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22.勧誘されました

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「――お困りのようですね」

 振り返り、そこにいたのは見知らぬイケメン。
 爽やかな笑顔と白い歯を向けながら話しかけてきた。

「あ、あなたは……?」

「僕はリベル。きみがランス・ベルグランドくんかな?」

「そ、そうですけど……」

 なんだこのイケメン!? 俺の名前を知っているだと?

 しかもフルネームで……

「いきなり話しかけてすまない。少しきみに用があってね。少し時間を貰えるかな?」

 爽やかさはそのままに。
 リベルと名乗るイケメンはそう言ってくる。

「え、えーっと……セールスか何かですか? それならお断りしますけど」

「いやいや、そんな理由じゃないよ。大丈夫、怪しい系の人じゃないから」

 と言ってもなぁ……俺には過去の経験があるし。

 あ、ちなみに過去にもこういうことがあってその時は承諾して付いていったのだが、まさかのセールスだったっていう。
 爽やかな顔してぼったくり冒険者グッズを売られた。

 あの時も結構なイケメンだったから、突然イケメンに話しかけられると警戒してしまうのである。

(それに今はソフィアもいるし……)

 泥酔状態だからなお危険。
 連れていかれたら、俺の首はチョンパ必至だ。

(どうするべきか……)

 と、警戒の眼差しで見ているとイケメンは苦笑する。

「あはは……どうやら警戒されちゃっているみたいだね」

「すみません。突然話しかけられたことで良い思い出がないもので……」

 失礼ながらはっきりと。
 だがイケメンは聖人並の微笑みで、

「なら、これを見てくれたら気が変わるかな」

 何かを差し出してくる。
 
「これって……ギルドカード」

「そう。こう見えても僕、冒険者なんだ」

 しかもそのギルドカード、俺のとは少し色が違った。
 
(ゴールドカード……ってことは)

「A級冒険者……なんですか?」

「まぁ一応ね」

 まさかまさかの高等級冒険者さんだった。

 職業は剣士。
 魔法適正はA。

 ステータスも流石はA級冒険者と言ったところ。

 どれも平均して高かった。

 でもなぜA級冒険者が?
 
(俺に何の用があるってんだ?)

 でもとりあえずセールスマンじゃないことだけは分かった。
 と、なれば断る理由もなくなったので、

「分かりました。お話を伺いましょう」

「ありがとう。えーっとそちらのお嬢さん的に僕がこっちの席に座ったほうがいいみたいだね」

 リベルはソフィアの方をちらっと見るとそう呟いた。

「ランスぅ~その人だれぇ~?」

「すみません、少し騒がしいですが」 

「いやいや、気にしないでくれ。それよりもそこにいるお嬢さんにこれを――」

 そう言ってリベルは白い粉の入った袋を渡してきた。

「これは……?」

「分解薬だよ。これを飲めば彼女も少しは落ち着くだろう。このままじゃ二日酔いまっしぐらだよ」

「分解薬……」

 俺が手に取った粉をマジマジと見つめていると、

「そんなに警戒しなくても毒は入っていないよ。ただ少しだけ睡眠作用はあるけど」

「いえ、警戒だなんて……」

「まぁ、今でなくてもいいよ。お嬢さん、もう夢の中みたいだから」

「えっ……? あ……」

 ソフィアの方を見てみると机に突っ伏し、ぐっすりと眠る姿が。

(いつの間に……)

「一応それは渡しておくよ。帰りにでも飲ませてあげるといい」

「あ、ありがとうございます」

「じゃ、そろそろ本題に入ろうか」

 そう言ってリベルは本題を語り始めた。

「まず、僕がきみに声をかけた理由ワケから言おう」

 いきなり結論から言うみたいだ。
 俺はゴクリと息を呑み、身構える。

 すると次の瞬間、彼の口からは思いもよらぬ言葉が出てきたのである。

「ランスくん、僕はきみをパーティーに勧誘するために声をかけたんだ」

「……勧誘? ……って、俺をですか!?」

 まさかの一言。
 俺の聞き間違いでなければ俺は今、パーティーに誘われた。

 それくらいで何を……と思うかもしれないが、俺にとっては驚きの出来事。
 
 だって今まで幾度となくパーティー参加を断られた挙句、勇気を振り絞って入れてくれと言っても追い返されるのが普通だったからだ。

 向こうから、しかもA級レベルの冒険者がパーティーに入らないかって言われるなんて夢のまた夢だったはずなのに……

「どうして俺を勧誘しようと思ったんですか?」

 理由を聞いてみると、リベルは即答した。

「それは決まっているだろう。きみがあのイェーガーウルフを倒した凄腕冒険者と見込んでだ」

 やはりその一件が響いているわけか。
 でも……

「信じるんですか? 俺が倒したってこと」

 冒険者の間ではギルドが公式に認定した今でも俺がイェーガーウルフを倒したことに半信半疑の者もいる。
 G級冒険者である人間が危険級指定の魔物を一人で倒すなんて、天地がひっくり返っても考えることが難しいことだからだ。

 だがリベルはそうではなかった。

「僕は信じるよ。だって、きみの実力は前々から知っていたからね」

「ど、どういうことですか?」

「前に山脈でのホブゴブリン討伐にパーティーで出向いた時にたまたまきみを見かけたんだ。ホブゴブリン数十匹相手に一人で無双するきみをね」

「ホブゴブリン……ああ、あの時か」

 心当たりあり。
 ほんの一か月前に爆発系魔法の開発に成功したから爆発系統に耐性のあるモンスターで実践しまくっていた時だ。

「僕はあの時のきみの姿を見て、夢でも見ているかのような感覚に包まれたよ。僕らは元々王都の人間じゃないからきみがG級冒険者だって聞いた時は耳を疑ったね」

「じゃ、じゃあ俺のことはその時から……」

「ああ、目をつけていた。いつかは自分のパーティーに入ってほしいってね。一応パーティーリーダーなんだけど攻撃役が僕しかいなくてね。自分と同じくらいかそれ以上の冒険者を探していたんだ」

 なるほど……理由はわかった。 
 でもこれは俺だけが決めていいことではない。

 今の俺にはソフィアというパーティーメンバーがいる。
 彼女からも意見を聞かないと、答えを出すことはできない。

「理由は理解しました。ですけど、俺のパーティーメンバーにも聞かないといけないので答えはまだ……」

「構わないさ。また後日でも会ってゆっくりと話す時間を設けたいと思っている。今日は挨拶代わりって感じの認識で大丈夫だよ」

 するとリベルは席からスッと立ちあがり、

「さて、歓談の邪魔をしてはいけないし僕はそろそろこの辺で失礼するよ。あ、あときみにこれを渡しておくよ」

 と、言ってリベルは服の胸ポケットから一枚の紙きれを取り出し、渡してきた。

「これは何ですか?」

「僕のパーティーが活動の拠点にしている酒場バーだ。大体夜はそこにいるから、お嬢さんが元気になったらまた来てほしい。あ、もちろん好きな時で構わない。自分たちのタイミングで来てくれ」

「わ、分かりました」

「じゃ、僕はこの辺で。良い夜を」

 そう言ってリベルは最後にまた爽やかな笑顔を放つと、酒場を出ていった。

「パーティー勧誘……か」

 俺は渡された紙切れを見ながら、そう呟く。
 
「なんか、本当に人生が変わった気がする。……怖いくらいに」

 未だに今の自分が自分ではないかのように思う。
 割とここ最近、そればっかり考えている気がするよ。

(……帰るか)

 そう思い、勘定を用意して席を立ちあがる。
 
 が……俺は一つ、重大な問題に気がついた。

「どうやってソフィアを連れて帰ればいいんだ……?」
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