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18.入団
しおりを挟むトレキンです。
この話から2章の内容となります。
引き続き、よろしくお願い致します。
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次の日、俺は城内で騎士団入団のための手続きを行っていた。
「団長、これでいいですか?」
「えーっと、はい。大丈夫です。今日から宜しくお願いしますね」
「こちらこそ、お願いします」
この瞬間、俺はバンガード王国直属の騎士として認められ、その証であるバッジを手渡される。
本来、国家騎士になるには国家騎士条項に書かれたルールに基づいて様々な試験を受けなければならないのだが、リーリアの一存でそれらをすべてパス。
書類手続きだけで国家騎士になることが認められた。
ちょっと罪悪感的なものがあるけど…
「これは我が国の騎士である証ですので無くさないようにお願いしますね。外出時にもつけることが務付けられていますので」
「分かりました」
人手不足とはいえ、国家騎士という職業は子供たちの間では憧れの存在だという。
先の大戦から時間が経ち、まだ民は恐怖を完全には忘れてはいないが前よりは良くなった。
今では少しずつだが、国家騎士を目指す子供たちが増えているという。
でも、今の騎士団はお世辞にも国を担えるほどの力を持っているかと言われればNOと言わざるおえない。
外見はよくても中身は崩壊の一途を辿っている。昨日の巨人事件でそれがはっきりと分かった。
今は休戦協定を結んでいることで大きな戦闘が起こることはないだろうが、油断はできない。
仮に昨日の出来事が再戦を求めるための布石なのだとしたら――
「ゼナリオさん? ゼナリオさーん」
「……えっ?」
「だ、大丈夫ですか? さっきからぼーっとしていたみたいですが」
「あ、その……すみません。少し考え事を」
「そんなに固くならなくていいですからね。私のこともリーリアとお呼びください」
「いえ、さすがにそれは……」
俺にはできない。
今やこの人との関係は前とは勝手が違う。
俺から見れば彼女は司令官。セシアやベールは上官という存在に変わった。
気安く呼び捨てなど、元軍人の俺にはできない。
いや、真実を言えばそういうことができない体質になってしまったというべきか。
昔に受けた虐待に近いスパルタ教育が原因で。
(酷い過去だな……)
いくら掘り下げても悪いことしか出てこない。気が付けば剣を握って振り回す自分が脳内に描き出されるのだ。
それも休む暇もなく、ただ淡々と。
「ゼナリオさん……?」
「あっ、すみません。また俺、ぼーっとしていました?」
「いえ、そうではなくて……あっ、そうだ」
リーリアは何かを思いつくように離席し、奥の部屋から小さな箱を持ってくる。
そしてそれを俺の目の前に差し出し、蓋を開ける。
「リーリア団長、これは?」
「昨日の巨人から採取した特殊な宝玉です。これを使って私たちと街を救っていただいたお礼をしたいなと思いまして」
「お礼……ですか」
「はい。ちょっとだけお時間をいただいてもよろしいですか?」
俺は首を縦に振ると、リーリアはニコッと笑い、ついてくるように言った。
♦
「あの、一体どこへ向かっているんですか?」
「それは秘密です。行ってのお楽しみってことで」
「は、はぁ……」
俺とリーリアは王城を飛びだし、街に繰り出していた。
白を基調とした貴族衣装を彷彿とさせる軍服に袖を通し、胸元にしっかりとバッジをつけ、護身用に短剣などの軽装備を拵えて。
対するリーリアは完全無防備状態の白のワンピース姿。
一王国の騎士団長がそんな軽装備ではまずいのでは? と忠告はしたのだが武器を持って街を出歩くのは落ち着かないとのこと。
(剣を持たせればすごいのになぁ……)
昨日の事件から俺はリーリアのあの姿に一切触れていない。
借りた剣も綺麗に研いで返却した。
リーリアはその剣を俺に授けるつもりだったらしいがそれは断った。
さすがに人の剣を自分の物のように振るうのは元剣聖としていいことではない。
自分で作り、磨き、そして戦いを通じて少しずつ味を出していく。
剣とはそういうものだ。
磨き続けた剣を一番に扱えるのは己自身。それは他の誰でもない。
自分だけがその剣を振るう権利があるのだ。
でも昨日の事件のようにやむをえない場合もある。
剣というものは時と場合によっては人を選別しない。
あくまでこれは俺の美学だ。誰が決めたわけでもない。
でもそう思いながら剣を振るっていた。
(剣は生き物……か)
昔、俺が剣聖と呼ばれる前にある人物から教えられた言葉だ。
その人はとても屈強な剣士で、なにより剣を愛していた。
俺が同じように剣を愛するのもその人の影響が強いのかもしれない。
ま、結局俺はその人ともう一度会うことはなかったけど。
すると、ここで突然リーリアが足を止める。
「ゼナリオさん、着きましたよ」
「……ここは」
色々考えながら移動していたためかいつの間にか街の外れまで来ていた。
周りはこっちの世界に来た時のことを思い出す緑いっぱいの平原。
そこにポツンと一軒だけ小さな小屋が建っていた。
「おう、来たかリーリア」
突然。小屋の扉が開き、中から小太りの老人が姿を現した。
あれは……小人? 俗に言うドワーフという種族か。
リーリアとの会話を聞く限り、顔なじみのようだが……
「そんで今日はそこにいる坊主に例のやつを作ればよいのだな?」
「はい、お願いします。素材はしっかりと持ってきました」
「おいおい、これってもしかして……」
「宝玉です。昨日現れた巨人から採取しました」
小太りの老人は箱の中にある宝玉を見る限り、目を輝かせる。
「こりゃあ、とんでもねぇものが出来上がるかもしれんな。とりあえず中へ入りな、話はそこでじっくりとしようぞ」
「そうですね。ゼナリオさん、こっちへ」
「は、はい」
何も分からないまま、小屋の中へと誘導される。
中に入ると、そこには大きな鏡らしきものがポツンと置いてあった。
他には何もない。ただ自分たちを映し出す鏡だけがそこに寂しく置かれていたのだ。
「これって鏡……ですよね?」
「ああ。だがこれはただの鏡じゃない」
「えっ……?」
『自動認識、確認。お帰りなさいませ、主人』
(んっ、なんだ?)
無機質な音声が鏡の中から聞こえてくる。
それと同時に鏡が光り始め、目の前が見えなくなる。
(うっ、なんだこの光は!)
だがその光はやがて消え失せ、徐々に視界を取り戻していく。
そして目の前に見えたのは――
「な、なんだ……ここは。工房?」
驚きを隠せず、ただ周りを見渡す俺に小太りの老人はこう言い放つ。
「おうよ、ここはワシが指揮を執るドワーフ一族の大工房。人呼んでドワーフアトリエじゃ!」
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皆様ありがとうございます😘
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