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23.わたしの騎士に……
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「陛下、一体どこへ?」
「いいからついてきて」
ついてきてというよりは連れ回されている感じ。
アリシア陛下は二人で話をしたいとのことで俺をある場所へと誘導する。
そして――
「……着いたよ、ゼナリオ!」
「お、おぉ……」
連れてこられた場所は王城の最上階。
面白いことに最上階は空中庭園のようになっており、フォルガナの街全体が見渡せる。
ちょうど時間も夕暮れということで街の明かりがポツポツと光を灯し、まるで夢の中にいるかのような幻想的な風景が広がっていた。
「どう? 綺麗でしょ?」
「とても綺麗です。まさか王城にこんなところがあったなんて……」
「本当は私と私の認めた者しかここには立ち入ることはできないのよ。あなたは幸せ者ね」
耳にかかる髪をかき分け、彼女はゆっくりと目を瞑る。
やはり夜に近づくにつれて気温が下がり始めているからか、結構寒い。
高い位置にあるのも相まって地上にいる時とは違った寒さだ。
でも、不思議と不愉快なほどの寒さではなかった。
「ねぇゼナリオ」
「はい?」
突然小さな声で語り掛けてくるアリシア。
そして彼女はその小さな口をそっと開き、
「わたしの騎士になるのは嫌かしら?」
「い、いえ……そういうわけでは。いきなりのことで少し驚いただけです」
「そう……よね。突然あんなことを言われたら誰でも戸惑うもの」
アリシアは少し俯き、ただ一点だけを見つめる。
「でも、貴方には少し驚いたわ」
「驚いた……ですか?」
「うん。だってわたしを見て何にも言わないんだもん。普通なら思うでしょ? なんでこんな子供が一国を収める立場にあるのか、って」
「……」
確かにそれは思った。
でも、別にそれがおかしいとは俺は思わない。
疑問には感じても否定はしない。
だって俺も同じ経験をしているから。
幼少期から戦争に勝つための英才教育をされ、さも当たり前のように大人たちによって戦地に送られる。
軍と言うのは実力至上主義の世界だ。
力があればたとえ子供であろうが戦いに身を投じることになる。
彼女もまた、同じような境遇を味わっているからこそ、その小さな頭で悩み、苦しんでいたのだろう。
世の中とは至って単純だ。
でも単純さ故に、必ず悩みや悲しみを背負うことを強要されてしまう者が少なからず存在する。
アリシアはその小さな身体でずっと、ずっと悩み続けていたんだ。
だから――
「俺はおかしいとは思いませんよ」
「えっ……?」
首を傾げ、少し擦れた声で話すアリシアに俺は、
「子供だからって国の長になれないわけじゃない。確かに世の中は大人の力で回っていますが、貴方はまだ幼いにも関わらずそれができています」
「ゼナリオ……」
こちらを向くアリシアに、俺はさらに話を続ける。
「それに……前に団長が言っていましたよ。陛下のおかげでこの国は再び繁栄を取り戻し、活力の溢れる国に戻ったって」
「それ、本当なの?」
「はい。この耳で確かにお聞きしました」
「そう……なんだ」
ホッとしたのか少しだけアリシアの顔に笑顔が戻って来る。
そして俺はさらに、今の自分が抱く思いの全てを彼女に伝える。
「アリシア陛下、これだけは言わせてください」
「な、なに?」
小さく問い、俺を見つめてくる碧い瞳。
俺は深呼吸を挟み、彼女のその瞳に答える。
「自分は国家騎士です。騎士の役割は自分の命をかけて国を、民を、そして……この国の王である貴方を守り切ることです。そこに年齢の差なんて関係ありません」
「だ、だから?」
「だから……貴方が望むなら自分は喜んで陛下の騎士となりましょう。それが、自分の使命なのですから」
真剣に、相手の目を見つめ、ハキハキと告げる。
するとアリシアは少しだけ頬を赤らめて、
「ふ、ふんっ! 貴方もわたしとそんな歳は変わらないのになにカッコつけてるのよ!」
「い、いやそれは……」
「でも……ありがとう」
「えっ?」
アリシアは俺に微笑みかけ、背を向ける。
「そんなこと言ってくれたの貴方で二人目よ」
「ふ、二人目……?」
ってことは似たようなことを言った人がもう一人いるってことか?
結構、本気で想いを伝えたというのに……と少しがっかりする。
「なんか、恥ずかしいなぁ……」
ボソッと零した羞恥の叫び。
するとアリシアは、
「別に恥ずかしいことじゃないわよ。凄く嬉しかった……ますます貴方のことが気に入ったわ」
「へ、陛下……」
「だから、今日からわたしの騎士にしてあげる! これからずっと……わたしのことを守ってもらうわ」
人さし指を俺に向け、誇らしげに胸を張るアリシア。
なんか立場が逆転しているような気がするが……まぁいいか。
「は、はいっ! 陛下の命とあればこのゼナリオ、喜んでお受けいた――」
「たーだーし! 一つ注意点がある」
「ちゅ、注意点?」
言葉を遮られ、きょとんする俺にアリシアは話す。
「今日から貴方はわたしの騎士になる。でもそれはただの主従関係の元でではなく、わたしの側近として関係。大まかに言えば信頼できる関係を築きたいの」
「と、言いますと……?」
「つまり、貴方とわたしの間に壁を作ってはいけないということ。だからわたしは貴方のことをゼナリオと呼ぶ」
「と、いうことは……」
「そう、だから貴方もわたしのことはアリシアと呼びなさい。これは命令よ!」
「えっ、えぇぇぇぇ!?」
いや、さすがにそれは立場をわきまえろって感じだと思うのだが……
でもさっきリーリアも言っていた通り彼女はこういう人なのだろう。
地位を鼻にかけず、いつだって謙虚でまじめで。
だからこそ人がついてくる。
国民も貴族も俺たち国家騎士だって。
彼女のその心の広さがこの国を生まれ変わらせた本当の理由なのかもしれない。
ならば俺はそれに従うだけ。従者としてアリシアに答えるまでだ。
「……分かりました。これからそう呼ばせていただきます。アリシア」
「よろしい。ようやくさっきみたいな堅さがなくなったわね。そっちの方がお似合いよ」
「そ、そうですかね?」
イマイチ良く分からないが、アリシアがいいと言うのならそれでいい。
アリシアは空を見上げ、ふぅーっと息を吐くと俺の方を向く。
そしてその小さな手を静かに差し出し、
「じゃあ、これからよろしくね。わたしの……騎士様っ!」
月夜の光に照らされ、まるで水晶玉のようなコバルトブルーの瞳が光り輝く。
そして彼女はその美しい黒髪をサッと揺らし、可愛らしい笑顔を向けたのだった。
「いいからついてきて」
ついてきてというよりは連れ回されている感じ。
アリシア陛下は二人で話をしたいとのことで俺をある場所へと誘導する。
そして――
「……着いたよ、ゼナリオ!」
「お、おぉ……」
連れてこられた場所は王城の最上階。
面白いことに最上階は空中庭園のようになっており、フォルガナの街全体が見渡せる。
ちょうど時間も夕暮れということで街の明かりがポツポツと光を灯し、まるで夢の中にいるかのような幻想的な風景が広がっていた。
「どう? 綺麗でしょ?」
「とても綺麗です。まさか王城にこんなところがあったなんて……」
「本当は私と私の認めた者しかここには立ち入ることはできないのよ。あなたは幸せ者ね」
耳にかかる髪をかき分け、彼女はゆっくりと目を瞑る。
やはり夜に近づくにつれて気温が下がり始めているからか、結構寒い。
高い位置にあるのも相まって地上にいる時とは違った寒さだ。
でも、不思議と不愉快なほどの寒さではなかった。
「ねぇゼナリオ」
「はい?」
突然小さな声で語り掛けてくるアリシア。
そして彼女はその小さな口をそっと開き、
「わたしの騎士になるのは嫌かしら?」
「い、いえ……そういうわけでは。いきなりのことで少し驚いただけです」
「そう……よね。突然あんなことを言われたら誰でも戸惑うもの」
アリシアは少し俯き、ただ一点だけを見つめる。
「でも、貴方には少し驚いたわ」
「驚いた……ですか?」
「うん。だってわたしを見て何にも言わないんだもん。普通なら思うでしょ? なんでこんな子供が一国を収める立場にあるのか、って」
「……」
確かにそれは思った。
でも、別にそれがおかしいとは俺は思わない。
疑問には感じても否定はしない。
だって俺も同じ経験をしているから。
幼少期から戦争に勝つための英才教育をされ、さも当たり前のように大人たちによって戦地に送られる。
軍と言うのは実力至上主義の世界だ。
力があればたとえ子供であろうが戦いに身を投じることになる。
彼女もまた、同じような境遇を味わっているからこそ、その小さな頭で悩み、苦しんでいたのだろう。
世の中とは至って単純だ。
でも単純さ故に、必ず悩みや悲しみを背負うことを強要されてしまう者が少なからず存在する。
アリシアはその小さな身体でずっと、ずっと悩み続けていたんだ。
だから――
「俺はおかしいとは思いませんよ」
「えっ……?」
首を傾げ、少し擦れた声で話すアリシアに俺は、
「子供だからって国の長になれないわけじゃない。確かに世の中は大人の力で回っていますが、貴方はまだ幼いにも関わらずそれができています」
「ゼナリオ……」
こちらを向くアリシアに、俺はさらに話を続ける。
「それに……前に団長が言っていましたよ。陛下のおかげでこの国は再び繁栄を取り戻し、活力の溢れる国に戻ったって」
「それ、本当なの?」
「はい。この耳で確かにお聞きしました」
「そう……なんだ」
ホッとしたのか少しだけアリシアの顔に笑顔が戻って来る。
そして俺はさらに、今の自分が抱く思いの全てを彼女に伝える。
「アリシア陛下、これだけは言わせてください」
「な、なに?」
小さく問い、俺を見つめてくる碧い瞳。
俺は深呼吸を挟み、彼女のその瞳に答える。
「自分は国家騎士です。騎士の役割は自分の命をかけて国を、民を、そして……この国の王である貴方を守り切ることです。そこに年齢の差なんて関係ありません」
「だ、だから?」
「だから……貴方が望むなら自分は喜んで陛下の騎士となりましょう。それが、自分の使命なのですから」
真剣に、相手の目を見つめ、ハキハキと告げる。
するとアリシアは少しだけ頬を赤らめて、
「ふ、ふんっ! 貴方もわたしとそんな歳は変わらないのになにカッコつけてるのよ!」
「い、いやそれは……」
「でも……ありがとう」
「えっ?」
アリシアは俺に微笑みかけ、背を向ける。
「そんなこと言ってくれたの貴方で二人目よ」
「ふ、二人目……?」
ってことは似たようなことを言った人がもう一人いるってことか?
結構、本気で想いを伝えたというのに……と少しがっかりする。
「なんか、恥ずかしいなぁ……」
ボソッと零した羞恥の叫び。
するとアリシアは、
「別に恥ずかしいことじゃないわよ。凄く嬉しかった……ますます貴方のことが気に入ったわ」
「へ、陛下……」
「だから、今日からわたしの騎士にしてあげる! これからずっと……わたしのことを守ってもらうわ」
人さし指を俺に向け、誇らしげに胸を張るアリシア。
なんか立場が逆転しているような気がするが……まぁいいか。
「は、はいっ! 陛下の命とあればこのゼナリオ、喜んでお受けいた――」
「たーだーし! 一つ注意点がある」
「ちゅ、注意点?」
言葉を遮られ、きょとんする俺にアリシアは話す。
「今日から貴方はわたしの騎士になる。でもそれはただの主従関係の元でではなく、わたしの側近として関係。大まかに言えば信頼できる関係を築きたいの」
「と、言いますと……?」
「つまり、貴方とわたしの間に壁を作ってはいけないということ。だからわたしは貴方のことをゼナリオと呼ぶ」
「と、いうことは……」
「そう、だから貴方もわたしのことはアリシアと呼びなさい。これは命令よ!」
「えっ、えぇぇぇぇ!?」
いや、さすがにそれは立場をわきまえろって感じだと思うのだが……
でもさっきリーリアも言っていた通り彼女はこういう人なのだろう。
地位を鼻にかけず、いつだって謙虚でまじめで。
だからこそ人がついてくる。
国民も貴族も俺たち国家騎士だって。
彼女のその心の広さがこの国を生まれ変わらせた本当の理由なのかもしれない。
ならば俺はそれに従うだけ。従者としてアリシアに答えるまでだ。
「……分かりました。これからそう呼ばせていただきます。アリシア」
「よろしい。ようやくさっきみたいな堅さがなくなったわね。そっちの方がお似合いよ」
「そ、そうですかね?」
イマイチ良く分からないが、アリシアがいいと言うのならそれでいい。
アリシアは空を見上げ、ふぅーっと息を吐くと俺の方を向く。
そしてその小さな手を静かに差し出し、
「じゃあ、これからよろしくね。わたしの……騎士様っ!」
月夜の光に照らされ、まるで水晶玉のようなコバルトブルーの瞳が光り輝く。
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