この歴代最強の新米魔王様、【人間界】の調査へと駆り出される~ご都合魔王スキルでなんとか頑張ります!~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第34話:介入者

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「わたくしはアルゴウェイ=ドズール・マクドネス。ガーゴイル軍特務攻撃隊『レイハント』の副官を務める者です」
 
 伝説の鳥獣とも呼ばれたグリフォンの背中に乗る一体のガーゴイル。
 取り巻きの護衛隊がすぐ横に二人、背後に四人ほど構えているのをみるとこいつが最終防衛ラインの要と言ったところだろう。
 確かにこのガーゴイルだけは異色の霊気を感じる。実力差も周りのガーゴイルたちともかなりあるようだった。
 種も違うようで普通のガーゴイルなら銀色の身体を持つが、彼だけは金と銀が混色した身体で図体も一回り程大きいかった。

「異端種……といったところか。厄介だな」
「どうしますか隊長、これは情報にはなかったことです。一度引いて……」
「何を言うか! ここは敵陣地なのだぞ!」

 ダラーは隣にいるジョンの言葉を遮り、怒声を上げる。
 確かにここはもほぼ敵拠点の中心部に片足を突っ込んでいると言っても過言ではない場所。背を向けて大人しく見逃してくれるはずもない。
 それに、グリフォンなんていうものを召喚できるほどの手練れがいるとなると逃げの選択を選ぶのは得策ではない。

「……戦うぞジョン。今ここで逃げを選ぶのは正しい判断じゃない。何もするこができず無駄死にするだけだ」
「た、隊長……」
「あの現場指揮官は俺が相手をする。その間にお前たちは一気に本陣へと攻めろ。それくらいの時間が稼げるはずだ」

 額に汗を滴らせ、ダラーは苦笑する。
 目の前の連中を見る限り数では圧倒的にヴァンパイア軍が有利だ。この数的有利を上手く活かせばここを突破するのも難しくはない。
 ただ……

(こいつをどれくらいの間拘束できるかにもよるけどな……)

 ダラーは戦う前から気付いていた。このガーゴイル相手に正攻法では勝てないという事を。
 明確な理由はない。ただただ戦士の勘というやつだった。
 
「さぁ行くんだジョン! 俺に構うな!」
「で、でも隊長……」
「グズグズするな! 俺たちに敗北はもう許されないのだぞ!」

 薄々躊躇することなんて予想の範疇だった。誰よりも仲間想いで自分を慕ってくれたジョンがそう安々と同士を見殺しにすることができるはずもない。
 この強い仲間意識と心優しさが彼にとっての最大の長所であり、短所でもあった。

 中々自身に決断を下せず俯くジョン。そんな彼を見ていると昔の自分を思い出す。
 過去の戦で散っていった同志たち。最愛の恋人だった相手も族の威厳を保ちつつ仲間の命を守るという目的だけのために自分の前から姿を消していった。

 ヴァンパイアという部族はどいつもこいつもバカばかりだ。自分の命を顧みず、仲間と族のためなら全てを投げうることも厭わない。
 かつてヴァンパイアという種族が魔界で猛威を振るっていた時代もこのような強い正義感を持つものが多くいたからこそのことであると族長も言っていた。

 そして今この瞬間が族の存続にとって大きな決断となる。数十年もの間、お互いいがみ合いながら戦争をしてきたがほとんどの戦いで我がヴァンパイア族は敗北を味わっている。
 もしこの戦で敗北をすることになれば確実に領内支配権はガーゴイル側が握ることとなる。

 要するに負ければ奴らの支配下に、勝てば族の存続というヴァンパイア族にとって新たな歴史が生まれる戦いでもあるのだ。
 だからこそ負けるわけにはいかない。この身に変えてでも数千年以上築き上げてきたものを壊したくないと思ったのだ。

「ジョン、目を瞑れ」
「えっ……?」

 ジョンは言われた通りに目を瞑る。そしてダラーは彼が目を閉じたことを確認すると、

『……族長を、みんなを頼んだぞ』
「……ッッ?」

 小声でそう告げるとジョンの乗っていた魔獣に興奮作用を与える魔術を付与。興奮状態に陥った償還魔獣はそのままガーゴイル本陣営の方へと真っ先に走っていく。

「よし、お前ら! 先陣を切ったジョンに続けぇぇぇぇぇぇ!」

 周りの兵士たちはいきなりの進軍で戸惑うが、指示通りに軍を進めることに成功する。
 次々に背後から俺を抜き去っていくヴァンパイア軍の兵士たち。
 アルゴウェイの取り巻きがそれを追おうとするが、彼がやめろと言って止めに入る。
 そして数十秒後にはその場にアルゴウェイとその護衛隊、そしてダラーのみが残った。

「なぜ取り逃がした? 追うことも可能であったはずだ」

 質問をすると返答は早かった。

「別に今そうする必要はないと判断したからです。向こうにももちろん護衛の兵士はいますし、今ここであなたを倒して追っても十分の間に合います」
「ほう……随分と甘く見られたものだな」

 緊迫感溢れるこの場でダラーは右手に構えた槍をぎゅっと握りしめる。
 
(勝たなくていい、時間を稼ぐのが俺の役目だ)

 覚悟は決まった。この瞬間に自信を全てを賭け、族長に、仲間に……そして跡継ぎを託したジョンの未来のために俺は戦いを決意する。

「アルゴウェイ=ドズール・マクドネスと言ったな?」
「いかにも、このわたくしがアルゴウェイ=ドズール・マクドネスであります」

 ダラーはそれを聞くとフッと笑い、

「そうか、しっかり身に刻んでおくぞその名を。俺はヴァンパイア軍前線部隊『虚無の鮮血』団長、ダラー・レンフィールド! 族の未来のため、いざ参る!」

 召喚魔獣に走らせ、槍片手にダラーが突っ込んでいく。
 それに反応し、アルゴウェイの前に護衛隊が素早く前に出る。
 
 ダラーの決死の突撃には一瞬も迷いはなかった。決意を固め、自分の背負った運命と正面で向き合おうとしている者の顔であった。
 
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 槍を構えた右手に魔力を集中、そして勢いよく突き出そうとしたその時だった。

『そこまでにしていただきましょうか』

 どこからか聞こえた謎の声と共に強い閃光が両者の間で拡散し、互いの目を晦ませる。
 激しい光が徐々に収まり、視界を取り戻すと目の前には黒いオーラを纏った一つの影が立っていた。
 
「な、なんだあれ……」

 ダラーは気づいていなかったがアルゴウェイは一目見た途端に顔色を変えた。
 
「グシオン統帥補佐……さま……」

 負の魔力を纏い、見る物を怯ませるほどのその圧倒的存在は両者の間に立ち、不吉な笑みを浮かべるのであった。
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