転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

文字の大きさ
19 / 65

18.入団

しおりを挟む
 
 トレキンです。
 
 この話から2章の内容となります。
 引き続き、よろしくお願い致します。


 --------------------------------
 


 次の日、俺は城内で騎士団入団のための手続きを行っていた。
 
「団長、これでいいですか?」
「えーっと、はい。大丈夫です。今日から宜しくお願いしますね」
「こちらこそ、お願いします」

 この瞬間、俺はバンガード王国直属の騎士として認められ、その証であるバッジを手渡される。

 本来、国家騎士になるには国家騎士条項に書かれたルールに基づいて様々な試験を受けなければならないのだが、リーリアの一存でそれらをすべてパス。

 書類手続きだけで国家騎士になることが認められた。
 ちょっと罪悪感的なものがあるけど…

「これは我が国の騎士である証ですので無くさないようにお願いしますね。外出時にもつけることが務付けられていますので」
「分かりました」

 人手不足とはいえ、国家騎士という職業は子供たちの間では憧れの存在だという。
 先の大戦から時間が経ち、まだ民は恐怖を完全には忘れてはいないが前よりは良くなった。
 
 今では少しずつだが、国家騎士を目指す子供たちが増えているという。
 でも、今の騎士団はお世辞にも国を担えるほどの力を持っているかと言われればNOと言わざるおえない。

 外見はよくても中身は崩壊の一途を辿っている。昨日の巨人事件でそれがはっきりと分かった。
 
 今は休戦協定を結んでいることで大きな戦闘が起こることはないだろうが、油断はできない。
 仮に昨日の出来事が再戦を求めるための布石なのだとしたら――

「ゼナリオさん? ゼナリオさーん」
「……えっ?」
「だ、大丈夫ですか? さっきからぼーっとしていたみたいですが」
「あ、その……すみません。少し考え事を」
「そんなに固くならなくていいですからね。私のこともリーリアとお呼びください」
「いえ、さすがにそれは……」

 俺にはできない。
 今やこの人との関係は前とは勝手が違う。

 俺から見れば彼女は司令官。セシアやベールは上官という存在に変わった。
 気安く呼び捨てなど、元軍人の俺にはできない。

 いや、真実を言えばそういうことができない体質になってしまったというべきか。
 昔に受けた虐待に近いスパルタ教育が原因で。

(酷い過去だな……)

 いくら掘り下げても悪いことしか出てこない。気が付けば剣を握って振り回す自分が脳内に描き出されるのだ。
 
 それも休む暇もなく、ただ淡々と。

「ゼナリオさん……?」
「あっ、すみません。また俺、ぼーっとしていました?」
「いえ、そうではなくて……あっ、そうだ」

 リーリアは何かを思いつくように離席し、奥の部屋から小さな箱を持ってくる。
 そしてそれを俺の目の前に差し出し、蓋を開ける。

「リーリア団長、これは?」
「昨日の巨人から採取した特殊な宝玉です。これを使って私たちと街を救っていただいたお礼をしたいなと思いまして」
「お礼……ですか」
「はい。ちょっとだけお時間をいただいてもよろしいですか?」

 俺は首を縦に振ると、リーリアはニコッと笑い、ついてくるように言った。

 ♦


「あの、一体どこへ向かっているんですか?」
「それは秘密です。行ってのお楽しみってことで」
「は、はぁ……」

 俺とリーリアは王城を飛びだし、街に繰り出していた。
 
 白を基調とした貴族衣装を彷彿とさせる軍服に袖を通し、胸元にしっかりとバッジをつけ、護身用に短剣などの軽装備を拵えて。

 対するリーリアは完全無防備状態の白のワンピース姿。

 一王国の騎士団長がそんな軽装備ではまずいのでは? と忠告はしたのだが武器を持って街を出歩くのは落ち着かないとのこと。

(剣を持たせればすごいのになぁ……)

 昨日の事件から俺はリーリアのあの姿に一切触れていない。
 借りた剣も綺麗に研いで返却した。

 リーリアはその剣を俺に授けるつもりだったらしいがそれは断った。
 さすがに人の剣を自分の物のように振るうのは元剣聖としていいことではない。

 自分で作り、磨き、そして戦いを通じて少しずつ味を出していく。
 剣とはそういうものだ。
 
 磨き続けた剣を一番に扱えるのは己自身。それは他の誰でもない。
 自分だけがその剣を振るう権利があるのだ。

 でも昨日の事件のようにやむをえない場合もある。
 剣というものは時と場合によっては人を選別しない。

 あくまでこれは俺の美学だ。誰が決めたわけでもない。
 でもそう思いながら剣を振るっていた。

(剣は生き物……か)

 昔、俺が剣聖と呼ばれる前にある人物から教えられた言葉だ。
 
 その人はとても屈強な剣士で、なにより剣を愛していた。

 俺が同じように剣を愛するのもその人の影響が強いのかもしれない。
 
 ま、結局俺はその人ともう一度会うことはなかったけど。
 
 すると、ここで突然リーリアが足を止める。

「ゼナリオさん、着きましたよ」
「……ここは」

 色々考えながら移動していたためかいつの間にか街の外れまで来ていた。
 周りはこっちの世界に来た時のことを思い出す緑いっぱいの平原。

 そこにポツンと一軒だけ小さな小屋が建っていた。

「おう、来たかリーリア」

 突然。小屋の扉が開き、中から小太りの老人が姿を現した。
 あれは……小人? 俗に言うドワーフという種族か。

 リーリアとの会話を聞く限り、顔なじみのようだが……

「そんで今日はそこにいる坊主に例のやつを作ればよいのだな?」
「はい、お願いします。素材はしっかりと持ってきました」
「おいおい、これってもしかして……」
「宝玉です。昨日現れた巨人から採取しました」

 小太りの老人は箱の中にある宝玉を見る限り、目を輝かせる。

「こりゃあ、とんでもねぇものが出来上がるかもしれんな。とりあえず中へ入りな、話はそこでじっくりとしようぞ」
「そうですね。ゼナリオさん、こっちへ」
「は、はい」

 何も分からないまま、小屋の中へと誘導される。
 中に入ると、そこには大きな鏡らしきものがポツンと置いてあった。

 他には何もない。ただ自分たちを映し出す鏡だけがそこに寂しく置かれていたのだ。

「これって鏡……ですよね?」
「ああ。だがこれはただの鏡じゃない」
「えっ……?」

『自動認識、確認。お帰りなさいませ、主人マスター

(んっ、なんだ?)

 無機質な音声が鏡の中から聞こえてくる。
 それと同時に鏡が光り始め、目の前が見えなくなる。

(うっ、なんだこの光は!)

 だがその光はやがて消え失せ、徐々に視界を取り戻していく。
 そして目の前に見えたのは――

「な、なんだ……ここは。工房?」

 驚きを隠せず、ただ周りを見渡す俺に小太りの老人はこう言い放つ。

「おうよ、ここはワシが指揮を執るドワーフ一族の大工房。人呼んでドワーフアトリエじゃ!」
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...