっふふ、それ、今言う?」
 アイゼイアは堪えきれないと大きな笑い声を上げた。


「そうか…。そう来るのか。じゃあエヴァの好きな小説みたいにしてみようか」

 そう言うと、アイゼイアがエヴァリーに近づく。その顔を、エヴァリーの鼻がくっつきそうになるくらいまで近付けた。 
 すると、アイゼイアは口の端をニィっと上げて、更に近づく。
 すると、エヴァリーと唇が触れるほんの手前まで、その距離を詰めた。
 
 目を開けたままエヴァリーは動けない。 咄嗟に押し退けようとしたのに、なぜか手が出ず押し退けない……––––
 
 お互いの漏れる吐息が肌をくすぐる。
 エヴァリーはハッとしてすぐさま二、三歩身を後ろに引いた。



 押し退ければ、記憶が消えてしまうかも、とエヴァリーは思った。
 
 それが怖いと、エヴァリーは思った。


 ––––恐れた時点で、エヴァリーは嫌でも自分の気持ちを理解する。
 
 
 
 
 夏の夜、皆どこか浮き足だってて、なんだか普段よりも大胆だった。
 いつも抑え込んでいるものを、ダンスパーティーの熱気に暴かれて、それでも暗闇が隠してくれている事を願う––
 
 
 この人の記憶から、自分は消えたくない、とエヴァリーは望んでしまった……––––


 ブライトンの悪魔なのに––––
 
 エヴァリーは、目の前の悪魔に、その心と魂を奪われてしまった。
 
 
 
 
 
 
 
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