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51.想定外
しおりを挟む「な、なんだこの音は?」
「す、すごい魔力を感じます!」
その轟音で皆も異変に気付く。
それほどただならぬ不穏な空気が森中に漂っていた。
「リベル、これはマズい。今すぐここから離れるべきだ」
「そうよ。この魔力量は普通のモンスターじゃない。これはもしかすると、魔物……いや、それ以上の存在である可能性が」
ボルとルナの焦りようからこの事態がいかに異常事態が分かる。
確かにスゴイ魔力だ。
魔力の波動が肌に伝播してピリピリする。
「リベル、どうする? 今回は俺たちだけじゃなくランスくんたちもいる。ここは撤退が濃厚だろう」
二人の言う通り、ここは早々に森から抜け出すのが無難であろう。
だがパーティーリーダーのリベルはしばらく無言になると、難しい顔をして何か考え込む素振りを見せる。
リベルが今何を考えているか。
何を思っているのか。
俺には大体察しがついていた。
冒険者として苦渋の判断となることだ。
「リベル……!」
無言を貫くリベルにボルが声を張り上げ一喝した……時だ。
リベルはフッと顔を上げると、俺たち全員を見渡す。
「みんな、一つだけ聞きたいことがある」
こう前置きを挟むと、リベルは再び喋り出した。
「これは僕の我儘であり、無理に強制するつもりはない。でも、それでも僕についてきてくれるというのなら……力を貸してほしい」
♦
俺たちは森中を走る。
荒野を駆け抜ける野獣のように。
目標の場所までもうあと少し。
俺の探知魔法を頼りに、俺たち一行は進んでいく。
「ごめんよ、ランスくん。まさかこんなことになるなんて……」
「いえ、これも自分の意思で決めたことなんで。それにこのまま野放して、被害が増えるのは俺も嫌ですからね」
そう、俺たちは探していた。
その膨大な魔力を発生させるものの正体を。
こういった経緯に至るまではほんの数分前にまで遡る。
……
……
「みんな、僕はこれからこの魔力を発生させているモンスターの正体を暴きにいこうと思っている」
「ほ、本気か? リベル? お前も分かるだろう? こいつは尋常じゃない」
「それくらい僕も分かってるさ。でもだからこそ、少しでも証拠と証言を持って帰る必要がある」
「ギルドのため……ですか?」
咄嗟に声が出る。
するとリベルは二回頷くと、
「その通りだよランスくん。これは今後、ギルドが冒険者たちに依頼を出しやすくするための布石だ。もし相手が正体不明のモンスターあるいは魔獣だった場合、調査団を送りこまないといけないこともあり得る。前に起きたイェーガーウルフの時のようにね。ギルドは証拠がないと動けない。このまま情報を持ち帰らず背を向ければ、発見と対処が遅くなるのは確実だろう。そうなってしまえば……」
「冒険者や近隣住民の方に被害が……」
「うん、その可能性は十分にある。だからこそ、行かないといけないんだ」
リベルの言っていることは正しい。
冒険者であるなら、こういった異常事態にこそ背を向けてはならない。
ただ、モンスターを狩って金を稼ぐだけが冒険者の仕事じゃない。
もとはモンスターや魔物から一般市民を守るために戦うことが冒険者としての本来の姿なのだ。
「そ、そりゃそうかもしれんが……今日は俺たちだけじゃ」
「そうよ、リベル。私たちだけならまだしも、ランスくんたちに迷惑をかけるわけにはいかないわ」
かといってリベルの意見を全部肯定するわけではない。
ボルやルナの言うことも正しい。
嬉しいことに二人は俺たちにすごい気を遣ってくれていた。
俺とイリアはそれなりに冒険者としての経歴があるから、何とかなるだろうが、ソフィアはまだ冒険者になってからほんの少ししか経っていない。
おまけに彼女はこの国の未来を背負う王女様だ。
もし今回の一件で大けがでもしたら色々と大変なことになる。
特にあの親バカ国王陛下が黙ってないだろう。
でもリベルとってそんなことなど全て承知の上での発言だった。
「分かっているよ。だから僕はこの件について強制をするつもりはない。王都に帰ってこのことを知らせてくれるだけでもいいんだ。これは僕の冒険者としての勝手な拘りみたいなものだ。皆に迷惑をかけるつもりはない。もし共に行ってくれるのならこの責任は全て僕が取ろう」
「リベル……」
多分、このままだと一人ででも彼はいくつもりだ。
口ではそうはいってなくとも目がそう言っていた。
だが俺もリベルと同じ意見を心に潜めていた。
もちろんソフィアのこともある。
でも……
「俺は賛成ですよ、リベルさん」
我慢ならず口に出てしまった。
「ら、ランスくん?」
突然の開口に驚くリベル。
俺も先ほどからリベルと同じ心境を持っていたということを話した。
「俺も同じです。今ここで俺たちが背を向けたら、事前に防げたはずの被害が出てしまう可能性があると思います。それに俺は一度、そういう場面に遭遇してますから」
と言って俺はソフィアの方を見る。
あの時も本当に唐突だった。
未だに自分でもソフィアが襲われていたこと以外の記憶が不透明だけど、他の誰かが同じ境遇に陥るのは避けたい。
早めに対処すれば多くの人の命を救うことにも繋がる。
俺はそんな想いをリベルたちにぶつけた。
「ランスくん……本当にいいのかい?」
「はい。僕はついていきますよ。それにぶっちゃけどんな奴か気になりますし!」
ウソではない。
これほどの魔力……一体どんな強い奴なのか気になるのは冒険者として性みたいなものだ。
だがこの後、俺に続いて賛同する者が現れた。
「ら、ランスが行くのならわたしも行きます! わたしの力でより多くの民を救えるのなら、一国の姫として尚更行かないといけません!」
「わ、わたしもランスが行くなら行こうかな~? ぶ、ぶっちゃけめちゃ怖いけど……」
「イリア……ソフィア……」
「ふっ、本当に勇敢な少年少女たちだ。俺たちの方が子どもだったようだな、ルナ」
「ええ。でもおかげでわたしも決心がついたわ」
賛同者が増えていく。
そして最終的に全員で行くことに決定。
リベルは深々と頭を下げると、
「ありがとう、みんな。ありがとう!」
そんなわけで俺たちは森の奥へと足を進めることになったのだ。
……
……
そして話は戻る。
俺たちはもうその魔力発生の主がいるすぐ近くまで来ていた。
「みんな、警戒態勢に入ってくれ。ターゲットはすぐそこだ」
リベルの指示でみんなの表情がより一層険しくなる。
そしてさらに進んでいくと――ついにその正体が明らかとなった。
「あ、あれは……」
「う、ウソだろ……おいリベル!」
「……!」
先頭を行くリベルたちが急に立ち止まると、目を大きく見開き、そのターゲットを見つめる。
俺たちも背後から前方を見てみると、そこにいたのはまさしくとんでもない奴だった。
「あ、あれって……」
ドラゴン……なのか?
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