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第17話:二人だけで
しおりを挟む―――ジャーーーーーー
昼時、俺とザックは教室近くのトイレにいた。
「……ふぅ、すっきりぃ」
「トイレくらい一人で行けって……」
「まぁまぁ、別にいいじゃねぇか。連れションってやつよ」
「つ、連れション?」
「おう、一緒にトイレに行くことを言うんだ」
これまた初耳の単語だ。意味はとてつもなくくだらないが比較宗教的な観点で魔界に情報提供するのも悪くない。
(一応、記載しておこう……)
俺はザックに魔王覚書を見られないよう、隠れてメモを取る。
「じゃ、じゃあ改めて聞くが、その計画とやらは何をすればいいんだ?」
「ああ、それはだな」
そういうとザックは制服の胸ポケットから一枚の紙きれを取り出し、俺に渡す。
「なんだこれは?」
「作戦だ。俺が考えた崇高なる計画の全てがそこに書かれている」
犯罪的計画の間違いじゃないかと訂正しようかと思ったが、面倒なことになりそうなのでやめておく。
そして俺はその二つ折りにされた紙きれを開き、内容を黙読する。
「どうだ、素晴らしい計画だろ?」
「あ、ああ……」
素晴らしいというより単調というかなんといかこれでいいのかと思ってしまうほど内容が薄いように感じた。
昼食に誘う……という所までは問題はない。だがその後の放課後に王都へ繰り出すっていうのは何だ?
いきなり飛躍していないだろうか?
(そりゃ……昼食時に話が弾めばそのノリでっていうことはあり得るかもしれないが……)
作戦というからにはよっぽど凝った内容で攻めるのかと思いきや割と大雑把な計画で苦笑いしてしまう。
だがザックのやる気オーラは秒を重ねるごとに迸っていた。
「そうと決まれば早速行動だ。まずは昼食へのお誘いからだな、頼むぜイブリス」
「え? 俺が誘いに行くのか?」
「当たり前だ。お前とセレスちゃん、お知り合いなんだろ?」
いや、知り合いって程の仲ではないのだが……
とか何とか言っても今までの素性を見れば強引に俺に行かせるんだろう。
(ここはさっさとやる事を済ませて調査に戻らねば……)
「分かった。で、お前はどこに?」
「この学園の一階にある学食だ。俺はそこで待ってる」
「じゃあそこに行けばいいんだな」
「おう、頼んだぜ!」
はぁ……仕方ない。このくだらないミッションを遂行するとしよう。
ここで一旦ザックと別れ、俺は教室の方へと戻ろうとする。
と、ここでどこからか何者かに目線で射止められる感覚をすぐさまキャッチする。
(誰かに見られてる……どこだ)
周りに俺以外の人影や気配はない。完全に姿を隠し潜伏していると見る。
「誰だ。俺を見ているのは!」
対象に声をかけ、相手を牽制。すると背後に一瞬だけ気配を感じとる。
(後ろかっっ!)
「はい、せいかーい。よく分かりましたね」
「……り、リリンか」
正体は俺の護衛兼伝達役のサキュバスのリリン。サキュバスが得意とする潜伏術で俺を密かに見張っていたらしい。
「それにしても結構エンジョイしてますねイブリス。肝心の任務の方は順調なのかしら?」
「ああ、問題ない。それよりお前はどうなんだ? ここの講師なんだろ?」
「ええそうよ。ただし私は非常勤講師なんですけどね」
「非常勤だと?」
「そ、決まった日と時間しか働かないということよ。ちなみに今日の仕事は朝の授業で終わったわ」
「なんだと? 終わったってことはもう帰宅できるのか?」
「うん。まぁあとちょーっとだけ残った雑務をこなしてからだけど」
なんだよ楽じゃないか。こちとら朝から晩まで学生やらなきゃならんのだぞ。
まだ本格的な授業が始まっていないとはいえ、昨日と違って今日は午後までびっしりと予定がある。
慣れないことでただでさえ身体にきているというのに……
「……けっ、楽そうで何よりですねリリンさん」
「別に楽じゃないわよ。私だって人生で一度も魔術講師なんてしたことないんだから」
とはいっても羨ましい限りだ。
俺も非常勤生徒になりたいな……そんなことできないだろうけど。
「とにかく、調査のことも考えておいてくださいね? 私はもう既にいくつかの情報を入手しましたよ」
「なにっ、本当か?」
「本当です。私はイブリスくんと違って仕事に忠実ですので」
「ぐぬぬっ……」
いちいち一言余計な部下だ。有能じゃなければ即クビにしてやるのに。
だがリリンの言っていることは間違ってはいない。
わざわざここまで来たのはルンルン学園生活を満喫しにきたわけじゃないのだ。しっかりとした仕事で来ている。
(あまり過度な寄り道は避けるべきだな……)
そう自分に言い聞かせ、俺はリリンに情報開示を求む。
「すまんリリン。情報を教えてくれないか?」
「え~どうしようかしらー」
「頼む……」
真剣な眼差しを彼女に向け、そう繰り返す。
「……はいはい分かりました、教えますよっと。というか初めから教えるつもりでしたのでここへきたんですが」
「そ、そういうことか」
「はい。じゃあ端的に説明しますね」
「ああ……」
するとリリンは口を開き、いくつかの情報を俺に伝える。
「……ということが分かりました」
「なるほど……ということはもっと学園内に視野を向ける必要があるみたいだな」
「私も気にしてはいますけどイブリスも一応頭の中に入れて調査にあたって。何か詳しいことが分かればすぐに連絡するわ」
「ああ、俺も何か掴んだらすぐに伝える。ありがとうリリン」
「いえ、それが崇高なる御方に尽くす者として務めですので」
「お、おぅ……」
たまにこういう照れくさくなるフレーズを挿むのは個人的はやめてほしい。
きらい……とかではなく単純に恥ずかしいからだ。特に魔王城の外でやられるとスゴイ羞恥心に駆られる。
尽くすものと尽くされるものの間に生まれる一般的な風習なのは理解できるけどやっぱり恥ずかしい。
「それでは、私はこの辺で。健闘をお祈りいたします」
そういうとリリンは姿を消し、去って行った。
「……ふぅ。さてと少し遅くなったがザックの件をちゃちゃっと終わらせよう。さっきの情報についても調べたいし」
俺はすぐさま教室へ戻り、セレスがいるかどうか目視で調べる。
(えーっとセレスは……あ、いたいた)
相変わらず一人椅子に座り、本を読んでいる。
昨日もそうだったが自己紹介以外一度も話しているのを見たことがなかった。熱心な読書家なのかは知らないが午前の授業もずっと本を開いていた。
ま、とりあえず要件を……
俺はセレスの元へと駆け寄る。
「あ、あの……セレス、さん?」
「……」
返答がない。距離にして約5センチほど。にも関わらず一言も発しなかった。
(しゅ、集中しているのか?)
よっぽど読書に対して真剣だと伺える。
本当は比較的邪魔となる行為はしたくないのだが……
「致し方ない」
俺は彼女の肩をポンポンと叩き、声を掛ける。
「……あら、誰かと思ったらイブリスくんじゃない」
やっと気が付いた。
セレスは本を閉じると目線を俺の方へと向ける。
「ごめんなさいね、本に集中し過ぎていて気が付かなかったわ」
「あ、ああやっぱり? ごめん邪魔して」
「大丈夫よ。で、何の用かしら?」
「あ、ああ実は……」
俺は彼女に一緒に昼食を取らないかと誘う。
もちろんザックのことは一切言っていない。彼に俺の事はいうなよと念入りに言われているからな。
「昼食? 別にいいわよ」
「ほ、本当か? じゃ、じゃあ下にある学食まで一緒に……」
「ただし! 二人だけでね」
「……え、今なんて?」
「二人だけでって言ったのよ。何か不満でもあるのかしら?」
「い、いや……」
俺の聞き間違いだっただろうか? 今彼女は『二人だけ』という言葉を放ったように聞こえた、というか間違いなくそう言った。
(な、なんてことだこれでは計画がっ!)
予想外の事態が発生し、どのような対応をすべきかすぐさま模索する。
だが数秒考えても良い案が出ることはなかった。
「……イブリスくん? どうしたの?」
やばい。これ以上引き伸ばすと怪しまれる可能性大だ。
これはもう……なんでもいいから返答するしかない……!
「……わ、分かった。二人だけで行こう。学食へ」
「ええ、分かったわ。あ、でも私学食よりカフェに行ってみたいわ。あそこのカフェは中々の評判らしいのよ」
「え、いやそれは……」
「何かいけないことでもあるの?」
「い、いや……ないです」
「なら行きましょ。早く行かないと席が埋まってしまうわ」
「は、はい……」
すまん、ザックよ。俺にはハードルが高かったようだ……
どうか……どうか俺を責めないでくれ……
俺は心の中でザックに謝罪。そして俺はザックを切り捨て、そのままカフェテリアへと向かうのだった。
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