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53.やるしかない!

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「ランスくん、ドラゴンは非常に聴覚に優れている。出来る限り、物音を出さないようにするんだ」

「わ、分かりました」

 森林内に静かに潜む二人の影。

 俺とリベルはじっと目の前にいる脅威を陰から眺めていた。
 
「ごめんよ、ランスくん。こんな僕の我儘に付き合わせてしまって」

「いえ、これは俺が望んだことなんで」

 他の四人。
 
 ボル、ルナ、ソフィア、イリアは今、王都に帰っている。
 この状況をギルドの報告するためだ。

 そのための証拠ももちろん持ち帰ってもらった。

 そして討伐隊等がここに来るまでの間、俺たちは監視の役に。
 
 とはいっても、危険な上に相当長い時間ここにいることになるだろう。

 ギルドが確認を取って討伐可能な冒険者を派遣するまでどんなに早くてもそれなりの時間はかかる。

 それまでにこのままで行けるかどうか。

 もし見つかったら本当に死ぬか生きるかの瀬戸際になりそうだし。
 
 できればずっとこのまま時間が流れてほしいと切実に思う。

「まだ動く気配はないね」

「そうですね」

 未だドラゴンに大きな動きはない。
 ただひたすらキョロキョロと辺りを見渡しながら右往左往しているだけだ。

「何をしているんでしょうか?」

「多分、何かを感じ取っているのだろう。例えば魔力とか」

「魔力って……まさか俺たちの存在が?」

「バレてはいないと思うけど、直感的なもので感じ取っているんだと思う。向こうにも魔力を探知する能力は当然持っているだろうからね」

 もしそうならあのドラゴンが今探しているのは俺たちってことか?

 微かに感じる気配と魔力を頼りに。

「これからどうしますリベルさん」

「今はこの状態をキープだね。このまま何もなければいいんだけど」

 俺もそう思う。

 が、世の中そう甘くはない。

 突然背後にある道路から話し声と共にコツコツと足音が聞こえてくる。
 
「だ、誰か来た!?」

「マズイ、このままだと……」

 背後を見ると男女ペアの冒険者がまっすぐこちらに歩いてきていた。

「………………!」

 静まりかえる森の中に聞こえてくる足音。
 近づいてくるごとにその音量は上がっていく。
 
 そして同時にドラゴンの動きがピタリと止まる。

「ら、ランスくん……!」

 一足先に危機を感じたのはリベルだった。
 だがその声が俺の耳に届いた時には目の前にドラゴンの姿はなく。

 気づけば、二人に冒険者の方へ標的に定め、走っていた。

「ランスくん、走るよ!」

「は、はい!」

 俺はリベルの指示でその後についていく。
 そしてその異変は当然、二人の冒険者にも伝わり始めていた。

「ん、なにこの音?」

「モンスター……かな?」

 二人が警戒を始めた頃にはもうその剛体は背後で息を潜めていた。
 巨体は二人の背後で咆哮を一発、響かせる。

「な、なんだ……はっ!?」

「な、なに……!?」

 咆哮に気付き、背後を向いた二人はその場で固まる。
 まるで思考が停止したかのようにその頭上にまでそびえたつ巨体を眺めていた。

「う、ウソ……だろ? こ、ここ……これって……」

 男の冒険者が震える声で指を指す。
 足もガクガクと痙攣したかのように震え、恐怖が心の全てを支配。

 二人はもう、その圧倒的脅威の前に逃げることすらできなかった。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 再び咆哮をあげるドラゴン。
 そしてその咆哮が殺戮開始の合図となったのか、その鋭く尖った前腕を二人めがけて振り下ろす。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 森中に響く大きな悲鳴。
 だがその一撃を何とか受け止める一人の青年の姿があった。

「な、何とか間に合った……ランスくん!」

「はい! ≪ファイア・ボール≫!」

 俺は火属性魔法を放ち、ドラゴンに数発ぶつける。
 一応牽制用の下位魔法なのだが、何故か効いているようでドラゴンは悲痛の叫びをあげる。

 その間にランスは二人に駆け寄ると、

「二人とも、早く逃げて。ここは僕たちが引き受ける」

「す、すまん。助けてくれてありがとうな」

「ご、ごめんなさい!」

 二人はもう恐怖で頭が真っ白になっていたのだろう。
 枯れた声で何とか謝罪を済ませると、慌ててその場を去って行った。

 こうして取り残された俺とリベル。

 リベルは腰に据えた剣を構え、俺に次なる指示を出してくる。

「ランスくん、僕が前衛をやるから後衛をやってくれ。こうなったらもう出来る限り、戦いながら時間を稼ぐしかない!」

 どう考えても無謀な策だ。
 こうなった以上、戦うほかないが、何故かリベルの顔には焦りはなかった。

 こうなることは予め予想していたからか、または何か策があるのか。

 どちらにせよ、二人だけでドラゴンこいつと戦わないといけないことは確定事項だ。

 俺は後衛。
 出来る限り、リベルだけが負担にならないように補助魔法を付与しないといけない。

 俺は体内に流れる魔力を解放。
 臨戦態勢を整える。

「ランスくん、強化魔法をお願いできるかな?」

「りょ、了解です!」

 俺はリベルに身体強化の魔法を付与する。
 リベルの爽やかな表情が一変、険しいものに変わり、いよいよ戦闘が始まる。

「……行くよ、ランスくん!」

 リベルはそう強く叫ぶと、その剛体めがけて突進していくのだった。
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