元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第1章 おっさん、魔術講師になる

第17話 レーナの悩み 後編


 私の名前はレーナ・アルフォート。御年24の新人魔術講師である。
 私には今、悩みがある。学園内にある展望台でそのことを考えていたそんな時、担任のクラスの一人の生徒から声を掛けられた。
 そしてなぜだが自分の過去の話をすることになったのである。


 * * *


「私も憧れの人がいたの」
「そ、そうなんですか!?」
「憧れというより命の恩人と言えばいいかな」

 夕暮れの学園。そこの展望デッキにレーナとフィオナはいた。

「命の恩人ですか?」
「うん、昔の話だけど色々あってね。もし助けてもらえていなかったら私はここにはいないわ」
「そんな過去が……」

 豆鉄砲を撃たれたかのように驚くフィオナ。
 そして彼女はレーナに新たな質問をする。

「その人は魔術師だったんですか?」

 だが、レーナはこの質問に首を傾げる。
 数年ほど一緒にいるが、彼が何をしている人か未だに知らなかった。
 知る機会はいくらでもあったのだが、聞く気がなかったということもある。
 当時のレーナにとっては絶望の淵から自分を救ってくれた、それだけで十分だったのだ。

「ずっと一緒にいたのに知らないんですか!?」
「う、うん……聞いたことがない」

 首を傾げるレーナにフィオナは不思議そうな顔をする。
 ただ一つだけある出来事があったのをふと思い出す。
 それはある日のこと、レーナが自立をするために力を身に付けたいと相談を持ち掛けた時に彼は何も言わずに黙って魔術を教えてくれたことがあった。
 これが今の魔術講師への道に直結するわけなのだが、それ以外に特に変わったことはなかった。

「なんだかおかしな話ですね」

 フィオナはこの話を聞いてクスッと笑う。
 レーナもそれに釣られて笑う。

「確かに今思えば、おかしな話よね。でも、行き場のなかった私が魔術講師としてこの場にいるのはその人のおかげだから感謝しているわ」
「本当にその方はレーナ先生の恩人なんですね」

 夕焼け色に染まる王都をバックに二人は笑い合う。
 昔はこんなに笑えなかったのに……と思うと今の自分が不思議に思えてきた。
 
 するとフィオナは思いつくようにある質問をしてきた。
 
「そういえばレーナ先生ってレイナード先生のことどう思っているんですか?」
「えっ……!?」

 いきなりレイナードという単語(ワード)が出てきて思わず声が裏返ってしまう。
 悩んでいたことを察知されたような気がしてあたふたする。

「レーナ先生?」

 レーナの謎の挙動にフィオナは疑問を抱く。

「え、いや……なんでもない……よ?」
「すごく動揺しているじゃないですか……」

 しかしフィオナはそんなレーナの姿を見てニヤッと笑いながら、

「で、正直な所どうなんですか……?」
「だから、どうって……?」
「その……レイナード先生のことですよ。一人の男性として」
「そ、そうね……ああいうぶっきらぼうな感じだけど本当はすごく優しくていい先生だなって……」
「い、いや……そういうことじゃなくて……」
「へ?」

(すごい天然だぁ……)

 あまりのレーナの天然さにフィオナは『はぁ』と首を落とす。
 
 でもそれは仕方がないことなのである。
 彼女は今まで異性とお付き合いをしたことがなかった。まぁ数年前まで生き地獄のような生活を送っていたのだから無理もない。
 助けられてから人付き合いに慣れるまでの間にかなりの時間を有した。
 そういうこともあり、恋人はおろか友達すらいないという状態だったのだ。

 だが、フィオナは諦めない。
 もうこの際だから一気に攻めて聞くことにする。

「そのあれですよ! レーナ先生はレイナード先生のことを異性として見ているかってことです!」
「異性として……? 私は彼のことを一人の男性として見ているけど……」

(ああ……この反応はまだ理解していないやつだ)

 逆にここまで言っても理解していないのはさすがのフィオナも沈黙。
 相当そういうことに免疫がないのが分かった。

「あ、でも……悩みはあるの」

 レーナは自分が悩んでいるをことを明かす。

「悩み……ですか?」
「うん。私とレイナード先生ってその……恋人同士に見られているのかなって」

 フィオナはこの一言にビビっとくる。

(これは聞きたいことが聞けるチャンス!)

 フィオナはこの好機を逃すまいとレーナにたたみかける。

「見られていると思いますよ。だっていつも二人でいますし、結構お似合いですから」
「そ、そうなんだ……」

 だが、レーナは落ち込むような姿を見せる。
 がっくしとし、溜息を漏らす。

「なんでそんなに落ちこむんです?」

 この問いにレーナは少し落ち着きが悪くなる。

「その……迷惑じゃないのかなって……そんな風に思われていて」
「迷惑と言いますと?」

 レーナは今、自分が持っている悩みとそのことで仕事が上手くいっていないのではないかということをフィオナに話した。

「そういうことですか……」
「うん、ちょっと気になっちゃって。仕事が捗らないから此処に来たのだけれど……」

 レーナの哀愁漂う横顔をフィオナは見つめる。
 そんなレーナの横顔を見て彼女は、

「それはないと思いますよ」
「そうかな……」

 複雑な表情をするレーナ。
 それをフィオナが必死に励まそうとする。

「はい、レイナード先生はそんなことで迷惑に思ったりする人じゃないと思います。普段は怠惰でだらしない先生ですけど分からない所はなんだかんだで教えてくれるし……」
「そうだといいのだけれど……」
「絶対に大丈夫ですよ! それにレーナ先生はすごく美人だし……逆に恋人と思われて嬉しくないこと自体あり得ないですよ! もし迷惑に思っているようならレイナード先生に抗議しに行きます!」

 元気づけようと必死になってくれているフィオナの姿を見ると、なんだか嬉しくなってくる。
 誰かが自分のために何かをしてくれる経験がそもそもなかったので、余計に嬉しい。

「ありがとう、フィオナ。ごめんなさいね、あまり生徒にこういうこと言うものじゃないのだけれど……」
「いえ! 困った時はお互い様ですよっ!」

 フィオナは年相応の若々しい笑顔を見せる。
 ふと考えてみると少しだけ身体が軽くなったような気がした。
 悩みを相談したからなのだろうか……モヤモヤがさっきより緩和された気がする。

「というかこんなにレーナ先生は悩んでいるのにレイナード先生ときたら……」

 フィオナは不満げな表情をしながら夕焼けに染まった王都を眺める。

「ま、まぁ……先生は私のことなんかなんとも思っていないだろうし……私が勝手に騒いでいるだけで」
「でもこれじゃあ、レーナ先生が可哀想ですよ。まったくあのポンコツ魔術講師は!」
「ポンコツ魔術講師って……」

 その後も日が落ちるまでレイナードへの悪口が絶えなかった。



 * * * 


 
 その頃、レイナードはというと―――。



 ハックションンンンンンンン!


「くそっ、くしゃみが止まらん……風邪でも引いたのか?」


 小さな借家の一室で例の如くゴロゴロとしていた。 
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