この歴代最強の新米魔王様、【人間界】の調査へと駆り出される~ご都合魔王スキルでなんとか頑張ります!~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第35話:大魔王

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 緊迫した空間にひっそりと佇む黒い影、竜人族を匂わす長身の男が二人の目の前へと姿を見せる。
 黒い丸メガネ、黒髪、黒いスーツを身に纏った黒一色の姿は宵の闇深さと上手く同化しており、近くでみてもまるで実体のない影のように見ることができた。
 だが両者にとって一番の脅威だったのはこの男の底知れぬ力そのものだった。戦いもせず、近くにいるだけで圧倒され、その存在感に身を飲み込まれそうな感覚が体全体にひしひしと伝わってくる。

 仮にもダラーやアルゴウェイも族の中じゃ屈強の戦士として名を馳せている者たちだ。彼らはどんなに強大な相手だろうが決して屈したことはないし、危険であっても自ら突っ込んでいく度胸を兼ね揃えた理想的な戦士たちだ。
 だがしかし、そんなたくましき二人であってもグシオンを見るなり身体が言うことを効かなかった。特にアルゴウェイはグシオンのことを認知しているのも相まって身体そのものに震えが生じてしまっている。

 そしてしばらくの間沈黙が続くとその脅威は両者に話をかける。

「皆様ごきげんよう。いきなり止めてしまって申し訳ないですね」

 喋るグシオンにアルゴウェイは慌てて答える。

「め、滅相もございませんグシオン様! それより一体こんなところまでお越しくださって何用で?」

 アルゴウェイの態度の変化にダラーもすぐに察する。
 この者は只者ではない。次元が違うレベルで恐ろしい存在なのだということを。
 
「少し問題がありましてね。とある二つの部族が違反を犯してまで醜い争いをしているとの情報を耳にしたものですから……」

 グシオンがこう答えるとアルゴウェイの表情はさらに険しさを増す。
 そしてその男の視線は途端にアルゴウェイからダラーの方へと向く。

「あなたが現ヴァンパイア族の……えーっと」
「ダラーという者だ。それより、一体お主は何者なのだ?」

 少し震えた声で返答するがダラー自身、なぜ自分がこんなに恐怖に近い感情を覚えているのかが理解できなかった。この者と目を合わせるだけで精神への圧迫感があり、息苦しさがあった。
 
 そしてダラーが何奴かという質問をした時、真っ先に反応したのは、

「おい無礼だぞ、ヴァンパイアの戦士! この方をどなたと心得ているのだ!」

 先ほどまでの冷静さと爽やかさを感じさせていた態度は急変し、気性の荒い声でダラーを怒鳴り散らす。
 しかしそれをすぐさま止めたのはグシオン本人だった。

「まぁまぁ気にしなくて結構ですよ。自己紹介をまず初めにやらなかった私の落ち度なのですから」

 そういうとグシオンは再びダラーの方へと振り返り、

「申し訳ない。私が何者かというお話でしたよね?」
「あ、ああ……」

 戸惑うダラーにグシオンは胸に手を当て、一礼しながら流れるような口調で自己紹介を始める。

「自己紹介が遅れてしまった無礼を詫びましょう。私はグシオン・アルバザード。崇高なる現魔王、イブリス・エル・サタニール陛下の元で勤労させてもらっている忠実なしもべです。以後……お見知りおきを」

 薄気味悪い笑みを添え、自己紹介を済ませるグシオン。
 そしてそれを聞いたダラーは、

「グシオン……そして魔王イブリス陛下。もしやあなたはあの十王将の詭計と呼ばれたグシオン様……なのですか?」
「ふむ、そのように呼ぶものをいるようですね。未熟な私にとってはたいそうな肩書ですが」

 ば、バケモノが来た……

 ダラーの脳裏をまず横切ったのは今目の前で話している魔族は少なくとも自分とは比較対象にならないレベルの脅威者だったということを確信したこと。
 そしてあの大魔王の側近で神の頭脳を持つとされる伝説の策略家だったということだけだった。

 正直、驚愕の出来事で脳が処理に追いついていなかったということもあり、あまり多くのことは考えられなかったのだ。

「そ、それでグシオン統帥補佐殿は一体何をしに……?」
「そんなこと決まっているだろうガーゴイルの戦士よ。例の事だ……」

 例の事、それは幾分か前にヴァンパイア族とガーゴイル族の間で結んだ戦争放棄等の平和条約だった。
 魔界の秩序を維持するべく紛争に明け暮れていた両者をなんとかしようと魔王イブリスが直々に部族を訪問し、魔王立ち合いのもと結んだ異例の条約締結だ。
 だがそんな条約も効果を成すことはなく、こうしてまた戦争へと発展してしまった。
 
 要するに両部族は絶対忠誠の魔界の長の意向から背くという禁忌を侵してしまったというわけだ。
 
「とりあえず、ここではゆっくりと話すことはできますまい。私の部下が軍の進行を止めることができたみたいなので早速ですがあなた方には私についてきてもらいますよ」

「「……わ、分かった」」

 グシオンの提案は両者に受け入れられ、二人の戦士はグシオンについていくことを決意する。
 

 ■ ■ ■


 ―――王都ディザスター、ベッカル大要塞地下大会議室

 魔界の拠点、そして大魔王が座する尊き場に二人の戦士はいた。


「……ここです。陛下が来るまではここでお静かにしていただきます」
「あ、あの……」
「何でしょうかアルゴウェイ殿」
「ぞ、族長は……? 族長は無事なのですか?」
「族長……? ああ、あのお二人のことですね。大丈夫ですよ、もう中にいるかと」
「そ、そうですか……」

 ホッと一息つくアルゴウェイ、そして未だ震える手をギュッと握りしめるダラー。
 両者はグシオンに導かれ、とある一室へ案内される。
 

 そして―――




「……魔王様、準備が整いました。ご同行を……」
「分かった。皆の者、本当にご苦労であった。恩にきるぞ」
「いえ、そんな勿体なきお言葉……我々は当然のことをしたまでです」
「うむ。さすがは我がしもべたち……実に心強い。だがここからは私とグシオンの仕事だ。一応万一に備え、十王将の諸君らには会議に出席してもらうが基本的に手出しは無用。静聴を願いたい」

「「「「「はっ!」」」」」

 声を合わせ、忠誠心を示す十王将たち。
 そして魔王イブリスは玉座に手をかけ、重々しい身体をゆっくりと持ち上げる。


「……さて、それではいくとしよう。我々の意に背いたものたちに鉄槌を下すのだ!」
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