6 / 160

06.宴が始まりました

しおりを挟む
 俺は今、色々な出来事を経て王城にいる。
 で、俺はどういうわけか国王陛下と顔を会わせることになった。

 今、目の前にある扉の向こうに陛下がいらっしゃる。

 ふぅ~っと深呼吸。
 
 そして、両側にいた使用人たちがゆっくりと扉を開扉させると――

「うぉぉぉぉぉぉぉぉソフィアァァァァ! 大丈夫だったかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 うわっ、なんだなんだ!?

 扉を開けた途端、全速力でこっちに向かってくる人の影。
 そしていつの間にかその人影はソフィアの前に。

「お、お父様!?」

 ソフィアもかなり驚いていたようで唖然としていた。

「ソフィアよ、ケガはないか? あっ、この辺ケガしてそう……」

「お、お父様! わたしなら大丈夫ですから。それよりも、お客様の前ですよ!」

「はっ、そうであった!」

 国王は我に返ると、視線は俺の方にシフトする。

「おお、貴殿がランス殿であるか! ようこそ、我が城へ! 私がグリーズ王国国王のフォルト=フォン・グリーズだ!」

「お、お初にお目にかかります。フォルト国王陛下殿……」

「娘が世話になったようだな。本当に感謝する!」

「い、いえ……自分は当然のことをしたまでです」

 すぐに片膝を立て、姿勢を低くする。
 決して無礼があってはならない。

 何せ相手は一国の長。俺とは住む世界が違うのだ。

 だがフォルト国王はそんな俺の姿を見ると、

「顔をあげてくだされ。本来ならば、腰を折るべきなのは私の方だ」

 そう言ってくる。
 しかも目線を俺にあわせてくると、

「本当にすまなかった。貴殿には何とお礼を言えばよいか……」

「あ、頭をあげてください陛下! 自分は別に……」

「いや、そうはいかぬ! 我が娘を身を挺してまで守ってくださった御方にお礼一つすらいえないようでは国王の名が泣く。どうか、頭を下げさせてほしい」

 下げさせてほしいって……。

(絵面的にはとんでもないぞ、今の状況……)

 なんたって普通の平民に対して国王が頭を下げているのだから。
 
 物凄い感謝されているのは分かる。

 でもなんか罪を犯している感じがしてならなかった。

「ランス殿、どうぞお好きな席へ。すぐに宴の用意をさせよう」

「し、失礼します……」

 というわけで俺は国王陛下が座る席から一番遠い席をチョイス。
 すると、

「ランス殿! そんな遠くに行かず、こっちに来てほしい。何なら私の隣でも構わないぞ」

「いやさすがにそれは……」

 というかさっき”お好きな席に”って言ったじゃん。
 
 ……ってもちろんそんなツッコミをできる勇気なんて当然なく、俺は国王陛下のすぐ近くに腰を落ち着かせた。
 
 ちなみに国王は長テーブルの一番奥。
 アルバートさんは俺の隣、ソフィアは俺の目の前に座った。
 
 他にも何か如何にも偉そうな人たちが同席し、全ての準備が整った。

「さて、役者も揃ったことだし、宴を始めようぞ」

 そういうとフォルト国王はパンパンと二回手を叩く。
 
 すると、テーブルを囲むように並んでいた使用人たちが一斉に動き出した。

(うわっ、すげぇ! 軍隊みたい)
 
 無駄のない動きでテキパキと作業をしていく。
 そしていつの間にかテーブルは沢山の料理で彩られていた。

(やばっ、めっちゃうまそう……)

 思わずヨダレが出そうになる。
 そういえば王都に来てからロクに食事をしていなかったな。

 カネがないから最低限の物しか食べれず、食事も一日に一回ならベター。

 だから酒場の前を通っては空腹を匂いだけで我慢した日もあった。

「では、ランス殿。料理を前に悪いが、少しだけ彼らの紹介をさせていただきたく思う」

 ”彼ら”というのは多分同席してきた人たちのことだろう。
 
 正直、今すぐにでも料理に手をつけたいところだが、ここは王城での気品高き食会。
 流石にがっつくわけにもいかない。

 そこらの大衆酒場とはワケが違うのだ。

 俺はその紹介とやらを聞くことにした。

「では、まずは我が愛しの――」

「お父様! その言い方は止めてくださいって前にも言ったじゃありませんか!」

 なんかソフィアが国王の紹介の仕方にダメ出しをし始めた。
 ダメだしされた国王も「うっ」と顔を歪め、

「べ、別にいいではないかソフィアよ。お父さんは本当にソフィアのことを――」

「それは二人きりの時に言えばいいじゃないですか! 今回はお客様もいるのですよ!?」

「んもう……相変わらずソフィアは堅いなぁ……」

「お父様が無神経なだけです!」

「ぐぬぬっ……!」

 おいおい、なんか身内で喧嘩は始まったぞ?
 というか二人きりならいいのね……。

 だがすぐにソフィアは我に返ると、

「はっ、申し訳ありませんランスさん。お見苦しいところを……」

「い、いえ……お気になさらず」

 見苦しいというか逆にほっこりした。
 王族ってもっと厳格なイメージがあったから少し驚いたけどね。

「ご、ゴホン! では、引き続き紹介を……」

 あ、続けるのね。
 ……というわけで気を取り直して紹介を続けることに。
 
「もう娘から紹介があったとは思うが、貴殿の隣にいるのが騎士長のアルバートだ」

「改めて宜しく頼む、ランス殿」

「こ、こちらこそ……」

「そしてその向こう側にいるのが、王宮魔法師団師団長のレイムだ」

「宜しく、ランス殿!」

「お、お願いします……」

(レイム……? ってまさかあの!)

 レイム=キルヒ・アイゼン。
 先の大戦では万人殺しと言われた最強の魔術師。

 通称『紅蓮の女神』。

 俺も学生の頃は宮廷魔術師に憧れていたもんだから、この人の名前は何度も耳にしたことがあった。

 今までは魔術書に載っていた写真でしか見たことがなかったけど……

 実物は写真以上に綺麗な人だった。
 
 さらっとした赤い髪に透き通った真紅の瞳。
 スタイルはもちろん、出るとこはしっかり出てて女性としての魅力もグッド。

 その美貌に思わず目が一点に集中してしまう。

「ん、どうしたランス殿。何か私の顔についているか?」

「え、いや……」

「お前の顔があまりにも老け過ぎていて驚いたんじゃないか? なんだこの若作りババアはってな。はっはっは!」

「あ? おいお前、今なんつった?」

 ……え。

 突然始まる騎士長閣下と師団長閣下のリアルファイト。
 不幸なことに隣同士であったためか、バチバチと火花を散らし合う。

(え、どゆこと? 今何が起こってるの? てかレイムさん語調荒すぎない!?)

 唐突のことで情報の整理が追い付かない。
 気がつけば二人の争いはヒートアップしていた。
 
「ん、聞こえなかったか? 若作りババアって言ったのだが」

「……二度も言ったな、お前」

「お? なんだやる気か?」

「ああ。今すぐ表出ろこのクソゴリラ」

 あれ、何かヤバくないこの状況。
 しかもなんでみんな止めないんだ? 

 一番こういうのに敏感なソフィアも何か溜息ついて見守ってるし……

「お前たち、今は宴会の席だぞ! 何をやっている!」

「「……ッ!」」

 と、ここでようやく国王陛下が直々に二人に忠告。
 二人の動向はその瞬間、ピタッと止まった。

「「も、申し訳ありません、陛下!」」

 お、息ぴったり。
 
 二人は同時に謝罪する。
 それでも尚、顔を会わせて睨み合っているけど……。

(な、なんかすごいな……色々と)
  
 度重なる出来事に圧倒される(色々な意味で)。

 でもまさか国家騎士の団長さんのみならず宮廷魔術師のトップまで出てきてしまうとは……。
 
 他にも国の参謀や各大臣など「おいおい今から国儀でもやるのかよ」ってくらい国の要人ばかりが大集結していた。

「さて、一通り紹介が終わったということでそろそろ宴と行こうか」

(お、待ってました!)
 
 ようやく始まる宴。
 もうお腹が空きすぎて頭がクラクラしかけていた。

 よ~し、今まで食ってこなかった分死ぬほど食うぞ!

 こうして。
 波乱の余興は幕を閉じ、宴は始まったのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

処理中です...