元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第5章 おっさん、優勝を目指す

第117話 講師としての責務

「うーーむ……」

 俺は今、とある少女を追いかけている。
 それは我がクラスの委員長にして成績学年トップのフィオナ・ミラーフィールドだ。

 あ、予め言っておくが別にストーキングをしているわけじゃないぞ。
 これは悩める教え子に対しての処置なのだ。

 教師たるもの常日頃から生徒のことに気を使わなければならない。特に彼女は明日の試合に勝利するための要なのだから尚更だ。

「友人と約束をしていたというのは本当だったのか」

 学園の噴水近くで顔を会わせた際、彼女は今までの見せたことのない表情を浮かべた。
 いつも笑顔の絶えないクラスの人気者であるフィオナがあの時は……

 だからこそ、その真相を知るべくこうしてストーキン……じゃなくて緊急処置に講じているわけだ。
 
「友人といる時は問題なさそうなんだがな……」

 でも俺に見せたあの表情は紛れもなくフィオナの真意を示している。
 伊達に数か月間、魔術講師をやっていたわけじゃない。

 今までは彼女の明るい振る舞いに翻弄されていたが、もう騙されない。

「今はもう少し様子を――」
「あっ、レイナード先生じゃないですか」
「おお、奇遇ですねぇ。先生もお買い物ですかな?」

 げっ、ハルカとクソ野郎ラルゴのバカコンビか!

 こんな時に面倒な奴らと遭遇してしまった。
 二人は俺を見つけた途端にこっちへとやってくる。

(いいよ、来なくて!)

 内心そう思っていてもこの声は届くはずもない。
 そうとも知らずに二人は両手に買い物袋を引っ提げながら、

「いやぁ、やはりお祭りはいいですねぇ。ようやく自由な時間を過ごせますよ」
「とか言ってもMCのお仕事はまだ残っているんですよね? 戻らなくていいんですか?」
「私、こう見えても仕事は早いもので。今日のすることはすべて終えてきたのですよ」
「それ、自分でいいますか……」

 なんか前にもこんなことがあったような気がする。
 確かレーナと街を歩いていた時に――

「ところでレイナード先生、どうです? これから一緒に食事でも」
「断る。俺はやらねばならないことがあるからな」
「やらねばならないこと……ねぇ。でもさっき先生、誰かを追いかけていませんでしたか?」

 ギクッッ!

 図星を突かれて、身体がピンと跳ね上がる。
 
(ま、まさか見られていたのか……?)

 でも結構周りには用心深く警戒していたはずだ。
 気配も感じなかったってことはこいつらまさか……

「お前ら、もしや俺の後をつけてたな?」
「え、えぇ? 何を言っているのか分からないなぁ~」
「そ、そうですよ。決して我々は面白そうだから尾行してみようなどとは思っていません!」

(こ、こいつら……)
 
 もうラルゴに関しては隠す気ゼロの回答だ。

(くそっ、厄介なことになったな)

 ハルカの口ぶりから察するに俺は今、あらぬ誤解をされていることだろう。
 いつから尾行されていたかは不明だが、ここはまずは弁解をせねば。

「い、一応言っておくが、これは教師としての行動だ。決して下心があってやっているわけでは……」
「えっ……違うんですか?」

 何も笑わず、真顔で言うハルカ。
 俺はすぐに言葉を付け加え、状況を大雑把に説明する。

「なんだ、そうだったんですね。てっきり変質者への道に目覚めてしまったのかと思いました」
「んなわけあるか。俺はあんな小娘に手を出す気はさらさらない」
「でも残念ですねぇ。次の学内新聞でこの記事をスキャンダルとして取り上げようと思っていたのに没になってしまいました」
「おい、お前今なんて言った?」
 
 ラルゴの手に持っていた一冊のメモ帳。
 俺はすぐにそれを取り上げて内容を見てみる。

「自称アロナードナンバーワンの魔術行使、担任クラスの生徒をストーキング……だと」

 記事の内容はタイトルのまま。俺がクラスの生徒を卑猥目的でストーキングしているという記事が事細かに書かれていた。
 
「お前、まさかこれを本当に記事にするつもりだったとか言わないよな?」
「そ、それは……どうでしょうかねぇ」

 口笛を吹きながら、どこか変な方向を向いて誤魔化してくる。
 でもよかった。

 こんなのが学内新聞の記事にされたら面倒なことになるのは必然的だ。
 人気がなくなるという点は素晴らしい利点ではあるが、その前にうちの学園長フィーネが黙っていないだろう。

 あいつの説教は無駄に長いからな。

 ……と、まずいまずい。こんなことをしている場合じゃなかった。
 
「おいラルゴ、その記事絶対に新聞にするなよ。誤解だからな!」
「あ、ちょっとレイナード先生!」

 俺は半ば強引にその場を離れ、フィオナの観察に戻る。
 だが少々時間を使ってしまったためか、さっきまでいたはずの場所に彼女の姿はなかった。

「ちっ、見失ったか。どこへ行ったんだ?」

 街路樹の並ぶ一本道を駆ける。
 そう遠くには行っていないはずだ。

 すぐに見つかるはず――

「あ、レイナード。どうしたのそんなに急いで」

 今度は何だよ!

 そう思いながら振り返るとそこには、

「なんだ、レーナか」
「なんだってどういうことですか」
「い、いや別に深い理由はない。買い物か?」
「はい。ちょっと買いたいものがありまして」
 
 レーナもまた、祭りを大いに楽しんでいるようで片手にはかなり大きな買い物袋を持っていた。
 ちなみに俺は祭りなどはどうでもいい。

 今の俺の頭の中にはあるのは魔技祭で頂点に立つこと。そしてクソ国王に大金をせびってニート生活を手に入れることだ。
 
 それ以上でもそれ以下でもない。ただ俺はその瞬間のために魔術講師をやっている。
 だからこそピンチなのだ。

 優勝するための大事なカギが暗雲低迷の事態に陥っていることにな。

「悪いがレーナ、オレはやれねばならぬことがあるから先を急ぐ。お前は祭りを楽しめ」
「えっ、どうしたんですか? 何かあった――」
「大丈夫だ、何もない。お前には関係のないことだ」
 
 無理にレーナの言葉を遮り、引き離す。
 
 悪いレーナ……あまりこういうことはしたくはなかったが。

 俺は振り返らず、そのまま走り去ろうとする。
 
 だが――

「ちょっと待ってください!」
「……ッ!」

 服の袖を引っ張り、俺を無理矢理引き留める。
 そしてレーナは不安さを滲ませたそのまま顔をそのまま上げながら、

「何か……あったんですね」
「……なぜそう思う?」
「だっておかしいもの。いつも怠惰でのんびりなレイナードがそんなに慌てるなんて」

 いつも怠惰で悪かったな、自覚はあるけど。てか、俺の場合は意図的怠惰ともいえる。

「レーナ、これは俺の……講師としての責務だ。助手のお前にまで気負わせるつもりはない」

 そう、これは俺の仕事。
 俺一人でやればいい話なのだ。俺はただ魔技祭優勝を成し遂げるために必死になっているだけ。

 他の奴らには関係がないんだ。

「離してくれレーナ。先へ進めない」

 でもレーナは頑固として俺の袖を離さなかった。
 そして彼女は俺の目をじっと見つめると小声で、

「私も……行きます」
「ん、なんて?」
「だから……私も行きますって言ったんです!」
「だ、だが……はっ!」

 レーナの表情は真剣そのものだった。なんとしてでも行く、そんな覚悟が身体全体から溢れ出ていたのだ。

「……何を言っても行きますよ。だって私にも、先生としてのプライドと責任がありますから!」

 レーナはその潤った眼差しを向けながら、俺にそう言い放った。
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